熟考か、決断か | 学生団体S.A.L. Official blog

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慶應義塾大学公認の国際協力団体S.A.L.の公式ブログです。

8月に入りましたね。暑いです。
現在SALでは、9月のカンボジア・インドスタディツアーに向けてぼちぼち会議を重ねているところです。

会議では、具体的にスタツアで何をやるのか、といったことについて話し合っていますが、こうした議題は意外と厄介です。
一般論ですが、「何をするのが正しいのか」というのは相対的なもので、どれも一概には言えません。
さらに現実問題として、学生ができることも限られています。

「何をするべきか」よりも、「何が自分たちにできるか」のほうが優先になってしまうと、ちょっと本末転倒かなという気もします。
かといって、それを考えすぎてしまって何もできなくなるというのも、それはそれで本末転倒な気もしますね。


最近、そんな厄介な思考ループを解決するヒントになりそうな本を読んだので、ちょっと紹介してみます。

川喜田二郎『発想法 創造性開発のために』(中公新書、1967年)という本です。

名前だけ見ると胡散臭いハウツー本ぽいですが(笑)、「KJ法」という有名な社会科学・フィールドワークの方法論を提唱している、知る人ぞ知る「古典」のような著作です。
故川喜田二郎氏は、地理学・文化人類学の研究者で、東工大の名誉教授でもある、フィールドワークのスペシャリストです。当然、本の内容も、新書でありながら非常にしっかりしたものです。

この本で書かれているのは主に、フィールドワークにおける情報整理や、研究進行の方法論です。
ただ、すべてに触れる余裕はないので、ここでは簡単に、川喜田が提唱した「野外科学」という概念と、それを踏まえた上での研究に関する考え方をまとめたいと思います。

・科学を「書斎科学(座学)」「実験科学」という従来の二分法ではなく、そこに「野外科学」を加えた3種で分類することを提唱する

・「実験科学」とは、実験室で再現されるような、現実世界から抽出された「純粋な自然」を研究する科学であり、主に化学や物理、経済理論などが当てはまる

・「野外科学」は、ありのままの現実世界を対象に研究を行う科学を指し、地理学、文化人類学、生物学、一部の社会学などがこれにあたる

・従来の分類では、座学と実験という二つの分類しか無く、そのことは、フィールドワークの具体的な方法論が発展する上での妨げになっている

・研究には、先程あげた3つの科学の全てが必要であり、仮説を「発想」する段階では、まず野外科学による観察や探検が必要になる


以上が、本書の1章の簡単なまとめです。
「野外科学」という分類を新たに導入することで、より自覚的にフィールドワークの方法論を積み上げていこう、という提案ですね。
現実世界は単なる理論の応用の場ではなく、それ自体に別の方法論が必要なほど複雑で異質だということの再確認でもあります。
さらに一文にまとめるとしたら、野外科学は問題発見(仮説発想)の方法であり、研究全体は問題解決策の提示である、ということになります。


さて、では問題発見と問題解決、SALのスタツアの目的はどちらでしょうか。

長期的、あるいは現実的に見たときに、フィールドワークによる問題発見は重要です。
一方、今ある問題を、今出来る限り解決しようとすることも重要です。
カンボジア・インドに行くという貴重な機会を、どのように使っていくのが正しいのでしょうか。

これは、先程のジレンマの問題に帰ってきます。
たぶん、「迷う」ことも「決断する(行動を起こす)」ことも、両方必要なことです。
「より良く迷う」というと言い方は変ですが、決断を保留しつつ、より選択肢を増やしたり情報を集めたりする努力は、必ずしも悪いことではないと思います。
良くないのは「迷ってばかりで決断できない」ことと、「迷わずに決断する」ことですね。

SALの良いところは、そういう意味で多様な考え方の人がいるところだと思います。
今できることを最大限やろうとする行動力のある人や、
まず何が問題かを徹底的に考えたあとに、自分たちがやるべきことを考えようとする慎重な人、
どちらも組織には必要だと思います。

ちなみに僕はどちらかといえば後者で、実際に現地を見て考える機会が欲しいと思いSALに入りました。(慎重かどうかは微妙なところですが。笑)

幸い、SALは人数が多いので、スタツアでもいくつかのチームにわかれてプロジェクトを行うことができます。
なので、もし分担という形にすれば、先程のジレンマもサクっと解決できるかもしれません。
一つくらいは、問題発見や調査ベースのプロジェクトもあっていいのかなーとも思います。

ただ、サクっと解決できればそれでいい、というわけでもなく…。
やはり個人レベルでは、常にジレンマを抱えているほうがいいのかもしれません。
何かを判断するとき、決断するときにも常に無知への自戒を持つこと、
あるいは、考えすぎてしまうときには、自分の選択肢の中での最善を無理やり選ぶこと、
そういうバランス感覚を身につけていけたらなと思います。

(広報局 松本)

※『発想法』は実践的に役に立つ本なので、ぜひ読んでみてください。
特に論文やレポートの課題がでてる人にはおすすめです。KJ法便利ですよ!笑