映画「櫻の園」 | Sancantion【喰(SHOKU)レーベル】アルバムリリース情報!
だいぶん以前に,1980年代のドラマ「桃尻娘」についてここに書きましたが,同じ中原俊監督の映画「櫻の園」(1990年版)を20数年ぶりに見ておりましたら,つぎつぎにいろいろなことが想起されて来ました。

先ず,方丈記の冒頭「ゆく河の流れは絶えずしてしかももとの水にあらず。」が。

そして,Roxy Musicの"Same Old Scene"("Flesh+Blood"収録)の冒頭「Nothing lasts forever」と"Still Falls The Rain"("Manifesto"収録)というタイトルが。

さらに,「櫻の花びらが風に散ったよな」という実際とは異なる歌詞が。

これらの縁起を一言で言うならば,差し詰め「諸行無常」ということにでもなりますでしょうか。

「櫻の花が必ず散る如く,何事も永遠に続くことはなく,河の流れは絶え間ないが水は常に入れ替わるとともに,雨は常に既に降り続いている」というような連想がふつふつと沸き上がって来たのでございます。

ちなみに,映画「櫻の園」では,櫻は毎年同じように咲くのに,その下を通る人間は毎年入れ替わる,というような無常観が登場人物によって語られております。

この映画の最大の特長は,何事も生起しない静謐感と,一方で多種多様な出来事が生起しまくる充溢感の双方が,実に絶妙なバランスをもって醸し出されておるところではないかと思われます。その絶妙感に身体を委ねていると,何とも心地のよい感覚を得ることができるのですが。



メインテーマは,女性同士の三角関係(実際には辺の一部が欠けているので2.5角関係とでも言えましょうか?)なのですが,それとは全く関係のない出来事や会話などが,長回し&遠回し撮影によって,実に多種多様に重層的に演じられまくるところに,この映画の最大の強度があるように思います。

とはいえ,この映画を代表するシーンは,やはり何と言っても,志水部長と倉田知世子さんが二人椅子にかけ頬寄せ合って写真を撮影しているところを,杉山紀子さんがそっと見守って(実際には見てはいないが)いるところでありましょうか。これまた,この瞬間限りで二度と生起し得ぬ出来事ということ故に,とてつもなく強度の高い「カイカン」を贈与してくれる場面と言えましょう。

また,冒頭で三上君が演劇部の部室に置いて行った煙草とライターが巡り巡って,ほぼ元の持ち主のもとに戻るなんてところも,実に心憎い演出と言えるでありましょうか。

最後,部室にはらはらと舞い落ちる櫻の花びらの数々は,あたかもこの宇宙のあらゆる物質の表象の如く見えて来るのでございます。



ちなみに,音楽は太田胃散のCMでおなじみのショパンの曲だそうです。