下村敦史 「そして誰かがいなくなる」
下村さんの新しめの作品が面白そうだったので買ってみました。
ある人気ミステリー作家が新邸を披露するために作家や編集者、評論家たちを招いていた。その館はミステリーの定番である「クローズドサークルの舞台になる館」をテーマにして建築されており、家具家電も雰囲気を壊さないことを最優先して選定されていた。家主である作家はある作品が盗作であることを暴露するために皆を集めたと説明した後、叫び声だけを残して屋敷から姿を消してしまう。これは家主の催し物であり自分を探してみろということではないかと作家たちは推理して捜索を開始すると、今度は女性作家が連れてきていた娘が姿を消してしまう、というお話。
クローズドサークルのミステリーを題材にしたミステリー作品という奇妙な内容です。
館もののミステリーでよくある展開と、それに対して「こうすれば良いのに」と読者が思っていそうなことを登場人物たちが実際にやってくれるという内容なのでミステリーを読みなれている人には楽しめる内容でしょう。屋根裏を覗きましたが家主はいませんでした→本当は遺体があるけど無かったと嘘をつくトリックだろ。俺にも見せろ、というようなやり取りが色々な場面で出てくるという感じです。こういった内容なのでミステリーというよりはエンターテインメント系として読んだ方が楽しめるかもしれません。
とはいえミステリーとして見ても上手く作られている作品でした。いろいろなミステリーの定番を登場人物の作家たちは推理しているけど、結局事件の真相はその中にあるのか?というのを推理してみても楽しめるでしょう。ちゃんとミステリーとしての驚きの展開も用意されているのでご安心ください。
序章として館の設計を業者と話しているシーンがあって、その中ではミステリーで良く出てくる館を建てようとするとどうなるかという話が描かれています。もちろんジョークで書いているのでしょうけど、言われてみればそうだよねという指摘が色々書かれていてこちらも面白いです。
作中にて館ものはミステリーの定番だけど実際どう思うか?と議論しているシーンがありました。せっかくの機会なので自分はどうかを考えてみました。
私も館ミステリーは好きではありますが、あからさまに隠し部屋や隠された仕掛けがある館ものは嫌いです。具体例で言うと綾辻さんの館物は嫌いですが阿津川さんの館物は好き、という線引きです。作中では「隠し部屋があることを明確に示唆している場合はミステリーとしてルール違反ではない」と話すキャラがいたのですが、私としては共感できませんでした。
ルール的にありかなしかの問題ではなく、仕掛けの凄さや意外性に力を入れているように見える作品が嫌いなのでしょう。物語の面白さや構成のつながりなどを疎かにして、作家さんがそこに力を入れるのは違和感がある、というのが私の考えです。
自分の好みとその理由を言語化するのはけっこう難しいので、こういったことをまじめに考えて文章にしてみるのもいい訓練になるでしょう。
変わった題材の作品ですので、気になる方はチェックしてみてください。