施設長の若山三千彦が書いているエッセイです。
すみません。
もう2ヶ月以上前になってしまいましたが、以前に書いたセミパブリックスペースの話の続きです。
※写真と内容は関係がありません。
老人ホームでの生活を快適にするためには、セミパブリックスペースがとても重要です。
それは、私達の様なユニット型の特別養護老人ホームの制度が誕生したのと深い関わりがあったんです。
ここでユニット型特別養護老人ホームのおさらいです。
さくらの里山科は定員が100人で、内部が10か所のユニットに分かれています。
一つのユニットは、ご入居者様の個室10室と、共有のリビング、キッチン、3か所のトイレ、浴室と脱衣室から構成されています。
ユニットとは、いわば10LDKのマンションみたいな空間なのです。
ユニット型ではない特別養護老人ホームが、おそらく普通の人がイメージする老人ホームです。
だからここでは、一般型特養ホームと呼びます。
一般型特養ホームの典型的な構造は、廊下にずらりと扉が並んでいる、という感じです。
扉を開くと、カーテンで仕切られて、4つのベッドが並んでいます。
部屋のタイプは色々で、4人部屋、2人部屋、個室とありますね。
ちなみに、昔は8人部屋もあったのですが、今はほとんどありません。
ユニット型と一般型、この2つのタイプの特別養護老人ホームの違いは、単に個室か、大部屋(多床室)か、というだけに留まりません。
もちろん個室と大部屋の違いは大きいです。
個室はプライベートスペースであるのに対し、大部屋は、ほぼプライベートスペースがない状態ですから。
でも、ユニット型と一般型、それぞれで暮らすご入居者様のライフスタイルを大きく隔てているポイントは2つあるんです。
1つが、今説明したプライベートスペースの有無です。
もう1つが、セミパブリックスペースの在り方なんです。
セミパブリックスペースの在り方で、ご入居者様の生活は大きく変わるんですよ。
具体的にどう違うか考えていきます。
一般型特養ホームのトイレは、集合トイレです。
学校等の公共施設や会社等にあるトイレですね。
男性用なら、扉を開けると、ずらりと小用便器が並んでいる。
女性用なら、扉を開けると、ずらりと個室ブースの扉がならんている。
ああいうトイレです。
私達も職場や外出先で、そのような集合トイレを使うのは当たり前ですが、自宅のトイレがあれだと考えたらどうですか?
隣のブースに誰かが入っているかもしれない、という状況でトイレを使うのが、毎回、毎日、一生続くと考えたらどう感じますか?
ユニット型では、普通の家庭と同じタイプのトイレになります。
さくらの里山科の場合、ユニットに3か所のトイレがありますが、集合トイレではありません。
個室のトイレが、ばらばらに3つあります。
隣に誰かが入っているなど、物理的にあり得ません。
しかも、その3つのトイレを使うのは、同じユニットで暮らす10人のご入居者様のみ。
家族同様の人たちだけです。
どこの誰が使ったのかわからないトイレ、ではありません。
これって、けっこうプライバシーが守られている感じですよね。
一般型特養ホームのお風呂は大浴場が多いです。
もちろん、自力で立てないようなご入居者様は、車椅子のまま、あるいは寝たままで入浴できる機械式浴槽を使いますが、普通のお風呂に入れる方は大浴場となります。
さすがに銭湯ほどの大きさではありませんが、人が3~4人は入れる程度の浴槽で、洗い場にはシャワーが3つ位ついている。
そんな感じの大浴場です。
「大きなお風呂って、銭湯みたいでいいんじゃない?」って思われますか?。
「皆で温泉に行ったみたいで楽しそう」って感じる方もいるでしょう。
でも、それは、たまにだからいいんです。
私達が温泉やスーパー銭湯に行って楽しいのは、それが非日常だからです。
それが毎回、常に他人と一緒にお風呂に入らなければいけなかったら楽しいですか?
一人でゆっくりお風呂に入りたくなりませんか?
人の目を気にせず入りたくなりませんか?
やっぱり他人と一緒にお風呂に入るのが、毎回毎回、一生続くと思うと苦痛になりますよね。
ユニット型でも大浴場形式のホームもあるのですが、多くの所では個室の浴室だと思います。
さくらの里山科の場合、ユニットに、普通の家庭と同じタイプの浴室&脱衣室があります。
脱衣室は介護のために、普通の家庭よりは広いですけど。
だから、誰かと一緒にお風呂に入るなんてあり得ません。
介護や見守りのために職員は一緒ですが、ご入居者様同士が一緒に入ることはあり得ません。
トイレと同様に、このお風呂を使うのは、同じユニットで暮らす家族のようなご入居者様のみ。
ほとんど、気を使わずに入浴できます。
一般形特養ホームでの食事は、大食堂でいっせいに「いただきます」をします。
たまに外食したり、旅行したりする時だけなら、大食堂での食事もいいですが、
毎回毎回、大食堂での食事が続くのは嫌ですよね。
しかも時間が決まっていて、いっせい「いただきます」をするのが一生続くのは耐えられないですよね。
ユニット型での食事は、ユニットのリビングでとります。
もはや繰り返す必要はないでしょうが、リビングを使うのは家族同様の10人のご入居者様のみ。
さくらの里山科の場合は、その10人でも一斉「いただきます」はしていません。
食事の時間は2時間ほど設けていて、その時間帯の中でお好きな時間でお食事して頂けます。
また、ご自分のお部屋で召し上がるのもOKです。
イメージ的には、4~6人位が一緒に召し上がっていて、2~3人はばらばらの時間に召し上がる。1人はお部屋で召し上がっている。そんな感じが多いですね。
このようにセミパブリックスペースの在り方で、ライフスタイルや生活の質が大きく変わります。
すみません。セミパブリックスペースのお話は、もう少しあるので、次回に続きます。