A氏は嫌な気分で目覚めた。
また、部屋の電気をつけたまま眠ってしまった。
それと、隣から紛れ込んできたゼロ戦の放つライトがまぶしい。このゼロ戦
は2センチのミニサイズで隣に住む男が作ったもの。ハエのようにいつまで
も部屋を飛び、まぶしいライトを放つ。
早く隣の家に戻ってほしいのだが、A氏の部屋の空気が気に入ったのか
出ようとしない。
今日はA氏の働いている会社は休日で、友人のB氏の家でオセロをやる
約束をしている。隣の男のゼロ戦を気にかけている場合ではない。
B氏もA氏も独身で30代。
彼女がいて、休日はデートという過ごし方ができたらいいのだが、A氏に彼女
はおらず、オセロをする友人がいるだけでも良しと考えている。
それに、彼女がいることも場合によっては自分の行動が制限されてわずらわ
しい場合もある。
A氏はオセロを意識して、黒のYシャツ、白いズボン、黒の靴下、黒と白の
水玉模様の靴をはいて、出かける。
会社の同じ年代の人に休日の過ごし方を聞くと、同じコンピューター関連の
仕事のせいか、誰とも会わず外出もせず、家から出ないという人が多い。
A氏は、休日にじっと一人部屋の中で過ごしていると、自分が化石のように
なってしまった気がするのだ。
そんなわけで電車に乗って、B氏の家に向かっている。
詰碁の本を読む。A氏はオセロだけではなく碁も好きで、たまに詰碁を解いて
いる。
でも、その詰碁を解こうとしているのに、頭が途中からオセロに切り替わり、
『こんな詰めオセロはおかしい!』
と、本に憤慨している。