右京『11年前に起こった出来事を整理してみましょう。与謝野さんの事件があったのが桜木町、3億円強奪事件があったのが関内ですね』
亀山『ええ、午前11時15分、現金3億円を積んだ現金輸送車が3人組の犯人に襲われ、警備員の小泉純一が犯人の一人に撃たれ即死でした。それで与謝野たまえの事件が発覚するのが午後6時すぎ、マージャンから戻った与謝野雅夫が第一発見者となり同6時15分神奈川県警に通報が入ってますね』
右京『牛尾さんの話を総合すると当時の県警は3億円事件に追われ、殺人事件の捜査が十分に行われなかったということになります』
亀山『そしてどちらも未解決のまま現在に至ると』
右京『では、こういうのはどうでしょう。3億円事件の犯人が与謝野雅夫、以下二2人』
亀山『こっちの事件も与謝野だったって言うんですか?』
右京『与謝野が無職でありながらホテル暮らしを3か月も出来るお金を持っているので大金を得るチャンスがどこかにあったと考えるのが妥当ですよ』
亀山『じゃあ、残りの犯人ってのはアリバイ証言をした山本と鳩山と町村。でも合計4人になりますね』
右京『3億円もの強盗ですからね~実行犯以外に乗り換えた車を運転する人物が必要です。おそらくこの人物が強盗を計画した主犯でしょうね』
亀山『じゃあ、与謝野たまえは何故死ぬ必要があったんですか』
右京『そこです。犯人にとってこの事件こそ予定外だったとしたら辻褄が合います』
角田『どういうことだよ?』
右京『与謝野たまえさんが亡くなっていた時の状況を覚えていますか?』
亀山『全身に殴られたような打撲痕があったんですよね、それで頭部の外傷性ショック死だっけかな』
右京『そうです。まるで事故にでもあったような状態です。つまり…』
亀山『まさか…3億円を強奪し逃走中の車で事故を起こしたってことですか?』
右京『そう考えれば遺体をスーツケースに入れ、あたかも殺人事件のように装い、自らのアリバイを仲間と共有したことにも納得がいきます』
角田『そうか、相変わらずよく思いつくね~』
亀山『仮にそうだとしても、今回の事件はどう関係してくるんです?』
右京『それはホテル暮らしの与謝野雅夫の様子から想像がつきます』
亀山『?』
内村『それで、11年前の殺人事件と今回の死体遺棄にはどういうつながりがあるんだ』
中園『それは…なんでも3億円事件まで関わってくるとか』
内村『3億円だと?まさか11年前の神奈川の事件のか!』
中園『ええ、特命係の情報なので信憑性は疑問ですが』
内村『すぐに神奈川県警に連絡しろ!合同捜査で当時の殺人事件と3億円事件の犯人もこっちで上げるんだ!』
中園『しかし、3億円事件は既に時効ですが…』
内村『かまわん、神奈川で挙げられなかった犯人を警視庁が特定すれば奴らに恥をかかせられるからな』
中園『ただちに』
麻生『刑事さん~まだ何かあるんですか?』
右京『申し訳ありません、いくつか質問よろしいですか?』
麻生『このあと仕事が詰まってるんで少しだけでいいなら』
亀山『与謝野さんの行動で他に目立ったことはありませんでしたか?』
麻生『この前話したことくらいですね』
右京『ではもう一つだけ、与謝野さんが払った現金はまだ残されていますか?』
麻生『3か月前ですよ?あるわけないですよ。もう銀行ですから』
右京『そうですか、ではお忙しいところ失礼しました』
亀山『失礼します!』
右京『ようやく事件の真相が見えてきました』
亀山『ええ、あとは証拠ですね』
牛尾『当時の事件を調べなおしてみました、管轄外なのでどこまで出来るかと思いましたが…』
船越『与謝野は11年前の事件後すぐに車を処分していました、さらにすぐさま新車を購入したことまで突き止められました』
右京『小沢明子さんの自宅からは何か出ましたか?』
牛尾『一つ興味深いものがありました、先日亡くなったマージャン仲間の山本太一からの封筒が残されていました』
右京『手紙の中身はありませんでしたか』
牛尾『ええ、おそらく中身を持ってホテルに向かったのではないかと思います』
右京『なるほど、どうやら僕らには切り札が残されたようです』
麻生『またあなたたちですか、いい加減にしてくださいよ』
亀山『これが最後ですからご協力お願いします』
右京『ええ、文字通り最後の訪問ですよ』
麻生『どういう意味ですか』
亀山『今回の死体遺棄事件は与謝野雅夫の犯行で間違いありませんよ、ただ11年前の2つの事件。その主犯はあなたじゃないんですか?』
麻生『何をばかなことを、11年前の事件が何だっていうんですか』
右京『3億円強奪事件に成功し、その喜びのあまり運転がおろそかになってしまったようですね~そして皮肉なことに与謝野雅夫の奥さんを撥ねてしまった』
麻生『…』
亀山『あんた、8年前に結婚して麻生家の婿養子になっているでしょ。旧姓は町村。与謝野雅夫のアリバイを証言をしたのはあんただってことはわかってんだよ』
麻生『…確かにアリバイを証言したことはある。でも何で私が犯人なんですか』
右京『あなたは今回亡くなった小沢さんが何故ホテルに来ていたのかご存じなかったのですか?』
麻生『私が知るわけない』
亀山『当時アリバイを証言した山本太一。彼がガンで亡くなる直前に小沢さんに手紙を書いたんだよ。あんたや鳩山、与謝野と一緒に事件を起こしたこと、事故とは言え小沢さんのお姉さんである与謝野たまえさんを死なせてしまったことなど全部な』
麻生『ばかな・・・』
右京『ええ、確かに手紙本体は与謝野雅夫からあなたの手に渡ったと思いますよ』
亀山『でもそれを書いた用紙の裏にしっかり残っていたんだよ』
右京『さきほど山本さんの自宅からお借りしてきました。鉛筆でこするとはっきりと読めます。まだお認めになりませんか』
麻生『っく…証拠はあるんですか?そんな手紙で捕まってたまるか』
胸ぐらをつかむ亀山『てめー!』
止める右京『亀山君。ではこちらはどうでしょう』
麻生『なんだそれは?』
右京『あなたはもう現金は手元にないとおっしゃった。確かに大部分はすでに銀行に行ってしまい区別はつきません。しかし数枚はこうして残されていたんですよ』
亀山『ここの係の人間や銀行の行員が旧一万円札と自分の現金を換えて保管していたんだ、いまどきピン札の旧一万円札なんて探しても見つからないからな』
麻生『だからどうしたってんだ』
右京『この一万円の記番号と当時奪われた札束の一枚が一致しました。さらにそこにあなたの指紋がありました。それも鑑識で調べたところ最近のものではなく、10年以上前に付いたものだということもわかりました』
麻生『…』
亀山『ひき逃げ事件だってな、調べなおせばいくらでも証拠なんて出てくんだよ!警察をなめるなよ!』
麻生『…与謝野が悪いんだ…あいつがトランクなんかに詰めて置いておくから…』
右京『逃亡生活を続けていた与謝野雅夫は自首を考えたのですね?そこであなたに相談したところホテルに軟禁状態にされたわけですか』
麻生『今になって自首なんて許せなかったんだ、だから捕まれば死刑だと脅し逃げ続けるように説得したんだ、人ともなるべく関わるなとも言ってね』
右京『そこに山本さんからの手紙から小沢さんがここを訪ねてきたわけですね。そして運悪く小沢さんは心臓発作か、脳卒中などの不可抗力で亡くなってしまった』
亀山『それで動転した与謝野は当時と同じ方法で遺体を隠すことしか考えられなかったわけだ、さすがに耐えられなくなって逃げ出した、まあおそらくあんたが作った新たな潜伏先でおとなしくしてるんだろうけどな』
麻生『まさかこんなことになるとは思ってもみなかった』
右京『真実はいずれ白日の下に晒されます、それが理解できていればこんなことにはなりませんよ』
その後、潜伏先で与謝野雅夫を逮捕、すっかり衰弱しきっていた
特命にて
亀山『どうやら麻生は与謝野も殺そうとしてたみたいっすね』
右京『一度悪魔に心を売ってしまうと抜け出すのは難しいのですかね~』
角田『まあ鳩山ってやつも殺人教唆で事情聞かれてるみたいだし、このままの地位ではいられないだろうな』
内村『神奈川県警の連中がかなり怒っていたぞ』
中園『それはなによりです』
内村『あいつらもたまには役に立つな!』
警視庁の外にて
牛尾『杉下警部、今回もお見事でした』
右京『いえ、僕だけの力ではありません、皆さんの情報や米沢さんの協力があってこそ解決できたのですよ』
船越『パッと祝杯でもあげに行きますか!』
亀山『いいっすね!銀座にでも行きます?』
右京『もちろん、 行きませんよ』
牛尾『おい、船越くん。また事件のようだよ』
船越『へーい』
亀山『じゃあ俺達も行きますか』
右京『ええ、ところで君はピン札の旧一万円札が今いくらで取引されているか知っていますか?』
亀山『さあ、五万くらいでですか?』
右京『額面以上にはほとんど価値はないそうですよ』
亀山『なんだ、集めようかと思ったのに…』