2/3 白山・遭難記録(白峰~楽々新道へ) | がんちゃんの雪山讃歌

がんちゃんの雪山讃歌

石川の山スキーヤーがんちゃんが登山、山スキーを中心とした日常生活や山への想いをつづります。
ヤマレコもやってます。(HN:Sanchan33)

※しばらくブログ更新が止まってしまっていたため一部の方にご心配をおかけしたことをお詫びします。

 

2月3日(日)、白山での山スキーにおいて我々のパーティーが遭難事故を発生させてしまった件について、今後同様の事故を起こさないよう自分なりの反省点を振り返りつつ本ブログを見てくれている方に今後他山の石として役立てていただけるよう顛末を中心に報告したいと思います。

 

2月3日の日曜日は当初の予報では気温高めの曇り~雨予報だったため平湯、白川郷あたりを行先の候補としていたが、数日前から午前中だけ晴れる予報に変わりこれは滅多にないチャンスということで2月の白山詣に行くことになった。
メンバーはYSHR先生、大魔人さん、パクのいつもの3人と久しぶりに地獄軍団横浜支部のS君も参戦することになった。
S君は当初北海道へ遠征する予定だったようだが、我々が白山に行くと聞いて急遽こちらに転進する流れになったようだ。
今回は登りはオーソドックスに白峰から御前峰を目指すというものだが、下山は1月にYSHR先生が初挑戦した楽々新道経由で一里野を目指すルートを計画した。

予報では午前9時くらいまでは晴れるがその後低気圧の通過に伴い急激に風雨が激しくなるとのこと。
これまでの実績ベースでは白峰~別当出合まで5時間程度、御前峰までは10時間程度かかる可能性があるので0時スタートでは山頂時点で天候の悪化が予想される。
ということで今回は1時間前倒しで23時白峰スタートという計画を立てた。
下山予定の一里野に一旦全員集合、スタート地点の白峰まではパクと自分の車2台で移動した。

いつものように白峰ゲートからスタート


白峰からはいつもの感じでフライングスタートとなったが22時にパクとS君が先行してスタート、約15分遅れでYSHR先生、大魔人さんと自分が2人を追いかける形でスタートした。

雪は適度に沈降しておりラッセルはそれほど厳しくない


それにしても先行したパクとS君のペースが異常に速い。
自分は最後尾で2人を追いかけたが全く追いつけず、11km歩いた先にある市ノ瀬手前のトンネルでようやく二人を捉えた。
パクはともかくS君も昨年の厳冬期白山を一緒に登った経験があり、マラソンまでこなす体力の持ち主なので納得のパフォーマンスだった。

市ノ瀬にて。こうしてみると積雪量は多くみえるが例年より少ない


その後も引き続き別当出合まで2人が引っ張ってくれて、フルラッセルであったにも関わらずスタートから4時間ちょいというスピードで林道歩きを終えた。

別当出合に到着。スタートから4時間ちょいというハイスピードだった

別当出合の休憩舎で大休止

 

別当出合の鳥居


別当出合の休憩舎で大休止をしたらいつも通り吊橋渡りとなる。
吊橋にはこのところの暖かさのせいかほとんど雪がなかったが、凍結の可能性があったので念のためスキーのまま渡ることにした。
橋を渡ったら大魔人さんを先頭に石畳をクリア、その後も交代でラッセルしながら甚之助避難小屋を目指した。

吊橋はスキーで渡った

甚之助避難小屋に差し掛かったあたりからS君の様子が何かおかしい。
南竜のトラバース下(アイスモンスター地帯)でパクと二人でS君を待つが、立ち止まったり動かなくなったり…なかなか来ない。
どうやら風邪をぶり返したようで体調が悪化したようだ。
パクがS君に引き返すことを打診したようだが行けるということだったのでそのまま室堂を目指した。

今年のアイスモンスターは出来栄えがイマイチ…

エコーラインを歩いている途中でお日の出タイム。
今回は22時スタートだったので8時間にも及ぶ長い長い夜が今まさに明けようとしていた。
オレンジ色に染まった空と乗鞍、御嶽のシルエットに感動しながら今日白山に来て良かったと思った。

エコーラインで夜が明けてきた

 

別山と朝焼け

 

弥陀ヶ原から室堂へ

 

別山をバックに

 

五葉坂近辺のプチモンスター

 

御来光タイム

 

御嶽山からのお日の出が美しい

 

室堂のシュカブラ

 

室堂ビジターセンター

室堂でいつものように地獄装備に換装。
ここから上は風も強くなり難易度がワンランクアップする。
ここでも後続のS君を待つ…30分くらい待っただろうか、ようやく姿が見えてホッとした。

室堂の脇で風をしのいで地獄装備に

次はいよいよ山頂アタック。
視界は良いし気温もこの時期にしては高めなので割とすんなりと登頂できた。
しかし風は強い…山頂で写真を撮ったら奥宮でお参り、風を凌ぎながらS君を待つ。ここで30分くらい待っただろうか。
それでもS君は根性で登頂を果たした。

さあ山頂を目指そう

素晴らしい景色

 

逆くの字を行く

 

最後のひと登り

 

室堂をバックに

 

御前峰登頂

 

いつものように奥宮でお参り

 

風が強いので奥宮の陰でS君を待つ

 

30分ほど待ってS君登頂!


次はいよいよスキー滑走。
いつもなら室堂方面へ滑ってそのまま別当出合~市ノ瀬まで登り返しなく一気に滑り降りるのだが今回は楽々新道を目指すので大汝方面へ降りていく。
登り返しは2回ほど残っているが、大した登り返しではないので体調に不安が残るS君も問題ないだろう。

まずはカチカチの御前峰北面をトラバース気味に滑って大汝峰へ。
大汝峰も凍ったシュカブラ地帯を巻いて御手水鉢まで一旦降りる。
S君も体調不良を感じさせないような滑りでついてきてくれた。
自分もそうだが登りと滑りは別腹なのだろう。

御前峰から滑走開始

 

御宝庫を巻いて大汝方面へ

 

怪しい雲

 

厳冬期の千蛇ヶ池

 

カチカチシュカブラを滑って大汝峰を巻いていく

厳冬期の御手水鉢

 

御手水鉢でシールを装着し七倉山へ登り返す


問題はそこから先だった。

御手水鉢で再びシールを装着して七倉山まで登り返す。
YSHR先生を先頭に大魔人さん、自分、パク、そしてS君の順番だ。
ほぼ同じタイミングで御手水鉢をスタートして七倉山までの登り返しはほんの80m程度、大した登りじゃない。
少しずつS君が遅れだすが姿は見えていた。

七倉山への登り返し…まだ天気は良いが…

 

少しずつ雲が増えてきたか

 

大汝峰をバックに


七倉山頂に到着すると地吹雪を伴う強風が我々を待ち構えていた。四塚山と同じくやはりここは風が強い。
S君を待ちつつ滑走準備にかかるがシールに風で飛ばされてきた雪が付着して装着に苦労する。
そうこうしているうちに15分ほど経過、たったこれだけの登りなのにS君が来ないのはおかしい。
YSHR先生と大魔人さんは様子見を兼ねて先に2415P手前のコルまで滑走、自分とパクが残ってしばらくS君を待ったが一向に現れないので来た道を少し戻ってみたもののS君の姿は見つけられなかった。
そうこうしているうちに雲行きはどんどん怪しくなり地吹雪は激しくなる一方だ。
いよいよS君とはぐれてしまったようだ。
しかも七倉山という場所が最悪だった。
七倉山は楽々新道、加賀禅定道、釈迦新道と大汝峰への道の4本のルートが交わるいわば南北白山をつなぐ交差点と呼べる場所で、姿が見えなくなったS君がとった行動の可能性も4通りとなる。
体調不良のため室堂に戻った可能性、間違えて釈迦新道、加賀禅定道へ向かった可能性、そして視界がない中我々とは別のアプローチで楽々新道へ先に降りた可能性…4つの選択肢の中から最後の選択肢である先に楽々新道へ降りた可能性に賭けてパクとYSHR先生たちを追って先へ進んだ。

七倉山山頂にて。地吹雪がすごい

 

七倉山から四塚山方面を望む

 

みるみる厚い雲に覆われてきた

 

火の御子峰

2415P手前のコルまで向かいYSHR先生達と合流したがS君はいなかった…
パクが再度七倉山に戻ってS君を捜索しようとしたが風もどんどん強くなり天気の悪化が顕著だったため楽々新道へ引き返した。
自分より遥かに経験豊富なS君なら絶対大丈夫、自分ならもし迷ったら来た道を戻って室堂から戻る!GPSもある。そう信じて後ろ髪を引かれながら楽々新道を下り始めた。

後ろ髪を引かれながら楽々新道を下山…

冬の楽々新道は初めてだった。
夏は定番コースでいつも歩いている道だが冬の光景は全く異なっていた。
お気に入りの小桜平まで滑り込んだが気分は晴れない。この場所は今回の山旅で一番来たかった場所だったのだが今は何よりもS君のことが心配だ。
気分が晴れないまま楽々新道を下山、ホワイトロードを経て車がデポされている一里野ゲートまで戻った。

樅が丘

 

小桜平へ

 

加賀禅定道方面は激しい風が吹き付けていた…S君があそこに向かっていないことを祈る

 

小桜平で作戦会議

 

小桜平避難小屋

一里野ゲート到着


デポしておいた大魔人さんの車で白峰まで向かう途中、YSHR先生から連絡が入った。
やっとS君と連絡が取れたとのこと、なんと七倉山から一旦加賀禅定道方面へ向かい、そこから楽々新道へトラバースして降りてきたということだった。
自分たちがS君を探していた時に丁度加賀禅定道方面に向かっていたということなのだろう。
その後ビンディングが壊れて片足で見返り坂を下りているとのこと。楽々新道は電波が入りづらいが確かに見返り坂は数少ない通信ポイントのひとつだ。
片足で時間はかかるだろうしビバークの可能性もあるがS君なら問題ない、あとは降りるだけだと安心した。

だが、その先に再び落とし穴が待ち受けていた。
なんとS君は小桜平から岩間道へ入り岩間温泉元湯まで降りてしまったとのこと。
無雪期なら林道を歩いて一里野まで歩けないことはないが、今の時期、しかもこの大雨の中では雪崩の巣に飛び込むようなものだ。
そうなると後は岩間道を小桜平まで登り返して楽々新道から新岩間温泉に戻るという選択肢しかない。
岩間道から小桜平までの登り返しは標高差1,000m、無雪期の自分の脚でも3時間半程度かかっている。
ここを体調不良+疲労困憊のS君が、片足スキーなりツボ足で登り返すというのは不可能だ。

何とか自力下山を…と検討したが救助要請を行うしか選択肢はなかった。
救助要請して翌日は天候が悪かったためヘリは飛べなかったようだが、2日後の朝無事にS君は救助された。

今回の遭難事故を受けて、自分の中で反省すべき点を整理しておきたい。

  • 天候悪化が見込まれる時は時間的に余裕をもった山行計画にする。(今回も天候悪化がなければもう少し余裕をもって捜索ができた)
  • もう少しペース配分に気を配る。(林道のペース配分が速すぎた)
  • 体調不良の際は潔く引き返す。仲間が体調不良の時も同様。
  • 極力仲間が視界から消えないように考慮する。(特に体調不良等、弱い立場の仲間がいた場合)
  • はぐれた場合の行動をあらかじめ確認しておく。

ただ、自分の場合強力な仲間と行動を共にしているものの、意識は常に単独登山だと思っている。
何があっても仲間には迷惑をかけない、自力で登頂して下山するという覚悟で山に登っている。
だが、仲間に何かあったら自分の力の限り助けたい。

以前、冬の加賀禅定道へ行ったときにシールトラブルで歩けなくなったことがあった。
あろうことかテーピングを忘れ、シールを固定する手段も失って途方に暮れていたいた時に先行していた大魔人さんが戻ってテーピングを渡してくれた。
大魔人さんがいなければツボ足ラッセルとなりどれだけ下山に時間がかかったかわからない。
依存はしないが、仲間のためにできることは何でもやる、そういうパートナーでありたいと思う。

今回はとにかくS君が無事に帰ってきてくれてよかった。
最後に、警察その他救助に携わっていただいた関係者の方々に深くお詫びと感謝を申し上げます。
そして関係各所と連携し、S君の救助にご尽力いただいたYSHR先生に感謝したいと思います。