施設長の若山三千彦が書く文福コラムです。
先週、この世のどこにも居場所がなかった文福は、さくらの里山科に来ても、5年程は、ここが自分の家だと信じられなかったのかもしれないと書きました。
それは私の推測ですが、当たっているとしたら、文福がそう感じたのには訳があります。
文福が保健所から助け出されて、さくらの里山科に来るまでの日々での経験です。
保健所で文福は、殺処分1日前の部屋まで行ってしまいました。
ここが殺処分1日前の部屋です。
この壁の向こうでは、ガス室で殺される犬達の断末魔の悲鳴が響いています。
文福はそれを聞いていたんです。
文福と一緒にこの部屋まで行ってしまったワンコが3匹いました。
でもこの3匹には、動物愛護団体から声がかかり、出られることが決まっていたのです。
文福の目の前で、他のワンコ達の所には、愛護団体のスタッフさんが迎えに来てくれたのです。
頭のいい文福にはその光景が何を意味するのか、わかっていたと思います。
他のワンコは皆、人間が助けにきてくれたのに、僕の所には誰も来てくれない。
僕だけ取り残されたんだ。
もう僕は助からないんだ…。
明日、僕は…。
すみません。このことを書く時は、どうしても「文福のひとり言」のように、威勢のよい口調では書くことができません。
文福のキャラが違ってしまうのですが、「俺は…じゃん!」とは、ここでは書きたくないです。
文福1匹だけが取り残されているのを知った「ちばわん」さんが助け出してくれなかったら、と思うとぞっとしてしまいます。
文福は保健所で、自分だけ助からない、自分だけ生きられない、という思いをしたのです。
そして、そのような自分だけ取り残される感覚を、「ちばわん」さんのボランティアに一時預かりをしてもらっている時も味わうことになるのです。
ここで、絶対に誤解はしないで下さいね。
ちばわんさんが悪いのではないのです。
ちばわんさんは、文福の命を救ってくれ、その後も文福には不自由のない生活を用意してくれました。
たっぷりご飯をもらって、たっぷりお散歩してもらって、大勢のワンコと遊んで、文福は楽しかったと思います。
譲渡会に何回参加しても、里親が見つからなかったことを除けば。
当時、「ちばわん」さんのスタッフがブログに書いています。
文福は食べるのが大好き。お散歩が大好き。外が大好き。遊ぶのが大好き。こんなに天真爛漫な犬なのに、里親さんが決まらないんです。譲渡会に参加しても、誰からも声がかからないんです。
ここから、「ちばわん」時代の文福の写真をアップします。
2011年の秋から2012年の春にかけての頃。
文福は推定1~2歳でした。
今と同じ魅力的な笑顔が炸裂しています。
元気で可愛い文福です。
こんなに可愛いのに、譲渡会では誰からも声がかからなかったそうです。
目の前で、他のワンコ達は、里親希望者から声がかかり、幸せそうにしているのに、文福には誰も声をかけてくれない…。
文福は再び、寂しい思いをしていたのです。
保健所時代の辛い体験がある文福にとっては、きっと耐えられないことだったに違いありません。
なぜ文福には声がかからなかったのか。
それは、文福が雑種だからです。
雑種で中型犬だったからです。
雑種で中型犬でフィラリアを患っていたからです。
「ちばわん」の代表の扇田さんによると、雑種、中型犬、フィラリアの3点が重なっていると、なかなか里親は見つからないそうです。
里親として保護犬を引き取りたいと希望しているのに、雑種を嫌がる。
つまり血統書付きの犬を希望する、という心理は私には理解できませんが、世の中にはそのような人も多いようです。
文福みたいな、ザ日本の雑種犬!みたいな犬は、賢くて丈夫な子が多いんですけどね。
私にとって文福は、一流の血統書付きで、品評会優勝多数のワンちゃんに負けない魅力があるんですけどね。
中型犬、というのは、小型犬よりは大きい、という意味です。
文福は体重15kg。
チワワなどの超小型犬は5kg未満。
トイプードルなどの小型犬は3~8kg位。
柴犬も10kg前後です。
それらに比べると、文福はかなり大きいと言えます。
大きい犬は室内で飼うにはちょっと…、と敬遠されがちなんです。
フィラリアと言うのは寄生虫による病気です。
蚊によって媒介します。
昔はフィラリアで命を落とす犬が多かったのですが、今は薬によって完全に予防できます。
また、文福のように予防薬をきちんと飲ませてもらえないためにフィラリアにかかってしまっても、服薬治療で完治します。
でも、服薬治療には手間もお金もかかるために、里親希望者からは敬遠されるんですね。
雑種、中型犬、フィラリア、と3拍子揃っている文福は、譲渡会に何回参加しても声すらかからなかったんです。
このように、保健所と譲渡会と、2回も、自分だけ必要とされない思いを味わっていたので、文福は、さくらの里山科に来ても、本当にここが自分の家だと、なかなか信じられなかったのだろうと私は考えています。
文福はそれほど感受性が豊かなワンコだと思います。
でも、その豊かな感受性が、そして辛い過去の思いが、文福の奇跡の力を与えてくれたと私は思っています。
ところで、実は大喜も。文福と同じ理由で、さくらの里山科にやっきたのです。
大喜も、雑種、中型犬、フィラリアでした。
※説明の必要もないと思いますが、大喜です。
また、「ちばわん」からきた保護犬のプーニャンは、体重8kg程の小型犬でしたが、やはり雑種で、フィラリアがありました。そしてシニアでした。高齢、雑種、フィラリアの3拍子が揃っていたのです。
※虹の橋で暮らすプーニャン。とっても綺麗なワンコでした。
アラシは、雑種、フィラリア、テンカンの持病の3拍子が揃っていました。
※虹の橋で暮らすアラシ。優しい目をしたワンコでした。
もえちゃんは、高齢、雑種、フィラリアの3拍子が揃っていました。
※虹の橋で暮らすもえちゃん。開設の年に来て、その年の暮れに旅立ってしまいました。優しい顔の女の子です。
うちのホームは、「ちばわん」さんから、里親が見つかりにくい子を優先して引き取ってきたのです。
そのおかげで、文福達素晴らしいワンコ達に巡り会うことができたんです。