胆汁が漏れた
9/6に初めての往診の日の朝。仕事が休みだった私も自宅にいた。ちょっと来て!という母の声。父のところへ行くと、ドレーン刺入部の保護フィルム内に胆汁が漏れ出ていて、パジャマにまでしみている。父は前日発熱したため、抗生剤を飲んで横になっていたため、夜にドレーン刺入部の観察をしていなかった。そのため、いつから漏れたかは正確に分からないが、父が「そういえば夜中にお腹でぐちゅぐちゅ音がしていた」…と言ったので、おそらく夜間に漏れたのだろう。急いで父をベッドに寝かせ、フィルム交換を行う。フィルムとガーゼを剥がし、消毒を行ったが、7末の入院時にできた水疱の治癒痕が軒並みただれている。いつもは平気なエタノール消毒がしみて、父も痛そうだ。しかし、胆汁が皮膚についたままにはできない。痛いだろうが、石鹸洗浄できれいにする。ドレーンのナート固定(縫合部)は17cmでずれてはいないが、刺入部を進めてみると3,4mm程だが奥に入る。奥に入った状態で消毒し、ガーゼ・フィルム保護を行う。(皮膚がただれた場所は、浸出液が多かったため、自宅にあったハイドロサイトプラスという保護材を使用)その後、フィルム内に胆汁のしみ出しは見られない。排液バッグに胆汁は溜まっていたが、父曰くいつもより量が少ないという。ドレーンが完全に詰まったわけではなさそう…先端がずれたか?メディカルセンターでドレーンの入れ替えにトライしてもらう方がよさそうだと思い、一応まずは主治医に電話する。しかし…主治医は、緩和ケアに移行したということは、積極的な治療は行わず身体の変化を受け入れていくこと。ドレーンに関しても同じで、何かトラブルが起きても、積極的に入替などを行わず、経過をみるのがよいのではないか。もちろん患者や患者家族の希望があれば、入替を依頼することは全く構わないが、結局は入院して麻酔など行えば多少なりとも痛みを伴うし、入替しても結局はまた同じことが起きるかもしれないし、父の状況的におすすめできるものではない。自宅での看取りをするということは、こういうトラブルが次々と起こることを受け入れていかなくてはならない…と優しい口調ながらも、直球の分かりやすい言葉で私を諭す。私は病棟勤務なども行っていたせいか、ドレーンが抜けた=入替を行う、という頭しかなかった。特に、父はまだ日常生活は自力で行える状況であり、ドレーンのトラブル時は対応していくのだという考えしかなかった。しかし、先生の言っていることは正論だ。最終的な判断には患者と家族の意思が最も大切だ、と言いつつ、看取りの覚悟をしなければならないよと、私に教えてくれた。もし私が父に言いづらければ、先生から父に言ってくれるとも言ってくれた。私から父に説明できます、とお礼を言って電話を切る。父に先生の話を伝える。私と母と父の間に、少し重い空気が流れる。頭では皆、分かっている。結局、そのままドレーンは経過を見ることにし、午後の往診を待つことにした。