新人訓練 | かけはし

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日本とヨーロッパの交流コーディネイターのさんぼです。
草の根のちいさな交流が広がれば、きっとお互いにわかりあえる、受け入れられる。

59歳で、あろうことか大型免許を取り、よたよたと走り出した日からあっという間に三年経ちました。こんな羽目になったのは、コロナ禍のせいだとは言え、バス会社を経営している身としては、やはり実際に現場で運転できる方がはるかに良いですね。

もともとは、免許があったら、バスを修理工場に持って行ったり、給油したりお手伝いができると思ったから免許取得に挑戦したわけですが、修理屋に持っていくのもガソリンスタンドに行くのも、相当経験積まないとできないね。いつも乗っていてバスの大きさを体で覚えていないと出来ない。修理工場なんて、狭いバスの幅ギリギリの場所に真っ直ぐ入れないといけないわけで、あの長い車両を真っ直ぐにするのは、初心者には難しいですよ。ガソリンスタンドも然り。真っ直ぐ入れないと、給油機を薙ぎ倒します。

あと自分でもカラダを張って運転している方が従業員が言うことを聞く。

と言うわけで、なんとか運転手として働き抜いて来たわけだけど、遂にわたしも新人訓練を担当する日がやって来ました。


まずは、運転歴自称20年のスペイン美女。言葉は、ドイツ語できると言う話だったのに、それは間違いで、英語もドイツ語も話せない人でした。交流はGoogle翻訳と音声翻訳に頼りっきり。ただし、我らが走るのは黒い森の山中のど田舎で、ネット環境が最悪の土地でここ一番に必要な時に翻訳機が使えないと言う悪条件でした。


使用車両は女王様。これは今まで路線ばっかり走っていた人には慣れないと乗りにくい車です。

時間通りに最終目的停留所に到着しないと乗り継ぎバスに乗り遅れ、乗り遅れたらあと1時間は来ないと言う土地柄なので、お客さんを乗せての運行はわたしが運転しましたけど、回送時にまず走ってもらいました。

正直言って、あんな恐ろしい思いをしたのは久しぶりでした。うちの長女が免許取り立ての時に、半年間だったかお目付け役同乗義務があった時期に、隣に座って、魂が締め付けられるほど恐ろしい思いをしましたが、それを思い出しましたね。

かなり慎重なタイプらしく、ミラーも頻繁にチェックして、狭い曲がり角なんかもゆっくり確実に運転する人でしたが、とにかくおっかなびっくりなんですよ。国道でも時速40キロか50キロぐらいしか出さないので、怒った乗用車がクラクションを鳴らしながら追い抜いていくし。しかもその割にはカーブなんかでスピードを落とさずに肝が冷えたし。わたし、運転席の隣のガイド席に座っていましたが、気がついたら身体中に力を入れ、安全ベルトを握りしめていましたよ。

挙げ句の果てには他社の運転手が後ろからわたしらの乗っているバスの写真を撮り、whattappでわたしに「おい、君はどうしちゃったんだ?運転できなくなっちゃったのか?」などと写真付きのメッセージをくれる有様で、これは、もしかしたら雇わない方が良いのではないか?単なる慣れの問題では無いのではないか?と疑問がよぎりましたね。


で、次の日も彼女は来たんですが、幸いなことにと言うかなんと言えば良いのか、とにかく彼女は「今日はわたし、ルートを確認するために運転はせずに、隣に座っていたい」と言ってくれたために、わたしがハンドルを握り、彼女は見学となりました。


その後は、結局わたしの神経が持たずに、夫にバトンタッチして、彼の判断で、雇用を取りやめました。すぐに勤務を開始できない、早くても一ヶ月後、と言う理由もあったんですが。


もう一人の新人、ギリシャ人は、とにかく運転はすごく上手い。慎重だし。ただし、停留所を覚えるのが苦手で、もしかしたら、読むのが厄介なのかなあ?ギリシャ文字って違うもんね。どうなんだろ?彼の訓練はドイツ人の気の良い運転手が担当して、わたしは生活面のサポートしました。

スーツケース一つでギリシャからやって来たので、アパートも、ベッドカバーとかタオルなどの日用品、やって来たのが日曜日で買い物もできないので、当座の食料品なども用意しました。南ヨーロッパの人はコーヒーは大事だろうなあ、と思ったので、大事なネスプレッソマシンも貸し出しましたが、彼はこの泣く子も黙るネスプレッソが好みに合わなかったようで、次の日は電気屋に参じて、IllyかLavazzaコーヒーが美味しく作れる(と彼が主張する)マシンを探しましたよ。

夫も彼をアパートに入っているギリシャ料理店に招待してご馳走したりと、結構気を遣っています。何しろ人手不足でカラダがいくつあっても足りない我が社で働こうと、スーツケースを一つ下げてギリシャくんだりから飛行機に乗ってやって来てくれた人ですからね。なるべく長く続けて欲しい。なるべくハッピーに過ごして欲しい。


いや、自分自身も路線を運転しながらのサポートは結構大変でしたけどね。


でもそのおかげで今わたしは既に自宅に3泊しています。自宅に三日も続けて滞在するのは何週間ぶりだろう?近所の肉屋で明日の分まで買い物できる喜び。台所で食べたいものを作れる喜び。これもギリシャ人がきちんと路線を責任もって担当してくれているからです。


まず作ったのは肉まん。次女が食べたいと言っていたのを覚えていて、やっと作ってあげられた。美味しかったですよ。

下はギリシャ人のアパートに備え付けるための電子レンジ。


うちは、あと二つ路線があるし、工事代替バスも出さなくてはいけないので、実はまだあと二人ばかり雇いたい。今日もドイツ東部から一人、ルーマニアから一人やって来ます。


ああ、ちゃんとした真人間でありますように。


さんぼ