◆書評 :『南シナ海 中国海洋覇権の野望』(講談社) | 護国夢想日記

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 日々夢みたいな日記を書きます。残念なのは大日本帝国が滅亡した後、後裔である日本国が未だに2等国に甘んじていることでそれを恥じない面々がメデアを賑わしていることです。日本人のDNAがない人達によって権力が握られていることが悔しいことです。

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 ルトワックと並ぶ戦略研究家、カプランの新作
  尖閣をこえて南シナ海に深刻な中国海軍の進出ぶりを活写

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ロバート・D・カプラン著、奥山真司訳
『南シナ海 中国海洋覇権の野望』(講談社)
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 台風の所為だった。
十月初旬、ブータンからの帰路、評者(宮﨑)は乗り換えのため立ち寄ったバンコクの飛行場で足止めをくらった。


 その日、予定していた帰国便が飛ばず、翌日便に回され、飛行場のロビィで一晩をあかす羽目となったのである。


 仕方なく、空港免税店のならぶ書店に入ったのだが、そこで一冊の本を見つけた。


 Robert Kaplan 「ASIA‘S CAULDRON」だった。


 読み出したら面白く、明け方までに空港ロビィで半分読んでまどろんだ。残りは機中で読み終え、ダイジェストを小誌でも抄訳して紹介しようかと考えていた。ところが早くも翻訳が出たのである。


 原題を日本の読者向けに変えているため、同じ本かと思ったが、そのことは措く。ともかく驚きの早業である。

 「気鋭のアナリスト」である著者はアメリカの軍事情報誌の上級スタッフで、ペンタゴンの助言グループにも出入りしている。


  カプランは、基本的にジャーナリストである。それもアジアや中東などに二年とか三年単位で腰を落ち着けて、軍事面から当該国家の安全保障を考察しながらのルポを得意とする異色の評論家、すでに数冊の著作がある。


 全体を俯瞰して、アジア情勢を中国の覇権戦略と複層的に絡ませながら、インド、米国の軍事力が相対的に底流において比較する複合的な視野を持っている。


  これは日本では、あまりみかけない、地球儀をつねに睨んだ戦略家の発想である。ただし、惜しむらくは日本への理解があまりにも浅薄で、この分を差し引いておく必要がある。

 オバマの「ピボット」宣言以来、南シナ海周辺の情勢が地殻変動的な激変に襲われている事実は、いまや明白だが、カプランは最初にこう言う。


  「この海域の周辺国は、その程度の差はあれ、基本的に『反中国』でまとまることになり、外交・軍事面でアメリカの支援に頼る姿勢をみせた」


 中国は弱肉強食の言葉通りに、強者には逆らうなという態度を崩さず、これに対して周辺国は、ならば米国の強い軍事力の後ろ盾を活用することによって中国の覇権に対抗することになる。


 ところがアメリカのシンクタンクの多くは、アジア諸国、とりわけ南シナ海に領土領海問題をかかえる諸国は「中国のフィンランド化」が進む畏れを抱いている。


  「これらの国々が普通の独立常態を保ちながらも結局のところは対外政策を北京政府が設定したルールによって縛られることになる」というのが、たとえばアンドリュー・クレビネヴィッチ(CSBA代表)の分析だ。


 ベトナムはながく中国に朝貢していたし、ダナンからミーソン遺跡をみるとインドの文化的影響が強く、北と南は明らかに違う国であり、しかもベトナムは共産党独裁でありながら経済重視路線という文脈で、その政治路線は中国と類似する。


 フィリピンには文化がない。
あるのはすべて借り物であり、結局はアメリカの軍事力の保護されなければ生き延びる術はなく、台湾は『アジアのベルリン』と化している


  しかもアセアンはまだ「関税同盟」ですらなく、アセアンがNATOのような軍事同盟にいたる距離は遠く、というより不可能であり、過大評価は禁物である。

 それゆえに本書の結論は以下のようである。
 「もしアメリカが大規模に国防費を削減すれば、ベトナム、マレーシア、フィリピン、シンガポールなどの国ぐにの『フィンランド化』につながる可能性が高い。


  ところが中国国内が混乱してアメリカの国防費の削減がそれほど厳しくなく、米軍の太平洋方面の部隊の配備に根本的な影響がない場合は、それとは正反対の結果がもたらされる可能性もある」
 ひさしぶりに読み応えのある戦略論的ルポを読んだ。
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南シナ海 中国海洋覇権の野望
ロバート.D・カプラン
講談社
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