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消費増税、根拠無き楽観論の罪

カテゴリ:円・ドル・人民元 通貨で読む世界

 【お金は知っている】責任者たちはザックを見習え 消費増税の失敗が現実に

7.4
 
 サッカー・W杯のブラジル大会で、日本チームは1次リーグ敗退に終わった。国際サッカー連盟(FIFA)の世界ランキングで46位の日本が勝ち抜くのは困難なのに、日本のメディアは実力を過大評価しすぎていた。こうあってほしい、という願望が優先し、それに沿ったストーリーだけが横行した。
 
 翻って、デフレ下の消費税増税についての日経新聞などの論調をみると、その思い込みと根拠なき楽観キャンペーンぶりはサッカー報道どころではない。
 4月の消費税増税が及ぼす負の影響について、2012年8月の消費税増税法の国会成立、13年10月初めの安倍晋三内閣による14年4月からの消費税率8%の引き上げ最終決定、そしてこの4月以降と、メディアは問題視しなかった。
 
 4月以降の消費の落ち込みについて、日経は「想定内」を連呼し、大手企業を中心にアンケートして、「夏場には消費が回復する」との見方が大勢だと強調。増税による景気への悪影響を否定する財務官僚やその御用学者、さらに予定通り増税しても金融緩和で「脱デフレは可能」とする黒田東彦日銀総裁の発言を真に受けてきた。
 
 現実はどうか。グラフは総務省が6月28日に発表した「家計調査」に基づく勤労者家計の実質消費と実質収入の動向である。消費は増税前の駆け込みから一転して4月に急減し、5月はさらに下落した。駆け込み消費時を除いて昨年3月以降のトレンドをならしてみると、明らかに家計消費は下降線を描いている。夏場には消費の反動減がおさまって、景気が巡航速度になる兆しは全くない。
 
 もっと恐るべき事実は、実収入の急減ぶりである。収入源の大半は賃金・給与で、春闘によるベアの結果、大企業の場合、賃金水準は名目で1~2%上がった。ところが、消費者物価上昇率3・4%にはるか及ばない。
 
 物価上昇率を除いた収入である実収入は4月は前年同期比マイナス7・1%だった。ベアのほぼすべてが給与に反映するのは5月だが、さほど改善せず、マイナス4・6%に低迷している。「消費減は想定内」(麻生太郎財務相)とは噴飯モノだ。
 
 「有効求人倍率は5月1・09倍で、景気拡大基調が続いている」との反論はあるだろう。しかし、求人倍率の上昇は求人数の増加というよりも求職者の減少が影響している。新規求人の38%以上がパートタイムで、企業は依然として正規雇用者を増やすのに慎重だ。企業は消費や輸出の動向からみて、景気の先行きに確信が持てないから、柔軟に調節できるパートの雇用に走るわけである。
 
 今後、消費需要減を受けて企業が新規求人を減らすとき、賃金はもう上がらない。実質賃金下落が続くなら、デフレ圧力は再燃し、「アベノミクス」も不発、日本経済は元の木阿弥(もくあみ)だ。サッカーなら責任は監督がとる。増税を仕組み、その促進キャンペーンを展開した者たちよ、ザックに見習え。 (産経新聞特別記者・田村秀男)