奥山篤信の映画批評85 アメリカ映画『ダラス・バイヤーズクラブ』(Dallas Buyers C | 護国夢想日記

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 日々夢みたいな日記を書きます。残念なのは大日本帝国が滅亡した後、後裔である日本国が未だに2等国に甘んじていることでそれを恥じない面々がメデアを賑わしていることです。日本人のDNAがない人達によって権力が握られていることが悔しいことです。



奥山篤信の映画批評85 アメリカ映画『ダラス・バイヤーズクラブ』(Dallas Buyers Club)2013(月刊日本四月号より)―――――――――――――――――

~法律で許されているのは、善を行うことか、悪を行うことか。命を救うことか、殺すことか。~

ジャン=マルク・ヴァレ監督、マシュー・マコノヒー、ジャレッド・レト、ジェニファー・ガーナー、スティーヴ・ザーン出演しており、もうすぐ決定の第86回アカデミー賞では作品賞、主演助演男優賞、脚本賞にショートリストされた。

1992年に『ダラス・モーニングニュース』の記事で取り上げたられたロン・ウッドルーフの実話を基にしている。それは1980年代当時無認可だったHIV代替治療薬を密輸販売し、アメリカのHIV患者が特効薬を手にできるよう奔走した実在のカウボーイの最後の日々を描いたものである。

1980年代アメリカで最初にエイズ患者として報告されたのは、男性同性愛者であり、当時の同性愛者への偏見と重なり、患者・感染者はその家族も含めて、感染経路にかかわらず激しい差別に置かれ社会問題となった時代背景にある。

HIVは人間の体内で、免疫を司る細胞を破壊し、人体の免疫力を低下させる。その結果、普段は発症が押さえられている疾患が表に出る。


HIV感染からエイズ発症までは一般的に約10年かかると言われているが、最近の治療薬開発や投薬技術(複数の薬を同時に使うなど)の進歩によって、発症までの時間はのびている。


いまだにHIV感染を完治させる薬は現在のところ存在せず、免疫力の低下を抑えたり、対症療法を行うだけである。日本では現在2万人以上の感染者が存在している。

ドラマはまさにある日青天の霹靂でHIV陽性と判断され30日の余命しかないと宣告された男の物語である。ホモを蛇蝎のように嫌っていただけに、そのショックも大きく、友人は一斉に感染を恐れ逃げて行く。


一日でも長生きしたい執念に燃えた男は徹底的に治療法を調べあげるのだった。FDA承認のAZTが如何に副作用が大きいかを知り、メキシコの闇の治療医師の下での新しい治療法を発見し、これをアメリカで密売することを思いつく。


当然権力側とFDAが徹底的にこれを取り締まろうとするが、エイズ患者のニーズは大であり、会員制のクラブとして脱法組織にて客を集め成功するが・・・

映画はまさにエイズ患者の悲痛な思いをよそに、冷徹に法の支配でFDA未許可の新薬使用を却下する権力との戦いである。あえてアメリカの正義(アメリカの長所をいうならば、フロンティア精神と新陳代謝というべき正義感かもしれない)とはその独善性もあるものの建国以来健全である。

酒とドラッグとバラの日々を送る堕落した男が、不治の病を宣告され、その死の恐怖のなかで、はじめて他者の苦しみを悟り、生まれ変わったかのように余生を猛烈に生きる姿に感動する。

旧約聖書では、『創世記』で啓典の神が天地創造の7日目に休息を取ったことに由来し、この日には戒律としていかなる労働も行わないことを求められる。いまでも厳格なユダヤ教をそれを守り続けている。新約聖書のイエス・キリストは下記の通り述べる。(マルコ福音書より)

02:27そして更に言われた。「安息日は、人のために定められた。人が安息日のためにあるのではない。

03:04そして人々にこう言われた。「安息日に律法で許されているのは、善を行うことか、悪を行うことか。命を救うことか、殺すことか。」彼らは黙っていた。

正義とは法を守ることではない、人間があっての法だということである。まさにエイズを救う死ぬか生きるかの最後の望みを持つ患者たちに法治主義を盾にこれを拒否する姿が権力とFDAである。

僕はこの映画を観てアカデミー主演男優賞はマシュー・マコノヒーではないかと予想し的中した。実際彼は21キロも減量しエイズ患者という難役に挑んだのである。


主人公が心を寄せる女医にジェニファー・ガーナーが扮する。このインテリ女医は分け隔てなくエイズ患者を救おうと職を賭して正義を貫く。およそインテリとはほど遠いが、単なるエゴイストではないたくましきアメリカ男の優しさと交差するガーナーの愛に満ちあふれる演技は素晴らしい。