真夜中のタクラマカン砂漠。
砂漠と聞けば、灼熱の太陽に照らされた熱い砂の海を想像するかもしれない。
しかし砂漠の夜は暗く寒い。
日が沈むとあっというまに空気はしんと冷たくなる。
約一年半前ここを旅していた私たちは、そんな寒さを凌ぐため、冷たい砂の上に小さな円を作りささやかな宴会を始めた。
喉が焼けるような強いお酒を紙コップでちびちびと回し飲む。
少しだけ体が温まってきた頃、ウイグル人の日本語ガイドの男性が自分の携帯電話から音楽を流してくれた。
日本の唱歌「ふるさと」。
彼の一番好きな日本のうただと教えてくれた。
タクラマカン砂漠を含む広大な土地を持つ中国新疆ウイグル自治区。
中国とはいうものの、漢族ではなくウイグル族が多く住む地域だ。
人々の顔立ち、言語、宗教など私たちのイメージする中国とはまったく違う。
そうした異なった文化を持っているにも関わらず、彼らウイグル族は中国共産党政府の下で暮らしている。
ウイグル人の中には、政府のおこなった開発のおかげで便利で裕福な暮らしが手に入ったと言う人や、警察官など政府機関で働き生計を立てている人もいる。
しかし一方で、政府がウイグル族に対しておこなう民族政策には多くの不満も抱え込んでいる。
学校でのウイグル語教育の禁止。
ひげを伸ばすことや、子どもたちがモスクへ行くことの禁止など、信仰するイスラム教への制限。
そして、このままではウイグル族の文化がなくなるかもしれないという危機感を持ちながらも、大きな声で異議を唱えられない状況。
最近、そんな積み重なった不満が爆発したかのような事件が起こった。
ウイグル人によるテロとみられる政府庁舎襲撃。
数百人が関わる大規模なもので、多くの死傷者も出た。
また、東南アジアに密出国するウイグル人が増えているという報道もある。
彼らはイスラム系のテロリストだと危険視されている。
テロや暴力でこの問題が解決できるとは思わない。
しかしその背景には正当に叫べない怒りや不満があることを忘れてはならない。
政治や民族問題について質問しても、ガイドの男性は多くを語ろうとはしなかった。