この記事は、施設長の若山三千彦が書く文福ブログです。
今回は、マンガ看取り犬文福に掲載したコラムの原稿を加筆修正したものです。
また、読売新聞の福祉医療サイト「ヨミドクター」にも、同じ内容を掲載したことがあります。
ご了承下さい。
さくらの里山科では、ご入居者様の多くが認知症を患っています。
これは特別養護老人ホームでは当たり前のことです。
特養ホームに入居できるのは、要介護3以上、すなわち重度の介護が必要な方に限定されているからです。
重度の方が多ければ、当然認知症を患う方も増えます。うちの場合、7割以上のご入居者様が、程度の違いはあれども認知症を患っています。
認知症の方々に対して、犬や猫と接することは大きな効果をもたらします。犬や猫は認知症を癒すのです。ただしそれは、犬好きの方、猫好きの方に限定され、誰にでも効果がある訳ではありませんが。
※写真は内容と関係がありません。
認知症になると、色々なことが理解できないために、豊かな感情の動きが失われ、無表情になる場合があります。
そのような方が、犬や猫と接して笑顔になり、それがきっかけで感情の動きを取り戻すことは、何回もありました。
また、色々なことが不安になり、そのために大声を上げたり、激しく動き回ったり、色々な扉を開け閉めしたりというような行動を起こすことも、認知症の典型的な症状です。
そんな時に犬達と接することにより、行動が収まることもあります。
コロナ前のことですが、非常に印象に残っている文福の癒し活動があります。
あるご入居者様が、面会にいらした娘さんと楽しく過していたのですが、娘さんが帰ろうとした時に豹変してしまった時のことです。
何かのはずみでスイッチが入ったかのように豹変してしまうことも、認知症のよくある症状なんです。
そのご入居者様は、それまで笑顔で話していて、居室の扉の前でにこやかに娘さんを送り出したのですが、一瞬後に豹変して、娘さんに追いすがり、「私を置いて行かないで」と泣き叫びました。
どうしたらいいかわからずおろおろしている娘さんの所に、職員よりも素早く駆け寄ったのは文福でした。
文福は立ち上がって、ご入居者様の膝に両手をかけ、じっとご入居者様を見つめたのです。
そんな文福の様子を見たご入居者様の顔は、また一瞬で満面の笑みに変わりました。
「あら~、文福ちゃん、いい子ね」
そう言って文福を抱きしめるご入居者様は、すっかり穏やかになっており、娘さんは安心して帰宅することができたのです。
これは、もちろん、認知症が治ったのではありません。
その一瞬だけ、認知症の症状を収めたに過ぎないのですが、それでも十分素晴らしいことだと思いませんか?
これこそが犬や猫が持っている癒しの力なんです。
文福の癒し活動なんです。
文福は「看取り犬」として有名になりましたが、実は文福の最も素晴らしい力は「癒し犬」であることなんです。