The Globe Now: 孫子に学ぶ対中戦略 | 護国夢想日記

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The Globe Now: 孫子に学ぶ対中戦略

『孫子の兵法』から、中国の弱点が見えてくる。

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■1.「中国のやり口は『孫子の兵法』そのもの」

「中国のやり口は『孫子の兵法』そのもの」と喝破しているのは、海将、防衛庁情報本部長、防衛大学校教授など、我が国の防衛戦略の中枢を担ってきた太田文雄氏である。

 氏の近著『日本の存亡は「孫子」にあり』[1]では、自身の中国の武官たちとの交流経験なども引きながら、いかに中国の戦略が『孫子』に基づいているか、を分析している。

 たとえば、2001年に太田氏が統幕学校長として、中国国防大学(人民解放軍の最高学府)を訪問した折り、その副校長は「『孫子の兵法』は、本学教育の中核的地位を占めている」と語った[1,p18]。

 さらに2006年には軍事科学院の専門家が編纂した『孫子兵法軍官読本』を全兵士の訓練教材として正式に採用している。

「孫子の兵法」から、中国の戦略を解き明かし、それを逆手にとることで、日本は対中戦略を有利に進められる、と太田氏は指摘する。今回は、その内容を見てみよう。


■2.「輿論戦」「心理戦」「法律戦」

 中国の戦略のキーワードは「三戦」である。これは「輿論戦」「心理戦」「法律戦」のことで、軍事力を使う前に、敵国の政治、外交、経済、軍事などの力を瓦解させる戦略である。2003年に人民解放軍が正式に承認した「人民解放軍政治工作条例」に規定されている。

 第一の「輿論戦」とは、中国の軍事行動に対する大衆および国際社会の支持を築くとともに、敵が中国の利益に反する政策を追求することのないよう、国内および国際世論に影響を及ぼすことを目的としている。[1,p215]

 中国人がよく口にする「中国は覇権を求めない」とか「平和的台頭」などは国際社会の支持を築くための輿論戦工作である。同時に「日本の軍国主義復活」などと盛んに批判するのは、我が国の軍備強化に対して、国内外の批判を盛り上げようとする、もう一つの輿論戦工作である。

 第二の「心理戦」とは、敵の軍人およびそれを支援する国民に対する抑止・衝撃・士気低下を目的とする心理作戦を通じ、敵の戦闘能力を低下させる工作である。

 たとえば、ある中国人が防衛に関する学会で「中国は空母を保有し、原子力潜水艦も毎年のように更新されたものを保有し続ける。・・・かたや米国はオフショアー・バランスとか言って引き下がろうとしている。このような時に日本は米国との集団的自衛権行使に踏み切るのが本当に得策だろうか?」と発言した。

「アメリカは頼りにならない」「日本は中国の軍門に屈するべき」という方向に日本人の心理を誘導しようという心理戦工作である。

 第三の「法律戦」とは、国際法や国内法を利用して、国際的な支持を獲得するとともに、中国の軍事行動に対して予想される反発に対処する戦術工作である。

 2013年11月に、中国は尖閣諸島を含む海域に防空識別圏を設定した。防衛識別圏という国際的な慣例に従うふりをしつつ、「事前通告なしに侵入した場合には防衛的措置を採る」などと、国際標準とはかけ離れた強硬ぶりを発揮している。


■3.上下全員の心の一致が最大戦力発揮のための根源

 この「三戦」の考え方は、「孫子」の次のような一節に由来する。
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 道とは、民をして上と意を同じうし、これと死すべくこれと生くべくして、危(うたが)わざるなり

 道とは、国民がリーダーと同じ心になって、死生を共にして疑わないようにさせることである。[1,p63]
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 孫子は兵法の根本原則の第一に、この「道」をおいた。この点について、太田氏はこう説く。

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 この上下全員の心の一致こそが、国家・国軍が最大戦力を発揮させるための根源であるから孫子は「道」を第一に掲げたのであろう。[1,p63]
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「道」による「一致団結」が戦力を最大限に発揮する方策なら、敵国には「一致団結」をさせないことが、有効な戦術となる。この点を「孫子」は次のように述べている。

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 善く兵を用いる者は、能く敵人をして前後相い及ばず、衆寡相い恃(たの)まず、貴賤相い救わず、上下相扶(たす)けず、卒離れて集まらず、兵合して斉(ととの)わざらしむ。

 戦さ上手な人は、敵の前衛と後衛との連繋、大部隊と小部隊との相互協力、将校の下士官・兵への支援、指揮系統上の上下の相互協力をさせないようにさせ、兵士たちが離散して集まらず、たとえ集合としても整わないようにさせた。[1,p187]
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■4.実際の戦闘に至る前に、相手を屈服させる

 日露戦争では我が国は明治天皇のもと国民が一致団結して立ち上がったのに対し[a]、ロシアは革命騒ぎで戦争に全力を傾けられないかった。この陰には明石元二郎大佐が、ポーランド、フィンランド、ロシア国内で革命勢力に膨大な支援をした活動があった。[b]

 我が国には「道」があり、ロシア国内には「道」がなかった。だからこそ数倍、数十倍という国力を持つロシアを倒すことができたのである。

「孫子」は戦場での戦闘術よりもはるかに高い政治的次元で、敵国との争いを有利に進めるための方法を説いている。それによって実際の「戦闘」に至る前に、相手を屈服させることができれば、それが最上の策であるとする。

 そして、敵国の「道」、一致団結を奪うための工作が、三戦なのである。中国は日本に対して「戦闘」こそまだ仕掛けていないが、孫子の考えに従って、三戦という広義の意味での「戦争」をすでに仕掛けてきているのである。

「道」、すなわち「上下全員の心の一致」を与えないことが、敵国の戦力を削ぐ最大の戦略ならば、我が国も、中国国内の「一致団結」を崩すことを対中戦略とすべきだと、太田氏は主張する。

 特に、中国国内は、民衆の中国共産党への不満、貧富の差、チベット、ウイグルの独立運動など、多くの矛盾を抱えているだけに、「三戦」でそこをつけば、我が国よりもはるかに脆弱だろう。


■5.輿論戦で中国の実態を暴く

 まず輿論戦だが、たとえば、中国が契約を破ってレア・アースの日米欧への輸出を制限した際、ノーベル賞を受賞している現代の代表的経済学者ポール・クルーグマンは、中国を「ならず者国家」と呼んだ。


WTO(世界貿易機関)は中国側が不当であることを認める裁定を2014年に出した。我が国は国際社会で、こうした活動を積極的に進めるべきである。

 しかるに2010年9月に尖閣諸島海域で、日本の海上保安庁の巡視船と中国の漁船が衝突した時に、時の民主党政権はそのビデオを公開せず、中国側は当初、日本の巡視船が衝突してきたとまで主張した。こういう嘘を平気でつくのが、中国流の輿論戦工作である。

 日本政府が、事件直後にタイミングよく衝突時のビデオを公開していたら、中国側の非道は国際社会で明らかになっていたはずである。

 それに比して、2013年3月に中国軍艦が海自護衛艦に対して、射撃管制レーダーを照射した事件は、安倍政権によって即座に国際社会に公表され、アメリカ政府も中国非難の声をあげた。中国の軍事的強硬ぶりが国際社会にも強く印象づけられた。

 この二つの事件での日本政府の対応を比べて見れば、国際的な輿論戦の重要性がよく理解できる。

 さらにチベットやウイグルでの人権弾圧の実態を国際社会に広く訴えることで、国際輿論は中国の実態をよく認識し、中国側の「日本軍国主義復活」などという主張は、単なる言いがかりであることが、誰の目にも明らかになろう。

 そもそも中国の仕掛ける対日輿論戦は、「軍国主義復活」「南京事件」「尖閣は中国領土」など、虚偽の内容を真実らしく仕立てなければならないが、日本側は中国の実態を事実として暴けば、それで充分な輿論戦工作になるのである。その有利さは明らかだ。


■6.心理戦で中国国民の政府に対する不信感を増幅する

 対中心理戦の一つとして、中国共産党幹部が実際に行っている汚職を白日の下に曝(さら)して、中国国民に訴えることが有効だろう。

 2012年10月に『ニューヨーク・タイムズ』が、温家宝首相の親族が米国で少なくとも27億ドル(2200億円)規模の蓄財をしていると報じた。


温家宝は清廉潔白な政治家との評判で、民衆にも人気があっただけに、この報道が中国国内で広く知られれば、「温家宝までが」と中国共産党への国民の支持はさらに低落しただろう。

 中国政府はサイバー攻撃など、あらゆる手段を尽くして同社の記事掲載を妨害しようとした。その激烈な反応は、それだけ中国側が痛い所を突かれた事を示している。

 現在、中国国内では年間20万件と言われる暴動・騒乱が起きていると言われ、この実態を明らかにする事も、中国国民の政府に対する不信感を増幅するだろう。

 中国国内には世界でも最先端の情報統制システムが敷かれているが[c, d]、それをかいくぐる情報通信技術開発により、中国民衆に真実を知らせることが、効果的な心理戦となる。

 2012年には中国で治安維持にあたる警察関連の予算が1110億ドル(約11兆円)に達した。これは中国の公称国防費1060億ドルを超える[2]。


国民の不満、不信が高まるほど、政府はそれを弾圧せざるを得ず、それがさらなる不満、不信を呼ぶという悪循環に陥っていく。


■7.法律戦で中国を国際社会から孤立させる

 中国に対する法律戦とは、現在の中国の軍事的強硬姿勢がいかに国際社会のルールに反したものか、広く訴えていくことである。

 5月30日にシンガポールで開かれたアジア安全保障会議で、安倍首相は「基本的な人権を守り、法を順守する日本をつくってきた」と誇る一方で、中国に関してこう指摘した。

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 国際法に照らして正しい主張をし、力や威圧に頼らず、紛争はすべからく平和的解決を図る。当たり前のこと、人間社会の基本です。しかし、その当たり前のことを、あえて強調しなくてはなりません。 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

 首相が話し終えると、会場からは大きな拍手がわき起こった。「首相の主張への賛同者の多さとともに、東シナ海や南シナ海で傍若無人の振る舞いを繰り返す中国への嫌悪感の広がりを象徴する場面でもあった」と産経新聞は報じている。[3]

 続く6月4日にブリュッセルで開催された先進7カ国(G7)首脳会議でも、東アジア情勢に関しては安倍首相が議論をリードし、首脳宣言では、緊張が高まる東シナ海・南シナ海の情勢について「深い懸念」を表明し、現状を変更する「威嚇や強制、力を用いた一方的ないかなる試みにも反対する」と強調した。[4]

 これに対して、中国は「地域外の国は公正な態度を持つべきで、対立をつくり出すべきではない」と反発したが、負け犬の遠吠えである。[5]

 国際社会を舞台にした法律戦で、安倍首相は「力づくで現状変更を迫る中国」というイメージを作る事に成功しつつある。


その結果、中国は国際社会で孤立の度を深め、同時に面子を重んじる中国社会で、習近平政権は民衆からも対抗派閥からも突き上げられて、立場を弱くしていくだろう。


■8.、「共産党王朝」が衰退していくのも時間の問題

 こうして見ると、太田氏の主張通り、孫子の兵法から考えてみれば、中国の方こそ致命的な弱点を抱えていることが分かる。その根幹は、現在の中国共産党政府が、「民をして上と意を同じうし」という「道」に則った政治をしていない所にある。

 根本の「道」を見失っている以上、枝葉の戦術でいかに「孫子の兵法」を活用しようとも、それは表面的な、見かけ倒しに過ぎない。我が国こそ、「道」に根ざした孫子の兵法で、中国共産党による独裁政権の枚部崩壊を目指すべきだ。

 それは日本や台湾、フィリピン、ベトナムなどの周辺国、チベット、ウイグルなどの非抑圧民族だけでなく、圧政に苦しむ中国人民のためでもある。

「道」を見失った歴代の中国王朝では、各地で暴動が起こり、そこから生まれた勢力が旧王朝を打倒して、次の王朝を作っていく、という繰り返しであった。これを踏まえて、太田氏はこう結論する。

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 ・・・現在、各地方で毎日のように起こっている格差・雇用不安・機会不均等・民族問題に起因する暴動、そして共産党員の汚職からして、「共産党王朝」が衰退していくのも時間の問題である。

したがって、それまでは何とかして日本が持ちこたえなければならない。それができればおのずと光明がみえてくる、と私は考えている。[1,p277]
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(文責:伊勢雅臣)

■リンク■

a. JOG(048) 「公」と「私」と
 私情を吐露しつつ公の為に立上がった日露戦争当時の国民
http://www2s.biglobe.ne.jp/nippon/jogbd_h10_2/jog048.html

b. JOG(176) 明石元二郎~帝政ロシアからの解放者
 レーニンは「日本の明石大佐には、感謝状を出したいほどだ」と言った。
http://www2s.biglobe.ne.jp/nippon/jogbd_h13/jog176.html

c. JOG(438) 情報鎖国で戦う記者たち~ 中国のメディア・コントロール(上)
 全世界で不当に監禁・投獄されている記者のおよそ三分の一は中国政府によるもの。
http://www2s.biglobe.ne.jp/~nippon/jogdb_h18/jog438.html

d. JOG(439) 「天網恢々、疎にして漏らさず」 ~ 中国のメディア・コントロール(下)
 中国政府は世界で最大かつ最先端の ネット統制システムを構築した。
http://www2s.biglobe.ne.jp/~nippon/jogdb_h18/jog439.html

■参考■(お勧め度、★★★★:必読~★:専門家向け)
  →アドレスをクリックすると、本の紹介画面に飛びます。

1. 太田文雄『日本の存亡は「孫子」にあり』★★、致知出版社、H26
http://www.amazon.co.jp/o/ASIN/4800910382/japanontheg01-22/