車窓から思う | 学生団体S.A.L. Official blog

学生団体S.A.L. Official blog

慶應義塾大学公認の国際協力団体S.A.L.の公式ブログです。


僕らは四川省アバチベット族チャン族自治州からの帰りのバスの道中にいる。

絶景の九寨溝、黄龍を見るのが主な目的であった。もちろん、それらは信じ難いほど美しかった。しかし、目に焼き付いたのはそれらの美しさだけではない。行った者にだけわかることが、そこにはあった。

「中国内陸部」を体感したのだ。想像よりもずっと強烈で、刺激的だった。

険しい山地の合間を大型バスが縫うように走って行く。ふと外を見ると道路工事が至る所でされている。ブルドーザーが行き交い、作りかけの柱が立ち並んでいた。ヘルメットをかぶった男たちが作業に当たっている。いつから工事されていて、いつ工事が終わるのだろう。

「西部大開発」という有名な言葉が有る。早く言ってしまえば、近年になって中国政府が沿岸部と内陸部の経済格差を埋めるために内陸部のインフラを整備していることである。

一つ印象的な風景がある。工事現場や内陸部の小さな町には、中国の国旗がしばしば立っているのだ。「内陸部の生活水準を上げているのは俺たち政府だ」と示してるんじゃないか、とふと僕なりに思考してみた。

そう考えると、僕はなんだか少し悲しくなった。中国内陸部の後進性と西部大開発を進める政府、そしてそこに生きる人々を同時に感じて、複雑な気持ちになった。いったい彼らは自分たちの地域とそこの開発を推進していく政府のことをどう捉えているんだろう。自分たちの暮らしを向上させてくれていると前向きに捉えているのだろうか、それとも政府からの支配が強まって自由が奪われると後向きに捉えているのだろうか。

でも、一つこれだけは言える。
中国内陸部は、決して不幸ではない。

人々は明るかった。バスの休憩所の売店は活気に溢れていたし、人々は笑顔で接してくれた。北京のような沿岸都市部と変わらぬ姿が、そこには紛れもなくあった。

そして、多様な文化がそこには存在する。
チベットを象徴する旗、タルチョがチベット人の住居や山の様々なところに見られた。チベット人は観光地の前では歓迎の踊りを披露していたし、チベット民謡を歌う女性もいた。ひたむきに文化を伝播し、伝承していく姿をこの目で見ることが出来た。

僕は初めて中国内陸部を目にして、少し考えを巡らした。貧しい、遅れている、といったネガティブなだけではない姿を感じることが出来て、僕はなんだか安心した。



【文責:渉外局1年 岸田瑞基】