刑事部長室にて

内村『なんだと?今度はうちの管轄で起きたのか』

中園『はい、詳しいことは鋭意捜査中ですが…元厚生省の事務次官が襲われたのは間違いありません』

内村『埼玉の事件の二日後か…すぐに現役を含む事務次官経験者の所在を確かめて警備を強化するんだ』

中園『はい。警察庁からも同様の指示が出ています』

 そこの現れた小野田『困ったことになりましたね~マスコミは連続テロだと騒ぎ出しますよ』

内村『省内や閣僚の警備も強化し3件目はなんとしても阻止しなければなりませんな』

小野田『もちろん僕らも気をつけなくちゃね』


 翌日、特命にて

亀山『今度は中野ですか』

右京『世間では年金テロだと騒いでいるようですね~』

角田『まあ、年金問題で怒りたくなる気持ちもわかるけどな』

右京『おやおや、警察官としてそのような発言はどうかと思いますよ』

角田『これは失敬した、しかし今度は未遂で済んだとはいえ宅配便を装って誘き出して刺すなんてひどいな』

亀山『先日は浦和の岸武信元事務次官、今度が平尾元事務次官…やっぱり連続テロなんすかね?』

右京『2件の事件には共通点がいくつかあるので可能性は高いと思いますよ』

そこに現れた米沢『どうやら埼玉の事件と同一犯で間違いなさそうです』

右京『というと?』

米沢『埼玉県警の友人から聞いたところ、残された空の宅配荷物にあった宛名の筆跡がどちらも同じものでした。指紋はないので実行犯だと断定はできませんが』

亀山『じゃあ、やっぱりテロですか』

そこに現れた小野田『邪魔するよ』

角田『官房長…失礼します。仕事、仕事』

米沢『私も仕事に戻ります』

右京『わざわざありがとうございます』

小野田『相変わらず勝手に捜査してるようだね』

亀山『俺らに正式な捜査権限のある事件はありませんから』

小野田『まあ、そうだね』

右京『それより、わざわざこちらに出向くということは何かご用があるのでは?』

小野田『うん、今の事件、どうやら裏があるようなの』

亀山『どういうことです?』

小野田『さっき言ってた宅配荷物の送り主の名前が渡辺久宏だったのよ』

亀山『だれですか、そいつ』

右京『15年前、旧厚生省内でテロ事件が起きたのはご存知ですよね?』

亀山『そういや、ありましたね』

小野田『そのとき容疑者として逮捕されたのが渡辺久宏という男なの』

亀山『たしか省内に仕掛けられた爆弾によって一人が亡くなってしまいましたよね』

右京『ええ、そして当時大学院で爆発物の研究をしていた渡辺を容疑者として逮捕、もちろん否認を続けましたが10日後に自白しました』

亀山『それが何の関係があるんです?』

小野田『渡辺は公判中に証言を翻して、警察に自白を強要されたと言ってきた』

右京『ところが、その翌日渡辺は拘置所で自殺してしまったんです』

亀山『そんなニュースありました?』

小野田『君が知らないのも無理ありませんよ。当時、マスコミには圧力がかけられてほとんど有耶無耶のまま自殺として処理されたんだからね』

右京『そして今回の事件で彼の名前が出てきましたか』

小野田『どうやら15年前の事件を片付けないと今回の事件は解決できないようだからね、お前に捜査を頼みたいのよ』

右京『どんな結末になってもよろしいのですか?』

小野田『お前のことだ、真実を知ってしまったらもう止められないだろ』

亀山『まず何から調べます?』

右京『当時の事件から調べてみましょうか』

 しかし、事態は思わぬ方向へ。被疑者が警視庁に出頭してきた。


 取り調べ室にて

伊丹『あんたの名前は?』

被疑者『西口文雄(45)』

三浦『なんでこんな事件起こした?』

西口『あいつらが階級社会を作り出したんだ、だから俺が始末した』

伊丹『で、凶器は?』

西口『表の車の中にある』

伊丹『芹沢、すぐに調べろ!』

 しばらくして

芹沢『確かに血の付いたナイフが発見されました』

 そこに右京が現れる

右京『送り主の名前はどなたでしょう?』

西口『適当に名前つけただけだ』

右京『しかし、送り主の名前まで書く必要があったのでしょうか?』

西口『とにかく、俺が殺したんだ、中野では失敗した、それだけだ』


 続く~

 特命の二人は鈴木の住むアパートの前にやってきた。部屋に入るため管理人を呼ぼうとしたとき、鈴木の部屋の中で物音がした。

亀山『今音しましたよね?』

右京『ええ、ドアの鍵も壊されていますね』

 
 急いでドアを開けると、部屋の中では男が何かを探していた。二人に気付いた男は窓から逃走を図った。

亀山『待て、こら!』

右京『亀山君、急いでください!』

 そこに逃走方向から伊丹らが来た

伊丹『何やってんだ、おい』

亀山『そいつを捕まえろ!』

芹沢『え?』


 男は別の道を逃げる、そこに右京がどこからともなく現れる

右京『おやおや、物騒なものをお持ちですね~』

 男はナイフを突き出した、しかしすぐに右京に投げられ取り押さえられる

亀山『すいません、しかしどっから来たんです?』

右京『そんなことより、部屋から何を盗み出したのですか?』

男『・・・』

伊丹『とにかく家宅侵入の現行犯で逮捕だ。来い!』

亀山『部屋に戻りますか』

右京『ええ』


 部屋に戻り、二人が手紙を探していると雑誌の間から手紙が見つかった

亀山『これですね、それにしてもさっきの男は何者なんですかね?』

右京『それはこの手紙を分析してみなければ何とも言えませんね』


 鑑識にて

米沢『お待たせしました、残念ながら指紋の類は発見されませんでした。唯一わかったことといえばこれが印刷されたのがC社のPXV360というプリンターであることぐらいですな、お役に立てなくて申し訳ありません』

右京『そうでしたか、しかしそうなると疑問がひとつ』

亀山『なんで手紙を取り返しに来たかですか』

右京『ええ、警察がマークするのが時間の問題だと分かっていながら取り返しにきた…犯人側の行動が読めませんね~』

米沢『犯人側にも焦りが相当あるのでしょうかね、私ごとですが完璧な仕事をしたと思っていても不安になるものです』

右京『…なるほど。もういちど古室さんの家を調べてみましょう』

亀山『はい』


 取り調べ室にて

伊丹『お前、誰に頼まれて何を調べてたんだ?』

男『…』

三浦『名前ぐらい教えてくれたっていいだろ~』

男『…』

外から見ていた芹沢『さっきからあの調子ですよ、何を聞いても完全黙秘』

亀山『あいつがカギを握ってんだからしっかり調べろよ』

芹沢『僕に言わないで下さいよ~』

右京『凶器に残された指紋とは一致したのですか?』

芹沢『それも一致しなかったので、僕らもどうしていいか…』


 中に入る右京と亀山

右京『1分だけよろしいですか?』

三浦『1分で聞き出せるならどうぞご自由に』

右京『古室さんの部屋からいくつかの写真が発見されました。音楽関係者との写真、芸能関係者との写真、さらにはある団体の写真、そしてそこにはあなたも写っていました、そしてその隣には…有名な人物が写っています』

(写真を見せる)

男『もうわかってしまったんですか…』

右京『あなたは華原教のメンバーですね』

男『…ええ、でも教祖は関係ありません』

伊丹『華原教?』

三浦『おいおい、華原教と言ったら公安もマークしている宗教団体じゃないか』

亀山『あんたが鈴木に手紙を出したのは認めるんだな?』

男『ええ、ただそれだけですよ』


 特命にて

角田『華原教っていったらかなり黒い噂が絶えないからな』

亀山『なんだかんだで金をかき集める連中みたいですね』

右京『少しずつ事件の真相が見えてきました』


 現場となったホテルにケイコ、華原組教祖(華原隆弘)を呼び出した特命係

ケイコ『犯人はこの人です!』

華原『何を言ってるんだ…私は疑いを晴らすためにここに呼ばれたんだ』

右京『おっしゃる通り、今回の傷害事件に関してはあなたは無実です。しかしこの一連の事件に関しては大いに関係ありますよね~』

ケイコ『こいつよ!こいつが犯人なのよ!』

亀山『もう止めましょうよケイコさん、本当は傷害事件なんて存在しなかったんですから』

ケイコ『…』

右京『あなたの狙いは華原に罪を着せること、もっと言えば古室さんの復讐ですね?』

ケイコ『…なんで…』

右京『以前もお話ししましたが、あの時ルームサービスを頼んだことはあなたしか知りえません。しかしあなたは被害にあった。ここから導き出されるのはあなたが犯人を誘ったということですよ。あなたからの連絡で華原はホテルの部屋に来ました、そしてタイミングを見計らってあなたは自ら用意したレンチで頭を殴ったのですね?』

亀山『だから凶器が現場に残されたんですよ、しかも直前に華原に連絡を入れて警察がマークしているとでも言って慌てて引き返すように仕向けた』

右京『おそらく凶器からは華原さんの指紋が検出されると思いますよ』

ケイコ『それはそうよ…あの人に以前借りた物を使ったんだもの』

華原『まったく迷惑な話だ!』

亀山『あんたな、なんでケイコさんがこんなことを起こしたのかわかってんのか?』

華原『私には関係ない!』

右京『いいえ、先ほども言ったように事件全体にはあなたの存在が不可欠です』

亀山『あんた古室さんからかなりの額を受け取っていたんだろ!それも借金までさせて…』

華原『そんなのは彼の勝手だ、私が脅迫したわけじゃない』

ケイコ『あんたが何もかも奪ったのよ!』

亀山『借金だらけになった古室さんに、まだ金を出させようとしてあの詐欺事件に至ったんだろ』

華原『何を言っているんだ、私が何をしたっていうんだ!』

右京『今のところ我々にあなたをどうこうすることはできません、しかし明日は我が身。この言葉をよく覚えていてください』

ケイコ『こんな奴のために…私たちは…確かに古室も悪かったんです、あんな奴に引っかかったりして…でもどうしても許せなかった』

亀山『こんなことをしなくても、いずれ逮捕されたはずです』

ケイコ『そんなの待っていられません!一日でも早くあいつを葬り去りたかったんです!』

右京『華原さん、あなたは自ら後ろめたいことがあると告白してしまったんですよ』

華原『なんのことだ?』

右京『あなたは自分が嵌められたことを知り、しなくてもいい工作をしてしまった。鈴木という男を利用したのが最初です』

亀山『なにしろ自分の計画外の出来事だから相当動揺してたようだな、証拠能力のない手紙のために鈴木の部屋に自分の仲間を行かせたりしなきゃあんたに捜査の手が及ぶことはなかったはずだ』

華原『…』

ケイコ『でも、なんで私が自分でやったと?』

右京『防犯カメラの映像ですよ。華原はまるで防犯カメラの位置を把握しているように巧みに顔が映らないように来ています。あなたを殺害するためだけならリスクを冒してまでこんなことはしませんよ。つまり、場所を指定したのはあなたであること、さらに[面倒なことになるからカメラに残らないように]とカメラの位置を指示したのもあなたです』

ケイコ『小野田さんに警視庁が用意したホテルの場所を聞いていたので、カメラの場所を調べたんです』

右京『上層部というのは小野田官房長でしたか』

ケイコ『ええ、昔小野田さんは彼のファンだったようです』

 特命にて

亀山『今回のことで公安も動き出したみたいで、華原の逮捕は時間の問題だそうですね』

右京『そのようですね~』

角田『結局、ケイコのしたことも無駄じゃなかったってことだな』

亀山『しかし、何で人生が左右されるかわからないものですね~』

右京『ええ、古室さんも成功の陰で多くの人間にいろいろなものを奪われていたようですからね~』

角田『残ったのは奥さんだけだもんな』

亀山『もし俺がそうなっても美和子は助けてくれますかね?』

右京『君が信じなくて、誰が信じるというのですか』

亀山『そうっすよね~』


終わり~

 ホテルの部屋に鑑識が入り、捜査を開始した捜査一課と特命係

亀山『そういえば、なんでお前らが傷害事件やってんだよ』

芹沢『部長が上層部からかなりきつく言われたみたいっすよ、なんで警護課が担当しなかったんだって。そんで僕らに出番が回ってきたんすよ』

右京『米沢さん、何かわかりましたか?』

米沢『凶器はこのレンチですね、後頭部を殴ってすぐに放り投げて逃げ去ったようです』

亀山『凶器から指紋は?』

米沢『右手の指紋の一部が出ています』

右京『妙ですね~なぜ凶器を置いて行ってしまったのでしょうか、ホテルの場所まで突き止めておきながらかなり間が抜けています』

亀山『俺達がいたから慌てたんじゃないっすか』

伊丹『バカ、もしお前たちに気付いてたら何も危険を冒してまでこんなとこにこねーだろ』

右京『おっしゃる通り!犯人の黒いコートの男は何故ここで犯行に及んだのかがわかりませんね~』

三浦『言われてみると、顔を見られている可能性があるのに中途半端に殴ったりするのもおかしいな』

芹沢『本人に確認してみますか、今病院から連絡があってもう話ができるみたいです』

右京『参りましょうか』

伊丹『おっと、警部さん。ここからは俺達捜査一課の出番ですから』

三浦『もう、現場も調べたんですから終りにしてください』

亀山『冗談じゃね・・・』

右京『亀山君。では、お任せいたします。警視庁に戻りますよ、亀山君』


 警視庁刑事部長室にて

内村『杉下、とんでもないことをやってくれたな』

右京・亀山『申し訳ございません』

中園『今回の責任はお前らにあるんだからな、処分は追って連絡するからそれまで大人しくしてろ』

右京『はい、では失礼いたします』

 
 部屋を出る二人

亀山『自分らが悪戯だと思ってたのにあんな言い方はないっすよね~』

右京『僕らのミスに違いはありませんよ』

亀山『まさか本当に大人しくしているわけじゃないっすよね?』

右京『ええ、大人しく捜査します』


 鑑識にて

米沢『そろそろ来るころだと思いました。防犯カメラの映像ですが解析を試みましたが顔を確認できるものはありませんでした』

亀山『最近のは画質がいいはずっすよね?それに解析装置だって技術が向上してるって聞いたことあるのに…』

米沢『確かにそうなんですが、カメラの映像は旧式のものが多いうえに、かなりのスピードで動くものには不向きですから』

亀山『それにしても、もう少し左なら全部見えているのに…惜しいな~まるでカメラの位置を分かってるみたいじゃないっすか』

右京『亀山君。なるほど。そういうことでしたか』

亀山『え?』


 ケイコの入院している病院にて

亀山『この度は申し訳ございませんでした』

ケイコ『別に刑事さんが悪いわけじゃありませんよ。不用意にドアを開けた私のミスですから…』

右京『いえ、そういうわけにはいきません。亀山君。』

 右京に促されて亀山が1枚の防犯カメラから写し出した写真を取り出す

亀山『今回の犯人なんですけど、この黒いコートの男ですか?』

ケイコ『だと思います。別の刑事さんにも話しましたけど…』

右京『しかし、そうなると疑問がひとつ。なぜ、あなたはコートの男を確認しておきながらドアを開けたのでしょうか?』

亀山『普通、確認しますよね?こんな状況でホテルにいたわけですから』

ケイコ『でも、ルームサービスって言われたからで、』

右京『そこなんですよ、犯人が、あなたがルームサービスの電話をフロントに入れた後にホテルに来たことは通話記録と映像から明らかになっています。だとするならばルームサービスを頼んだことを知っているのが妙なんですよ』

亀山『あんな時間に頼んでもいないルームサービスを受け取る人はいませんからね』

ケイコ『私が嘘ついてるって言うんですか?』

右京『おやおや、そのように聞こえてしまったのなら謝ります。何事も疑ってかかるのが僕の悪いくせ。』

亀山『右京さん、いくらなんでも失礼ですよ。ね~ケイコさん。もしかしたらホテルの関係者に犯人がいるかもしれませんよ』

右京『なるほど、ではもう一度従業員を洗ってみましょうか、お気分を悪くなされたのなら申し訳ございません』

 部屋を出て行こうとする二人

右京『おっと、最後に一つだけ。大事なことを忘れていました。カメラに映った犯人は左利きなんですよ。エレベーターのボタンを押したのも、フロントのドアを開けた時も左手でしたのでまず間違いありません。しかし凶器には右手の指紋。どういうことか分かりませんか?』

ケイコ『私が知るわけありませんよ…』

亀山『そうですよ、右京さん。早く従業員を調べましょう』


 次の日、特命にて

亀山『犯人が捕まった?』

角田『ああ、なんでも借金取りの仕業らしいぞ』

亀山『どうなってるんすかね?』

右京『行きましょう』

 取り調べ室にて

伊丹『お前がやったんだな?』

犯人として出頭してきた鈴木という男『そうだよ、金返さねーからだ』

伊丹『じゃあ、何でホテルでやったんだ』

鈴木『偶然、ホテルに入るのを見たからチャンスだと思ったんだ』

部屋の中に入った右京『その時はケイコさん一人でしたか?』

鈴木『…ああ…』

右京『それは違います。ホテルに入った時は我々と一緒でしたからね~誰かをかばっているのですか?もしくはお金で雇われましたか』

伊丹『警部さん、いきなり何言ってるんですか』

鈴木『俺がやったんだ、ペンチで殴ったんだ』

右京『おやおや、凶器はレンチですよ。お金で犯罪者になろうとしているのだとしたら賢明な判断とは言えませんね~たとえ執行猶予が付いたとしても前歴は残ります。それでもよろしいのですか?』

鈴木『くっそ…すぐに釈放されるからって言ったくせに…騙された…俺は騙されたんだ!』

伊丹『バカかお前?威張っていうことじゃねーんだよ、で誰に言われたんだ?』

鈴木『どこのだれかは知らない…俺の部屋に手紙と100万円の束があって、言われたとおりにすればさらに100万出すって』

右京『その手紙はどこでしょうか?』

鈴木『俺の部屋にあるはずだ』


 特命の二人は鈴木の部屋に向かった。

続く~

 特命係の部屋でテレビを見ている亀山と右京


リポーター『えーたった今、古室哲也容疑者を乗せた車が来ました!古室さん!今回の事件について一言!』

亀山『なんかすごいことになっちゃいましたね』

右京『現役の音楽プロデューサーによる5億円もの詐欺事件となれば無理もありませんからね~』

亀山『また俺ら庶民とはケタが違いますからね』

角田『ヒマか!』

亀山・右京『おはようございます』

角田『あ~この事件か、今朝からのこの話題ばっかりだな、それにしても5億とはね~まったくでかい話だよ』

亀山『一時は時代を築いた人なのにね~』

右京『それほど有名なのですか?』

亀山『アムロとかグローブとか曲を作ればヒットしていたんすよね~課長』

角田『俺もよくカラオケで歌ったよ』

右京『そうでしたか、何分そういう方面には疎いもので…』


 そこに内村刑事部長と中園参事官が現れた

内村『杉下、亀山。お前らに仕事だ。しっかり働け』

亀山『なにをやるんすか?』

中園『身辺警護だ、悪戯だとは思うが念のためお前らを警護につかせる』

右京『どなたの警護でしょうか』

内村『そこの新聞に写っている人物だ』


 亀山の広げていたスポーツ紙には「古室の妻、ケイコ」が写っていた


 ケイコの自宅にて

右京『初めまして、特命係の杉下と申します』

亀山『同じく特命係の亀山です』

ケイコ『古室圭子です…』

亀山『本名も圭子さんだったんすか』

ケイコ『え~』

右京『早速ですが、脅迫状がお宅に届いたそうで、拝見させてもらえますか?』

ケイコ『これです』

手紙を見る亀山『なになに?[金を返せ、そうしなければお前にも危険が及ぶからな]これ1通だけですか?』

ケイコ『同じ内容のがあと3通あります…』

右京『なるほど、最初の手紙が10月1日、四通目が今日(10月24日)ですか。ここには(お前にも)と書かれていますが古室哲也さんに危険が及ぶような事態はあったのでしょうか?』

ケイコ『わかりません。彼は何も言ってませんでしたが…彼の知り合いが警察の上層部にいるらしくて、もしかしたらその人に相談していたかもしれません』

右京『だとするならば身辺警護もその上層部が決めたことでしょうね~』

亀山『これからしばらく俺達が警護につくんで安心してください』

右京『ご自宅では何かと不都合がありますので我々が手配したホテルへ参りましょうか』

ケイコ『お願いします』

 外に出る特命の二人とケイコ

複数のリポーター『ケイコさん!一言お願いします!』『事件について一言!』『離婚されるというのは本当でしょうか!』

ケイコ『…』

亀山『ノーコメント!!ケイコさん。さあ車に乗ってください』

右京『尾行されるかもしれません、遠回りして振り切ってください』

亀山『了解!』


 ホテルの一室にて

亀山『では、我々は隣の部屋に待機してますので何かありましたら呼んでください』

右京『なるべく外出はせず、ルームサービスも最小限でお願いします』

ケイコ『わかりました』

 隣の部屋

亀山『さて、こっからはどうするんです?』

右京『先ほど警護課から連絡が入り、2~3日こちらで様子を見ます。もし何も起こらなければ我々は引き上げます』

亀山『最初から警護課が担当することですよね~?』

右京『悪戯の可能性が高い今回のようなケースでは人員を割けないのでしょうね~』

 その日の夜

 ホテルの部屋でケイコが何者かに襲われた

ホテルの従業員『誰か!早く来てくれ!』

亀山『どうした?!』

従業員『お客様が・・・倒れています』

亀山『ケイコさん!大丈夫ですか!』

右京『幸いまだ意識はありますね、亀山君、すぐに救急車を!』

亀山『はい!』

右京『部屋には警察が来るまで入らないでください、あなたは何故この部屋に?』

従業員『ルームサービスのお電話が入りましたのでコーヒーをお持ちいたしました』

亀山『夜中の2時になんでまたルームサービスなんて…』

右京『では、この部屋に来る間に不審な人物を見ませんでしたか?』

従業員『そういえば・・・黒いコートの男がエレベーターを降りる姿なら見ました』

右京『亀山君、すぐにフロントで確認してください』


 フロントにて

受付『確かに黒いコートの男性なら先ほど外に出て行かれました』

亀山『どんな男か分かりませんか?』

受付『顔ははっきりとは見ていませんのでどんなと言われても…』

亀山『じゃあ、なんか特徴は?』

受付『なんなら防犯カメラの映像を確認しますか?』

右京『ぜひお願いします』

亀山『ケイコさんは?』

右京『今、非常口から救急搬送されました。どうやら殴られたようですが意識もはっきりしているので大丈夫でしょう』


 警備室にて

右京『確かに黒いコートの人物が映っていますね~体格から男性だということも間違いなさそうです』

亀山『じゃあ、こいつが犯人ですかね』

右京『しかしこの映像では解析しても人物の特定は困難でしょうから、ここから犯人を導き出すのは難しいと思いますよ』

亀山『くっそ…せっかく俺らがついていたのに…』

 

 そこに伊丹ら捜査一課がやってくる

伊丹『特命係の亀山~またまたとんでもない失態じゃねーか』

亀山『うっせー』

三浦『これはこれは警部殿~あなたが付いていながらどうしたんですか』

右京『僕らのミスです。しかしこうなった以上、犯人を捕まえるだけです』

芹沢『でも、部長がすぐ戻って来いって言ってますよ』

亀山『…』

右京『では、すぐに事件を解決しなければなりませんね~』


 続く~


 みつほ銀行の世田谷支店にて

行員の森野『確かに荒木圭子様はこちらで現金を受け取りになっています』

右京『それは何日でしょうか』

森野『10月12日、当選発表の翌日ですね』

亀山『それは本人に間違いありませんよね?』

森野『それは間違いありません。1000万以上の高額当選者は当行でも審査を厳重にしていますので』

亀山『そのとき何か変わった様子はなかったですかね?』

森野『それが・・・2億円のうち1000万円は当行に口座を新設いただきました。しかし残りはすべて段ボールに詰めて自宅にお持ち帰りになりました』

右京『何故そのような大金を持ち帰ったのでしょうか』

森野『我々も安全上の問題があるので止めたのですが、使い道があるとおっしゃっていました』

亀山『ってことは1億9千万はどこかへ消えてしまったわけですね…』


 特命係にて

伊丹『特命係のかめやま~てめ~また勝手に捜査しやがって』

芹沢『刑事部長もカンカンでしたよ』

亀山『まだ事件かどうかも分かんねーんだからお前らじゃ何もできないだろ!』

右京『ええ、限りなく事件に近いというだけでまだそうと決まったわけではない。そんな事に捜査一課の手を煩わせるわけにはまいりませんよ』

芹沢『そう言われるとそうっすね』

伊丹『バカ!納得してんじゃねーよ。とにかく警部さん、これ以上余計なことはしないでくださいよ』

右京『では、そうさせていただきます』

 伊丹と芹沢が去る

亀山『あいつらの言いなりなんすか?』

右京『彼らは余計なことなするなと、でしたら余計なこと以外をするまでですよ』


 鑑識にて

右京『米沢さん、どうでしたか?』

米沢『荒木圭子の部屋からは特に事件性のある痕跡は見つかりませんでした。もちろん現金が隠されているということもありません』

亀山『何処行っちゃたんすかね』

右京『2億円近くの現金を運ぶには当然車が必要になりますね、しかし荒木さんには車も免許もない。さらに銀行の警備員によってタクシーではなく乗用車に乗り込む姿が確認されています。つまり車を運転していた人物は荒木さんが現金を持っていたことを知っていた』

亀山『じゃあ、そいつが奪った可能性もあるわけですね』

米沢『それにしても、せっかく当選しても使うこともできずに事件に巻き込まれるとは…何が幸いか分かりませんな。女房が逃げたのもいずれ吉と出るのでしょうか』

亀山『それは、置いといて。右京さん、次はどうします?』

右京『すぐに答えは出ると思いますよ』


 圭子の友人に聞きこむ特命の二人

右京『警視庁特命係の杉下と申します』

亀山『同じく亀山です』

友人の立浪芳江『警察が何の用ですか?』

亀山『荒木圭子さん行方が分からなくなっていまして、何か事情を知りません?』

立浪『圭子が行方不明?どこか旅行に行ったんじゃないんですか?』

右京『しかし誰にも何も言わずに旅に出るとは考えにくいと思いませんか』

立浪『そういえば…10日くらい前に電話があったんです。[しばらく姿を消す]って』

亀山『なんでそんなことを?』

立浪『こう言っちゃなんだけど圭子の彼はどうしようもない男だから…お金のことになると何をするかわかりませんから』

右京『そうでしたか、ご協力感謝します』

 
 その後、もう一人の友人を訪ねた二人

友人の井上孝子『圭子がどうなろうが私は知りません!』

亀山『随分な言い方ですね~友人なんでしょ?』

井上『圭子は最近変わったんです…私が家計が苦しいってちょっと言ったら何万もする宝石をくれたり、食事に行ったら全部会計したり…最初は素直に喜んでいたんですけど。ある時[ホントに哀れなのよ~]って電話で話してるの聞いてからなんか馬鹿にされたようで…』

右京『それで連絡を取らなくなったわけですか』

井上『ええ…以前はあんなじゃなかったのに』


三浦『荒木圭子の交際相手がわかった!名前は中村紀行(45)住所は目黒だ』

伊丹『行くぞ!芹沢!』

芹沢『はい!』


 すぐに一課は自宅にいた中村の任意での事情聴取を開始

伊丹『荒木圭子さんが失踪しているのは知ってるな?』

中村『失踪?…確かに最近連絡がつかないから気にはしていたんだ』

伊丹『とぼけてんじゃねーよ、お前が関係してんじゃねーのか?』

中村『なんで俺が』

芹沢『あなた、圭子さんに随分と金をせびっていたそうじゃないですか、そんな時2億円当選なんて聞いたらね~』

中村『2億円当選?何のことだ?とにかく俺は圭子がどこに行ったかなんて知らねーよ!』

三浦『じゃあ、あんたの借金1000万円が先日きれいに返済されてるのはどう説明するんだ、それに別の女と結婚の話も出ているそうじゃないか』

中村『それは…家の前に置いてあったんだ…家に帰ったら郵便受けに入っていたんだ』

伊丹『嘘をつくならもっとましなウソをつけよ、こら』

中村『本当だ!俺は何も知らない!てっきり圭子が貸してくれたもんだと思ってたんだ…でもその後まったく連絡取れなくなって』


 その様子を取調室の外で見ていた特命の二人

亀山『どうやらこいつで間違いなさそうですね』

右京『しかし、伊丹刑事の言う通り嘘をつくならもっと方法があると思いますがね~』

 その後右京が突然、室内に入る

三浦『警部殿~』

右京『10秒だけ』

右京『あなたの持っている車を教えてください』

中村『白のセダンですよ、トヨダのグラウン』

右京『軽自動車はお持ちではないのですね』

中村『ああ』

右京『結構、失礼しました。取り調べを続けてください』

亀山『ちゃんと調べとけよ~』

伊丹『うっせー』

芹沢『それにしても今の何だったんすかね?』

 部屋の外から廊下を歩く二人

亀山『警備員に目撃されたのは軽自動車だったってことですか?』

右京『ええ、少なくとも当選の事実は彼ではなく、別の人物が知っていたということになりますね~』

亀山『でも、中村が嘘をついているかもしれませんよ』

右京『先ほども言ったように調べればすぐにわかる嘘をついたりしませんよ、仮に現金を取ったのが彼だとしたら、圭子さんの部屋から宝くじをすべて持ち去っているはずです。我々もあれがなければ当選の事実を知ることはできませんでしたからね~』

亀山『だったらその別の人物ってのも奪ったはずじゃないですか?』

右京『そこですよ。中村は合鍵を持つ間柄なのでいつでも出入りできますが、第3者となれば家宅侵入か、もしくは管理人に鍵を開けてもらうことになります。しかしそんな事をすれば逆にリスクが高くなりますよ』

亀山『なるほど。だから中村に容疑を向かわれるべく彼の家に1000万円を置いた』

右京『ええ、さらに失踪から7年が経てば圭子さんは死亡扱いとなり、唯一当選の事実を知る者は2億円を自分のものにできます』

亀山『で、その人物は誰なんです?』

右京『一人心当たりがあります』


 特命の二人は荒木圭子の部屋に井上孝子、立浪芳江を呼び出した

右京『今回の失踪事件は2億円の当選という荒木さんの強運から始まりました』

亀山『ところがそれによって事件に巻き込まれることになった、もちろん現金も奪われてね』

井上『それが私たちと何の関係があるんです?』

右京『今回の失踪が自らの意思でないとすれば当然犯人が存在することになります。そしてその犯人は2億円の当選の事実を知っている人物』

亀山『圭子さんはあなた方のどちらかに話した。どこか違いますか?』

井上『知りません』

立浪『私だって』

右京『そうですかね~井上さんは最初にお伺いしたときこうおっしゃっていました。[馬鹿にされたようで]と。もしも当選の事実を知っているならば当然彼女の行動も理解できたはずなのであのような発言は出ません。しかし立浪さん。あなたはこちらが聞いてもいないのに[お金のことになると…]と失踪の裏にお金が関わっている事をすぐに連想していましたね』

立浪『そんなのただの想像ですよ』

亀山『でも、以前あんたと圭子さんが一緒に宝くじを買っている姿を見た人がいるんですよ』

右京『たがいに購入番号を控えていたか、もしくはあなたが購入し圭子さんに渡したものかのどちらかではないですかね~』

立浪『…証拠はあるんですか?』

右京『人間というのはごく限られた範囲でしか動けないものです。まして犯罪に慣れていない者であればなおさら自分の行動範囲でしか考えられないものです』

亀山『そこであんたの職場の工場を調べさせてもらいましたよ。驚くことにあなたの私物ロッカーから大量の現金が見つかりましたよ』

立浪『…』

右京『圭子さんはどこですか?』

立浪『…私が宝くじを買うのを誘ったのに…なんで圭子にばっかり…彼女に罰があたったのよ』

手を出す亀山『てめ~いい加減にしろ!』

止める右京『亀山君!もう一度聞きます。圭子さんはどこですか?』

立浪『…もう探したって無駄よ』

右京『立浪さん!あなたは自分が何をしたのか分かっているのですか!恥を知りなさい!』

立浪『…首を絞めて工場の敷地内に埋めたわ…』

右京『あなたはこれから先耐え難い苦痛を味合うと思いますよ。今度はあなたが死の恐怖におののくことになるでしょうから』

亀山『それから井上さん、圭子さんが哀れだと言ったのはあなたのことじゃありませんよ』

右京『彼女の日記から察するに交際相手の中村という男のことを言ったのだと思いますよ。圭子さんはあなたのことを本当に大事に思っていたようですから』

井上『そんな…私…なんて詫びたらいいか…』


 特命にて

角田『しかし、またとんでもない事件だな』

亀山『米沢さんの言う通り、人間どう転ぶか分かりませんね。それにしても何で現金を持ち帰ったんすかね?』

右京『今日のニュースを見ませんでしたか?みつほ銀行は破綻寸前だそうですよ。彼女の勤務先は信用金庫でしたから、どこからかその情報を掴んでいたのかもしれませんね~そして、いくら仲のいい間柄でもお金のことには慎重になりすぎるくらいでちょうどいいのでしょうね~』

亀山『もし俺が2億当たったら右京さんも人変わります?』

右京『そうですね~もしそうなったら、少しは変わるかもしれませんね~しかしその前に君は僕以外の人物に話してしまうので意味がないと思いますよ』

角田『だな。お前はそこらじゅうのみんなに話しそうだな』

亀山『それじゃ、まるで俺がバカみたいじゃないっすか』

角田『まあ、平たく言えばそうだな』

亀山『そんな!』


杉下右京は角田課長と両替した珍番紙幣のことを思い出しながら今日も紅茶を飲んでいた。

終わり~