胎児発育不全の管理 後編 | 産婦人科専門医・周産期専門医からのメッセージ

産婦人科専門医・周産期専門医からのメッセージ

 第一線で働く産婦人科専門医・周産期専門医(母体・胎児)からのメッセージというモチーフのもと、専門家の視点で、妊娠・出産・不妊症に関する話題や情報を提供しています。女性の健康管理・病気に関する話題も併せて提供していきます。

 FGRに対する管理は、前回紹介したようにその原因検索が一番大切です。そして、FGRの原因そしてその背景に予後不良の可能性がある場合には妊娠中・分娩時・出生後の方針に関して十分なカウンセリングが必要であり、その後の管理は施設ごとに患者さんごとに異なってくることでしょう。

 一方、FGRの原因そしてその背景に予後不良の可能性がない場合には、管理の方向性は「胎児のwell-beingを注意深く評価・フォローアップし、できるだけ適切なタイミングで児を娩出すること」につきます。

 胎児のwell-beingを注意深く評価・フォローアップするためには、原則的に入院管理とすることが望まれますが、施設因子や患者背景あるいはFGRの程度によっては週に2~3回の外来での密なフォローアップも許容されることでしょう。


 今回は胎児のwell-beingの評価方法について紹介しておきます。FGRでは慢性的な胎児低酸素症のことが多く、進行するとそれに適応して脳・心臓・副腎への血流増加とその他の臓器(腎・筋・骨・消化管など)への血流減少がおこります。さらに重症になると、心不全などがおこり代償不全に陥ってしまいます。これを未然に発見し予防するために頻回の胎児評価が必要となります。

①NST(non-stress test)とCST(contraction stress test)
 NSTは毎日1~2回行うことが推奨されます。CSTに関しては必要時の評価になります。

 NSTは慢性的な低酸素症の評価に有用ですが、FGRでは潜在的に予備能が減少していることが多いので、NSTでreassuring patternであったとしても安心できません。基線細変動の減少や変動・遅発性一過性徐脈の出現に注意していくことになります。

 NST単独ではなく、後で紹介する胎児血行動態の評価と併せて総合的に判断することが必要になります。


②BPS(biophysical profile scoring)
 週に1~2回行うことが望まれます。6点以下の場合には36週以降であれば積極的に分娩としていきます。しかし、35週以前の場合には児の娩出に関しては総合的な判断が必要です。

 FGRにおいては羊水量の減少を伴うことも多いのですが、羊水量減少例では臍帯圧迫による影響をうけやすく、胎児は更なる低酸素症へと進展する可能性があるので注意が必要です。


③パルスドップラー法による胎児血行動態の評価
 胎児の臍帯動脈・中大脳動脈・下行大動脈あるいは母体の子宮動脈などのPIおよびRI、胎児下大静脈のpreload index、胎児の静脈管の血流波形などが測定されます。

 FGRにおいて最初に登場する所見は臍帯動脈のPI値の異常です。そして、臍帯動脈の拡張期末期の血流途絶や逆転は胎児の神経学的予後あるいは生命予後の不良因子と認識されています。そのため臍帯動脈の拡張期末期の血流途絶や逆転が見られた場合には胎児機能不全の兆候が出現したと判断し児娩出が考慮されます。

 ただし、臍帯動脈のPI値の異常値出現=胎児機能不全とはなりません。臍帯動脈の拡張期末期の血流途絶や逆転が見られて初めて胎児機能不全の根拠となります。しかしながら、臍帯動脈のPI値の異常値出現が見られた場合には、今後の胎児の予備能悪化につながっていくかもしれませんので慎重なフォロアップが必要であることは間違いありません。

 中大脳動脈のPI値の低下あるいは臍帯動脈PI/中大脳動脈PI比の上昇は胎児低酸素症によって血流の再配分が起こっている可能性を推測させます。

 FGRによる胎児機能不全が進行すると、胎児下大静脈のpreload indexが上昇します。これは心室負荷の上昇によるものであり、胎児のアシドーシスやNST異常を推測させます。

 また母体の子宮動脈血流の減少(PI値の上昇)は胎児への酸素や栄養供給が減少していることを示唆しています。


④超音波による胎児計測の推移
 胎児発育の経時的推移を評価していくことはとても重要になります。

 胎児期や新生児期に頭部発育が抑制されたFGR児では長期予後が不良であることが知られています。とりわけ、2週間以上頭囲の発育が見られていないFGR児では、生命予後のみならずてんかんや脳性まひなど神経学的予後も明らかに不良であるとのデータがあります。

 したがって、超音波による胎児発育の評価においては推定体重や頭部発育の推移を重点的にみていくこと、そして推定体重の増加停止や頭囲発育の停止がないかどうかを確認していくことが重要です。


⑤胎児採血
 胎児から直接採血して血液ガス分析を行うことが可能です。必要に応じて染色体の検査や感染の検査も可能です。しかし、侵襲が大きくリスクを伴う検査であるため、頻回に行うことは難しく、FGRの日々の評価には適さないと思われます。



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