金谷港に着き、そこから一番近いセブンイレブンの前で再び宿探しを始めるオレ。
何でセブンイレブンの前かと言えばWi-Fiが使えるからで、それが無いともう重過ぎてどうにもならなかったからだ。
スマホのナビも考えもんだな、ホント。
(やっぱり諦めきれんわ。700kmくらい走ってんのに、ネカフェでイビキにやられたら寝不足どころの話やないぞ。明日マジで事故ってまうし、こんなんじゃ)
それだけの距離を二日で走ったのは自分自身なんだから仕方がない。
それに、さっきの出来事は無理したおかげで体験出来たんだし、それはそれでヨシとしなきゃいけないな。
またいつか連れて来てやらにゃ、横須賀に。
(おっ?訳アリ価格6600円か………チト高いけど、部屋は中々良さげやな。つか、これリゾートホテルじゃねーか?)
最早ネットで当日予約という時間帯でもないが、とにかく20km圏内にある手頃な値段の宿を手当たり次第チェックしてみる。
そこに出てきた館山温泉のホテルが、通常の半額近い宿泊料金を提示してたので即電話。
まあ、それでもちょっとお高い気がしないでもないのだが、温泉地とかでもないと宿自体が無いのが田舎というものだ。
外食さえしなけりゃトータルの値段は変わらない訳だし、部屋さえ取れるんならもうココに決めちゃおう。
「あ、もしもし?ちょっとお伺いしますが、あと30分後くらいに一人で行って用意していただける部屋とかありますか?出来ればネットに出てる訳アリプランでお願いしたいんですが……」
「ハイ、ご用意させていただきます。ただお客様、こちらの訳アリプランでございますが、只今大浴場の改修工事をさせていただいておりまして、お風呂はお部屋でのご利用のみとなっておりますが……」
何だそんな事かと即予約。
そんなもんで半額近い料金になるんなら、この先ずっと温泉なんか入らなくても全然O.K.。
大体、温泉旅館なんか野郎一人で行っても人肌恋しくなるだけだもんな。
どうせなら浴衣のはだけ気味なセクシャルバイオレットと行きたいわ、オレ。
「こんばんはー、先ほど予約した者ですが」
「いらっしゃいませ、◯◯様でございますね?お待ちしておりました」
キチンとした言葉遣い。
キチンとした対応。
キチンとした身だしなみ。
当たり前の事が当たり前に出来る宿というのは、何と素晴らしい場所なのだろう?
だからと言って静岡のビジホが悪かったという訳ではないが、形式だけの棒読み対応に慣れてしまった今、こういうリゾートホテルに有りがちな【ちょっとフランクな空気を出しながらも至極丁寧】という接客には本当に感激させられる。
高級旅館の過度な接客もたまになら悪くないが、身の丈に合ってないオレみたいなモンには5年に一度くらいで充分だ。
一昨年くらいに熊本の黒川温泉にある某有名旅館に泊まったが、アレだってGOTO利用だったから行っただけだもんな。
そういう宿は確かに雰囲気は抜群なんだが、館内が広すぎて移動に疲れるのと、かしこまり過ぎたサービスや食事に慣れて行く自分が嫌いになるんだわ。
最低限プラスくらいのさりげないサービスがあれば、それが一番過ごしやすいと思うのはオレだけかな?
いや、結構似たような人って多い気がするけどね。
過度を通り越して従業員が何を話しとるか分からんカフェはコチラ↑
「◯◯様、先ほどお電話でもお伝えしました通り、この度は大浴場がご利用いただけないという事でございまして、誠に申し訳ございません」
「あー、いえいえ。急に予約して、受けていただいただけでも有難いです。それに僕、実家の風呂が温泉だったんで大して興味無いんですよ、温泉自体に」
「………は?御実家のお風呂が温泉…でございますか!?」
「そうなんですよ、郷じゃ珍しくもないんですけどね。ここら辺も似たような感じじゃないんですか?」
「いや~、館山は一応温泉郷ではあるんですが、自宅に温泉を引いている家はなかなか…」
そうなんや。
コテコテの温泉県出身者からしてみれば、温泉郷ってのはそこら中に湯煙上ってて、マンションの一階にも共同の掛け流し風呂があるイメージなんやけどなぁ……
そういや、館山市内に入っても硫黄の臭い無かったな。ココって本当に温泉郷か??
一階のエレベーターまでだがご丁寧にも案内され、ロータリークラブの重鎮にでもなった様な気分のアホなオレ。
歩く度に他の部屋の事を気にしなきゃいけないゲストハウスと違い、客室前の通路は当然柔らかなカーペット敷きである(←どこを自慢してる?)。
カチャ
「おぉ……」
貧乏人が興奮した部屋の様子はコチラ↑
スッキリとした広めの客室はツインベッドルーム。
ベッドが2つあると両方使いたくなる衝動に襲われるが、それをやってしまうと本格的にキチ◯イだと思われるので我慢する。
が、枕は使わせてもらう。
貧乏人はバックパックを置くと、服を脱ぐ間も無く浴槽に湯張りする。
湯張りしようとするが、靴を脱ぐのを忘れてたので慌てて戻る。
貧乏人は改めてバスルームに入り、最大放水で浴槽に湯張りする。
その時に蛇口がコッチ向きだった事に気付かず、いきなり靴下がびしょ濡れ状態になる。
貧乏人は嬉々としている時が一番危ない。
まだ上着も脱いでいないうちに靴下を濡らす事が多々あるからだ。
靴下を脱ぎ、パイプ棚に置いてあった足マットを踏み踏みする。
意味無く指差し確認し、バスルームをあとにする。
普段はベッドの上に放り投げる上着やジーパンを、クローゼットのハンガーにキチンと掛ける。
濡れた靴下もキチンと掛ける。
どうせすぐ風呂だからと、素っ裸になって浴衣を羽織る。
脱いだ下着はレジ袋にまとめるが、その前に何故か一度嗅いでから入れる。
素っ裸で浴衣を着ると、椅子に座った時にコンニチハする事が多くて困る。
誰か相手がいるならともかく、オッサン一人でコンニチハしても情けなくなるばかりだ。
次からパンツだけは穿いておこう。
貧乏人は見もしないテレビを点ける。
見もしないつもりが、警察24時だと食い入る様に見る。
湯張り全開を忘れている事に気付く。
最早お約束の如く溢れている。
びしょびしょになった足マットに溜め息をつく。
勢いよく脱ぎ捨てたつもりの浴衣が、足元に半分だけ残る。
裾がびしょびしょになった浴衣に溜め息をつく。
浴槽に片足を入れ、熱すぎた事にビックリして大声を上げる。
この様に、不慣れな宿での貧乏人は忙しいのである。
身の丈に合った宿に泊まりたいものだ。