きのこの名称 | 三十九さんの部屋

三十九さんの部屋

いざゆかん!民のために!

きのこに限らず、生物の種には「おきて」(命名規約)に従って名称が付けられている。

世界共通の学術的名称が「学名」。
これは命名規約に従って命名されたものなので、学術的には世界共通で使用される。
学名はある生物が新種であることを記載した論文が認められれば、そこで提唱された名称が学名として採用される。
学名は基本的にラテン語で付けられる。
中にはギリシャ語をラテン語化したり、人物名や地名に基づいて付けられる場合がある。また、日本人が記載した新種には日本語が使われる場合がある。

学名は「二名法」といって、「属名」と「種小名」で構成される。これは植物分類の祖とされる18世紀の植物学者リンネが提唱したもの。

例:マツタケ
学名 Toricholoma matsutake (S.Ito & Imai)Sing.

この場合、「Tricholoma」が属名(この場合は「キシメジ属」)で、「matsutake」が種小名である。
この種小名「matsutake」は見ればわかるとおり、「マツタケ」から付けられている。
種小名の後の「(S.Ito & Imai)Sing.」は命名した人物の名前。
この命名者が最初の命名者だけなら、一人の名前だけが付くが、このマツタケの場合は、最初に「S.Ito」(伊藤さん?)と「Imai」(今井さん)により命名され、その後に「Sing」(Singerさん)が研究によりマツタケの属の所属を変更することを提唱して認められたことを表している。
「マツタケ」は、最初1925年に伊藤氏と今井氏により「Armillaria matsutake」と命名された。「Armillaria」はナラタケ属。しかし、1943年にシンガー氏がマツタケをキシメジ属(Toricholoma)に所属を変更したため、学名が「Toricholoma matsutake」となり、最後にシンガー氏の名前が入ることになった。

さらに細かくいろんなことを表す決まり事があるが、種小名の後に「var.~」とつくものは変種のこと。

学名は基本的にラテン語で付けられるということだが、この学名をどう読んだらいいのか?
ラテン語は古代の言語で、現在これを言語として使用している人はいないのでいわば「生きていない言語」といえる。話す人がいないので実際にどう発音するのか聞くことができない。
しかし、基本的にはローマ字読みするのが近いといわれる。それでも単純なローマ字読みとはちがう部分もある。
「V」+母音の場合は「ヴァ」とかではなく「ウァ」などとされる。
「C」+母音の場合は「サ」行ではなく「カ」行とされる。
「C」や「T」の後に「H」がついても先の子音+母音とされる。
「J」+母音は「ジャ」行ではなく「ヤ」行とされる。
しかしながら、英語圏は英語風に発音されたり、人によって好きなように発音されている。そもそもラテン語を忠実にカタカナ表記や発音することなどできない。

「クヌギタケ属」は「Mycena」と書く。上記の法則にのっとれば「ミケナ」とでもいうべきかもしれないが、人によっては「ミセナ」とか「マイセナ」という。
「きのこ写真」コーナーでは目別にきのこを掲載し、学名の読み方と意味を書いているが、もちろん、この読み方も絶対のものではない。

それから、学名はその生物種の名前として付けられたものだが、学名は同じ種の集団の名前を表しているものの、その名前自体はひとつの標本に対して付けられたものである。例えば、ある新種の生物に学名を付けようとすれば、ひとつの標本を指定して、その標本の生物の特徴などを記載して、それをなんと呼ぶのか提唱する。同じ学名で呼ばれる同種とされる集団は、その学名が付けられた標本と同一種であると判断されてそう呼ばれる。その学名のもととなった標本「タイプ標本」は、どこかの博物館などに「この種のタイプ標本ですよ」ということで大切に保管されている。
学名を付ける場合は1個体でも標本を採取し、それを指定しなければならない。どっかで見かけた生き物が新種と思われるのでそう名付けました、ではだめ。

和名について
「マツタケ」の場合は「標準和名」は「マツタケ」である。世間一般では「松茸」や「まつたけ」と表記されることが多いが、生物種の名称として記載する場合は「マツタケ」とする。
「学名」が国際的な命名規約によって名付けられるのに対し、標準和名については特に命名規約などない。ではどうやって名付けられるのか?
マツタケなんかは学名がつく前から国内で一般的にそう呼ばれていたから、自然にそれが標準和名としてだれもが認めるところだが、最近になって新種として記載された場合は、たいがい新種の記載者が命名する場合が多いと思われる。中には正体不明の種に「仮称」などといろんな名前を付ける場合があるが、そういうのは混乱のもとなのであまりしないほうがいい。
標準和名以外に、同じきのこでも地方によって呼び名がちがう場合がある。「ナラタケ」は「モタセ」とか「ボリボリ」などと呼ばれたり、「ハナイグチ」は「ジコボウ」とか「ラクヨウ」などと呼ばれる。これらは標準和名ではないが、むかしから地域でそう呼ばれて親しまれてきたもの。
中にはややこしいものがあり、「イッポンシメジ」という名称は、標準和名としては「entoloma sinuatum」に対して付けられているものだが、地方によっては「クサウラベニタケ」や「ウラベニホテイシメジ」をそう呼ぶ場合がある。注意しないと、ある人は「イッポンシメジ」を標準和名として使っても、ちがう人は「ウラベニホテイシメジ」のことととらえてしまう場合も考えられる。