おなじみの床屋 | トリップちゃんねる

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日曜日の夕方。
マンションの目の前にあって歩いて2分もかからない、いつもの床屋へ行く。
そこは、お孫さんもいる65歳くらいのおばちゃんが一人でやっている。
料金も2500円と安いので、いつも利用している。


床屋に入ると、誰も人がいない。でも、知らせのベルでも住居の部屋に連結
して鳴るようにできているらしく、店主のおばちゃんが店とカーテンひとつで
つながっている住居の部屋から顔をのぞかせる。「いらっしゃいませ。」
「いつもと同じくらいの長さでいいですか?」と、何度も聞いたおなじみの口調
で問う。ぼくも「はい」とだけ言う。


たぶんぼくが30代の時にマンションを購入し、東京から埼玉に引っ越して
それからずっと同じ床屋なので、合計で100回近くはおばちゃんの床屋へ
通っているだろう。その回数のわりに、ぼくとそのおばちゃんとの間には何も
会話がない。あまりに静かなおばちゃんなので、『口ベタな人なのかな?』と
思っていた。


ある日、ぼくがその床屋に行ったときに別の中年の客が、髪を切ってもらって
いた。その時におばちゃんは客の髪を切りながらものすごく嬉しそうに、その
客とおしゃべりをしていた。つまりは、おばちゃんは無口なのではなく、ぼくと
は話しづらかっただけなのだ。
ということを、そこの床屋にいくたびに思い出す。

髪を切ってもらっている間に、いつものようにテレビを観ていた。テレビでは
報道ステーションがやっていて父と息子が共同で農業をやる姿が映ってい
た。ほとんんどの若者は村を出ていて、農業をやめて土地を手放す人達が
増えているという。

でも、番組で取り上げていた息子は会社勤めをやめて、父の後をついで
農業を始めたのは、40代にはいってからだった。「失敗続きだ」と、テレビ
で息子は語っていた。そこのお父さんも「まだ半分も伝えていない」と言う。

最後に田んぼに稲穂が生育した映像が映っていて、それはとても綺麗だっ
た。光って見えた。床屋が終わると、ぼくは財布から5千円出し、店主から
釣りをもらう。
その後、部屋に戻り礼服用のズボンをクリーニングに出していたのを思い
出し、その足ですぐクリーニング屋へ向かう。
今日はとてもバタバタした日だ。