【知道中国】 1145――「実に多くの点において物を糊塗することの巧みなる・・・」(宇野30) | 護国夢想日記

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樋泉克夫のコラム
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【知道中国 1145
  ――「実に多くの点において物を糊塗することの巧みなる・・・」(宇野30)
      『支那文明記』(宇野哲人 大正七年 大同館書店)

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  「支那國民は社交的にして辭令に巧である」のは、中国語が「悠揚和平の情」と「慷慨激越の情」を表現する機能を持っているから、「聞いて耳に快く特に辭令に巧なる感を抱かしむのであらふ」と、宇野は考えた。


  加えて老子や孔子が強く虚礼を諌めている点から、「由來?に流るゝ弊があつたと分る。これが支那人の社交的なる所以である」。


  但し礼儀正しいことと「其の誠實であるか否やはまづ別問題だ」。


 「一寸した話に?を請ふと世間見ずのウぬ惚れの我日本人などは、早速其の世辭に乘り、堂々たる大意見(?)を吐いて、彼等を?へたつもりで得意で居る、而して彼等が後で舌を出して笑つて居るのを知らない。


  子供らしいと云はんか、馬鹿氣たりと云はんかである」。宇野は義憤気味な警句を口にした。

  振り返れば日中交渉の際、得意絶頂の田中角栄が「北京の空は青かった・・・」式のヘンテコリンな“漢詩もどき”を発表した。


  同行記者団は「得意で居る」田中をヨイショした記事を書いていたように記憶しているが、おそらく毛沢東以下中国側は「後で舌を出して笑つて居」たはず。


  田中は個人としてではなく、日本の首相として大恥を曝したわけだ。

  宇野は「支那の大をなした所以」は「支那の同和力」にあると考える。


  その証拠に「支那歴代の史を通覧すると、外夷が入つて支那を支配したことが數囘ある、而していつも漢人に同化されてしまつて居る」。


  かくて「支那に行つて居た者は、知らず識らずの間に支那化して居ること、不思議のやうである」と首を傾げる。


  さらに進んで同化力の強さは、「一方に彼等が頗る保守的なる爲である」と説く。保守的であればこそ、彼らは「改革を喜ばぬ」。


  その証拠に、清代の法典は唐代のそれと大差がない。「政府の法令はたとへ變つても、實際社會の風習は依然として昔のまゝなるべきは之を斷言して憚らぬ」。


  確かに現在の中国の「實際社會の風習は依然として昔のまゝ」ともいえる。その典型が官尊民卑×家族主義。

  中国人は「言わして置けば勝手な熱を吹くけれども、力を以て壓制すると大抵之に服従する」。


  切羽詰まれば蓆旗を掲げて反抗するが、「愈力及ばねば之に服する」。


  それは「由來専制になれ頗る服從に富んで居る」からで、「消極的に極くアキラメのよき國民」でもあるからだ。だが、これは宇野の早とちり。「極くアキラメのよき國民」は執念深くもあるのだ。

  「武は干戈を止める爲の手段」と考える中国人は、「平和的國民なると共に文弱である」。


  彼らは「禮樂の政を起し太平を樂しむことを理想とする。從つて常に文弱である」。


  歴史的に「絶へず外夷の侵入によつて國が衰えへたのは、彼等が文弱たる爲である」。だが文弱もまた彼らにとっては最大の武器。


  じつに防御力は最大の攻撃力に転化する。歴史的にみて、強大な外夷であれ、「支那に入つて漢文明に幻惑され、支那人に同化されて仕舞つてから、國が弱くなつ」てしまうという仕組みが、それだ。

  そういえば清朝初期、その礎を築いた康熙帝の時代、早くも北京生活に馴れ、芝居見物に入れあげ、茶屋遊びに“鼻毛を抜かれ”た満州八旗を強く諌める勅令が下されている。


  清朝防備の満州人兵士に向って「武術を錬磨せよ。国語(=満州語)を忘れるな。腑抜けになるな」と叱咤督励する康熙帝の心中は察して余りある。焦慮・憤懣の塊だったはず。

  オカミを頼らず老百姓自らで相互扶助を軸に生きてきた彼らは「頗る社會的で」、悠長でもある。


  そこで宇野は「我が日本人の如く神經過敏なものには、かの悠揚は是非學ぶべきである」とするが、「外交上などではこの悠長にヂラされたものは少なくあるまい、一方から云へば彼等は實に不得要領なること甚しいと思はれる。


  然し亦一方から云へばこの悠長なる性質は堅忍持久といふ長所がある」と。そうか、彼らは不得要領で堅忍持久な~んだ・・・。

――『支那文明記』を読み終わり、さて心機一転。幕末から明治期における日本人の中国体験記を読み返してみようか、と。先人激越・縦横無尽・堅忍持久・初志貫徹!
《QED》