白山の遭難事故に想うこと | がんちゃんの雪山讃歌

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石川の山スキーヤーがんちゃんが登山、山スキーを中心とした日常生活や山への想いをつづります。
ヤマレコもやってます。(HN:Sanchan33)

色々とひと段落し、YSHRセンセー達も記録を公開されたところで先月11月24日に起きた白山での遭難事故について触れたいと思う。

まずは亡くなられた髭魔人さんのご冥福をお祈りすると共に、ご家族の方々には心からお悔やみ申し上げます。

 

この10年間それなりに山スキーをやってきた人間にとって「髭魔人」という名前を知らない人はいないのではないだろうか。

それほど「髭魔人」という山スキーヤーは自分にとっても特別な存在だった。

自分が山スキーを始めたのは2013年、約9年前だが、山スキーを始めるきっかけのひとつになったのが当時の地獄軍団、YSHRセンセー、大魔人さん、髭魔人さんの3人だった。ヒーローだった。

厳冬期の白山や槍ヶ岳をワンディで駆け抜ける山行スタイルに山スキーの圧倒的な機動力を見せつけられ、同時に憧れを抱いた。

自分もスキーを嗜む者として山スキーをやらない手はないと気持ちを奮い立たせてくれた。

そのおかげで今や自分も地獄メンバーの一員として当時憧れていた山行にも参加できるようになったし山スキーヤーとしての幅も広がった。

山スキーの素晴らしい世界に身を置くことができた。

 

あれから9年、想像だにしなかった遭難事故が起きてしまった。


11月24日(水)

仕事を終えてスマホを見ると大魔人サンからの着信があった。

LINEメッセージが来ることがあっても着信というのはおかしい。なにかあったのではないか、直感的にそう感じた。

折り返し電話をするとYSHRセンセー達3人が白山へ向かい髭魔人さんが遭難したのだという。

え?一瞬「髭男爵?」と勘違いしそうになったが髭魔人さんだった。

どうやら7年ぶりに地獄軍団に戻り、その日が復帰戦だったらしい。

この日の天気は大荒れ、同行していたコーエーが必死で付き添ったらしいが残念ながらひとりで下山することになってしまったそうだ。

この天気のこの時期の白山で一晩を過ごすということは・・・そういうことだ。

その日からしばらくは悪天予報、恐らくこの状態ではヘリは飛べない。

日曜日が晴れ予報だったため、地獄メンバーで捜索しに行こうということになった。パクも遥か遠い東京から来てくれることになった。

11月らしからぬ量の雪が積もったので道中はラッセル必至。YSHRセンセーだけではかなり厳しい状態だったと思う。

 

11月28日(日)

当日は想像通り厳しい藪とラッセルだったがコーエーのGPSログのおかげで労せず髭魔人さんとお会いすることができた。

少しでもヘリがピックアップしやすくなるようにとスキー板とストックを外した。

ストックは折れ曲がり、スキー板も藪に刺さっていて外すのに苦労した。遭難当日の壮絶な状況が頭の中でリアルに再現された。

あこがれの髭魔人さんとの初対面がまさかこんな形になるなんて…髭魔人さんとは歳も近いのでもし生きていてくれたら一緒に切磋琢磨しながら色んな山に登れたんだろうか・・・と思うと本当に悔やまれる。

風はあったが天気は良くて視界もあったのでヘリが来てくれることになった。

御前峰の奥宮で髭魔人さんを発見できたことに対するお礼と何とか家に帰れるように祈りを捧げた。

いくら天気が良いとはいえ標高2500mの冬山に長居できないのでヘリから髭さんの居場所がわかるようにピンクテープを板に縛り付けて一足先に下山することになった。

白峰まで下山し、警察の方に色々と情報提供させていただいた。

そして髭魔人さんも予定通りヘリでピックアップされたという情報を聞いてひとまずは安堵した。

 

今回の事故を受けて思うこと

その場に居合わせなかった自分のような立場の人間が後出しジャンケンで「あの時こうすべきだった」とか「なぜこうしなかったんだ」とか、無責任な言葉は発するべきではない。実際には当事者にしかわからない深い事情やその場の空気感というものがある。

亡くなってしまった髭魔人さんはもちろん気の毒だが、同行していたYSHRセンセーやコーエーも心ない言葉にかなり傷ついている。

さっきまで元気に山に登っていた人が、ちょっとしたきっかけで窮地に陥り簡単に命を落としてしまう。これが厳しい雪山の世界であり現実だ。

明日は我が身。

転んで足を捻挫したり、骨折しただけでも容易に厳しい状況に陥ってしまう。まして天気が悪ければ救助も難しい。

そしてその場にたまたま居合わせた仲間にも多大な迷惑がかかってしまう。

 

だから今のうちに書いておきたい。

  • もし自分が遭難しても無理して助けないでほしい。
  • 死にゆく命より残された命を大切にしてほしい。
  • もし自分が仲間と一緒に登って遭難したとしても決して仲間を責めないでほしい。

そしてもし自分の身に不幸が起きて仲間が責められるようなことがあったら、この記事を紹介してほしい。

自分は仲間と山に登っていても常に単独行の意識を持っている。いざという時の覚悟もできている。

それだけの覚悟がなければ雪山に入るべきではないとすら思っている。

 

自分もいつまで山スキーができるのかわからないが、これからも髭魔人さんに敬意を払いながら山に登り続けたい。

 

先日の日曜日、白山奥宮にて。髭さんに会わせてくれてありがとうございました。