父に、嘘をついた。

「資格取るための夜間学校に通う」と・・・

そんな、夜間学校があるわけが無い。
しかし、父は信じていた。


 受付の面接当日、交通事故に遭った。

赤信号中、相手の後部に自分から衝突。

・・・・・・・・・・・。



 2時間遅れで店に着いた。
弟に個室を案内される。

 お店の女の子が普段サービスしている個室だった。

その部屋は、ラブホテルを6畳内に収めたようなエロスが凝縮したような部屋だった。ガラス張りにシャワールームが見える。
腰を下ろす場所が、ベットしかなかった。

どのくらいの男が・・・・・
ここで夢見心地になったのか分からないくらい馴染んだ感じのベットだった。

仕方なくそのベットに腰を下ろす。
 室内が、変にムードのある緩い明かりなのが気になった。ムードを高めるに丁度良い照明だが、面接に来た私には相反しているように思えた。
小さくBGMが流れている。
壁越しに女の子の喘ぎ声が漏れている・・・

「こんな破廉恥な部屋で待てと?面接かと?」

と、戸惑いながらも未知の世界に興味をそそられ妄想する。




しばらくして、ドアが開いた。

「はじめまして。」

入ってきたのは、27、8歳くらいの色男だった。

「社長をしております。
今日は、事故に遭われたとか・・・・大丈夫ですか?
 お姉さんの事情は弟さんから聞いておりますが、お金にお困りようでしたら『女の子』をしませんか?あなたくらいなら、確実に1日約4万は軽く稼げますよ・・・この部屋、どう思いました?ここで女の子は来店される客さんにサービスしていくんですよ・・・」




「・・・・そうですか。私、男嫌いなんです。」

と、『女の子』になることをはっきり断った。





「お姉ちゃん、たぶん女の子に落とす話されると思うから『受付希望』って主張してください」
と、弟から注意を受けていた。





いろいろと契約条件、注意を受け、サインをした。

「もう、後戻りできない」
帰り道、そう思った。



ダンスを辞め、福岡に戻って弟と2人暮らしをし・・・・
借金を返済することにした。


弟の希望通り職場の近くに部屋を借りた。
敷金礼金を借金して。
2LDKの水道代込みで9万。

借金の返済と家賃分を含め、月9万預けることと、
部屋の整理をしておくこと、を約束して。
同居することに。

しかし、父には言い出せず・・・・
私は、父の元へ帰っていた。


朝8時~17時は北九州で「栄養士」
18時~朝3時を中州で「夜の案内人」

そのまま北九州に戻り、風呂に入り、仮眠をとってまた仕事・・・

この生活が3週間続いた。

「お前何しよるとや?仕事仕事・・・・帰って来たと思ったら直ぐ出て行きやがって!夜間学校?ダンス??何がしたいとや?」

毎日、嫌味のように父は言う。
父には言えなかった。
ダンスを辞めたこと・・・・
夜間学校と偽って夜の案内人をしていること・・・
弟と再会していること・・・・

言ったらどうなるだろう・・・・

怖くてい言えなかった。


「好き勝手してから・・・あのアバズレとそっくりじゃお前は」


父の言葉が心に刺さった。

何で頑張っているのか・・・
何を急いでいるのか・・・・
分からなくなった。



プチンッ・・・・・




身体中を巡らす全てのものが千切れていった。




続く。
「頼みがあります・・・・今は仕事中ですので、折り返し私のほうから連絡します。」

そう言い、弟は電話を切り仕事へ就いた。


 夜も更けた頃、私は弟からの電話を待っていた。
時計の針は、「3」を通り過ぎていた。

プルルルルル・・・・・ プルルルルル・・・・・

「お姉ちゃん・・・・・
実は、一緒に住んで欲しいっちゃん。」

母と共同生活していた弟は、強制退去後、公園を住居にしていた。
風呂は、お店のシャワー、それ以外は・・・至る所の公園。


 そういえば・・・・・

 離別した後、弟は母の愛人のおいちゃんに家を追い出され・・・
母の知り合いの家を盥回しにされた。
というより預かってもらっていたのだが、あまりにも扱いにくく、面倒ごとが多かったらしく同居を拒否された。
弟は、最終的に野宿生活を余儀なくされた。
 ボロイ廃墟となった空き家を住処としていた。
水道も、ガスも、電気も通っていない。

 そこで蝋燭生活をしていた矢先だった。
うたた寝をし、空き家を全焼。

自分で通報したが、パニックになり一旦逃げたらしい。

が、様子が気になり焼け跡現場に戻った・・・・
その悪いタイミングで職務質問。

結果、
「不審人物」
として警察署へ。


彼は前科があった・・・万引きという「窃盗罪」

・・・しかし、弟の人柄を受け入れてくれた良心的な警察官により厳重注意で治まった。

そして、今回は「器物損壊罪」。

 保護者として母が呼び出された。
母は、自分の息子が野宿しざるを得なかった経過を全て警察へ訴えた。もちろん、警察側へ前科の情報は流れている。




「お母さん、そういう事情でしたら仕方ないです・・・・
私たちもヒトの子ですし、情はあります。
お母さんのお気持ちお察しします・・・・」




そういうと、少年院から社会復帰出来るように設けられた
「青少年支援センター(仮名)」
への紹介状を頂いた。


「息子さん、心の優しい子ですから大事にしてあげてください」


いい警察官もいるものだなと思った。






・・・・・・。
弟の話を聞いていると、ふと このことを思い出してしまった。

「ボクは、保証人が居ないのでお姉ちゃんが借りた家に住まわせてください。家賃は半分出します。
仕事は、僕がやっているお店の受付しませんか?
月収手取りで約27万稼げます。お姉ちゃんがその気であれば、社長に話しを通しておきますので・・・」


 約7年ぶりに弟と一緒に生活・・・・
月収27万!!
今の昼の仕事は・・・・やっと、落ち着いたのに?
私の夢は・・・・やりたいことは・・・どうすんの?
0からやり直すと決めた父との2人暮らしは・・・・見捨てるの?
やっと、軌道にのったダンスは・・・・諦められるの?

「我が、我が!」

と主張する思いが収集つかない。

・・・・逃げ出したい。

私はまだ若い。やりたいことがある・・・
なんだ、この現状は。


誰に話したらいいのか・・・・

話す相手が居なかった。
相談する相手が居なかった。

話しても、相談を受けた相手が困っていた。

「それなら相談しない方がいい・・・」
そう思った。

この現状・・・抜け出したい。


私は、受付の面接を受けることにした。




続く。


 父と私の間に亀裂が走る。
ぴりぴりと大地が干上がってゆくように。
じわじわと・・・それは拡がっていった。

 やっと親子らしい2人になれたと思っていた。
何もかもを失った途端、心まで失ってしまった2人。

どうしようもない。

来る日も来る日も、互いの傷を抉っては・・・・
傷つき、憎悪だけが増してゆく。
 本当は望んでいない感情。
分かっている。

しかし、乏しさが心までも乏しくさせた。


 ある日、「重要」と書いてある分厚い茶封筒が郵便受けに。
それは、速達で送られていた。

宛名は

「憲輔」


・・・父宛である。



 虫が騒いだ。
身体中の何かが
「父に見せてはいけない」
と叫んだ。

それらのモノ達を抑えつつ・・・・
恐る恐る開封した。



 何処から探し当てたのだろう・・・・・
黒い影に背中が凍った。

 母が隠していた借金。

大阪から・・・・刺客のようにさえ感じた。
遅延利息込み600万全額返済しろとの請求書だった。


当てはない。

父には・・・・
もう言えない。

全てを失った父に、これ以上「何」を出せと。
これを明かせば父は、狂人と化すだろう。
返済できるかはさて置き、状況を確認するため、送り主へ問い合わせた。

なんとも口の悪い対応だろう・・・
脅しに近い。怪しい口調、胡散臭い。

自分が連絡した経過を説明し、父には返済する能力が無いことを伝えると

「じゃぁ、お嬢さんが払ってくださいよ」

と。
その男は、かなり強引に返済を求めてきた。

「自分では分かり兼ねますので、一旦考えさせてください」

と残し、電話を切った。

翌日から、その電話は何度も何度も・・・
履歴を残すようになった。


一人の人物がふと、頭を過ぎった。

 親が離婚してから兄、弟は母元へ。
それから、兄弟として会うことはなくなっていたが、
実家へ泥棒しに来るようになっていた弟。
たまたま遭遇し、説教をしてから約5年。
・・・・音信不通になっていた弟。
1年前、交通事故に遭い、生死を彷徨っているところへ見舞いに足を運んだが、それ以来、会っていなかった。
 その弟が中州でBOYをしていることを母から聞いた。

今の自分に頼る統べは、そこにしかなかった。
 

弟の連絡先を聞き、助けを求めた。

「もしもし?姉ちゃんやけど??まさ?」

私の知っている弟の声とは全くの別人の声がした。

「はい。そうですが。どうかされましたか?」

5年も会っていないと人間こんなにも変わるのだなと驚きを覚えた。以前よりは、マシな人間になっていた。
仕事中だったためか、彼は他人行儀な対応だった。
一部始終を話すと長くなると思い、だいぶを端折ってだが莫大なお金が必要なことを説明した。

 すると

「その条件・・・・解決せんでもないよ。
その代わり、ボクもお願いがある」
と。




続く。