妊娠子宮摘出術 〜前編〜 | 産婦人科専門医・周産期専門医からのメッセージ

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 第一線で働く産婦人科専門医・周産期専門医(母体・胎児)からのメッセージというモチーフのもと、専門家の視点で、妊娠・出産・不妊症に関する話題や情報を提供しています。女性の健康管理・病気に関する話題も併せて提供していきます。

 妊娠子宮摘出術(obstetric hysterectomy)とは文字通り妊娠している子宮を摘出する手術です。主に経膣分娩後の産褥期に行われる場合(postpartum hysterectomy)と帝王切開に引き続き行われる場合(cesarean hysterectomy)とがあります。この他に、妊娠中の胎児を子宮内に置いたまま子宮摘出を行うもの(antepartum hysterectomy)があります。

 1876年にEduard Porroが、帝王切開に引き続いて母体救命のために子宮摘出を行ったという症例報告を最初に行ったことから、今でも帝王切開に引き続いて行う子宮摘出のことをポロー手術ということがあります。

 妊娠子宮摘出術の適応です。以下に列挙してみます。
A)緊急
子宮破裂:自然破裂、外傷による破裂
後腹膜血腫:広範囲の場合
胎盤異常:癒着胎盤(嵌入・穿通胎盤も含む)、前置胎盤、常位胎盤早期剥離
産褥出血:弛緩出血、子宮内反症
敗血症:子宮筋膿瘍
子宮外妊娠破裂:頚管妊娠、副角妊娠

B)非緊急
婦人科疾患合併:子宮筋腫、子宮頸癌、卵巣癌

C)選択的
帝王切開瘢痕部の異常:切開創の縫合が不可能など
婦人科疾患:子宮内膜症、骨盤内炎症性疾患、重症骨盤内癒着など

 緊急での妊娠子宮摘出術の適応で最も多いのは弛緩出血です。次いで子宮破裂、3番目が癒着胎盤になります。近年は、内腸骨動脈あるいは子宮動脈塞栓術などの治療法が進歩し、弛緩出血での子宮摘出の適応は激減してきました。また、帝王切開後の経膣分娩、いわゆるVBACがdefensive medicineの立場から減少している背景はありますが、結婚・妊娠の高齢化に伴い、子宮筋腫など子宮手術の既往がある妊娠例が増加しており、こちらが原因の子宮破裂は増加しているため、子宮破裂での子宮摘出例はあまり減っていません。

 その一方で、帝王切開率の上昇に伴い、前置胎盤で既往帝王切開創に嵌入胎盤あるいは癒着胎盤となる症例、つまり広義での癒着胎盤症例が増えてきており、前置胎盤・癒着胎盤を適応とした妊娠子宮摘出術は増加の一途です。

 逆に非緊急での適応で、産褥期に子宮摘出を行うかどうかは意見が分かれるところです。一般的には産褥期を避けた、後日の待期手術が選択されます。ただし、悪性腫瘍つまり子宮頸癌や卵巣癌の適応の場合には準緊急で行われることが多いようです。

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