施設長の若山三千彦が書くエッセイです。
皆さんはパブリックスペースという考え方をご存知でしょうか?
基本的には、住まいに関する考え方です。
めいっぱい単純化してしまうと、パブリックスペースが外の空間、プライベートスペースが内側の空間、セミパブリックスペースがその中間、となります。
わかりやすい例はマンションです。
マンションの1階のロビーやエンタランスは、不特定多数の人が出入りする外の空間、パブリックスペースとなります。
プライベートスペースは、もちろん自分の部屋です。
そして、廊下や階段、エレベーター、各階のエレベーターホール等が、セミパブリックスペースとなります。
ただし、パブリックスペースのとらえ方は色々です。
1階のロビーまで、セミパブリックスペースと考え、完全のマンションの外の道路をパブリックスペースとみなす人もいます。
それは、人によって、環境によって異なります。
一戸建ての家について、リビングやキッチンをパブリックスペース、階段や廊下をセミパブリックスペース、自分の部屋をプライベートスペースと考える人もいれば、家の外をパブリックスペース、リビングなどをセミパブリックスペースとみなす人もいます。
ここまで読んで下さった皆さんは、なぜ老人ホームのブログでこんなことを書いているの?と疑問に感じたことでしょう。
実は、セミパブリックスペースは、老人ホームでの暮らしを考える上でとても重要なんです。
もちろん、一番重要なのは、プライベートスペースの確保です。
さくらの里山科の様なユニット型特別養護老人ホームの場合は、個室がありますから、プライベートスペースは最初から確保されています。
しかし多床室型(2人部屋とか4人部屋とか)の老人ホームの場合、いかにしてご入居者様のプライベートスペースを確保するかが、重要な課題になるのは当たり前ですね。
でもご入居者様が快適に生活するためには、プライベートスペースが確保されているだけじゃ足りないのです。
セミパブリックスペースを用意して、うまく活用することが、とても大切なんですよ。
セミパブリックスペースとは、自分のプライバシーをある程度確保しながら、他の人と交流できる場ですから。
人って、誰かと交流しないと生きていけない生き物ですよね。
ちょっと話が抽象的でよくわからないよ、と言われちゃいそうなので、もっと身近な言葉に置き換えてみます。
プライベートスペースとは、自分だけの居場所。
セミパブリックスペースとは、仲間たちで共有できる居場所です。
パブリックスペースは不特定多数の人が出入りする空間です。
ぶっちゃけて言えば、誰でも入れる場所、ということです。
それに対して、セミパブリックスペースとは、限られたメンバー、自分の仲間たちだけがいる場所です。
うちのホームでは、ユニットのリビングや廊下をセミパブリックスペースだと考えています。
この空間です。
リビングでご入居者様は、他のご入居者様と交流できます。
同じ空間で、同じ時を過ごします。
でも、ここにいるのは、同じユニットで暮らす10人のご入居者様だけ。
いつもの同じメンバーです。
ワンズも含めて、皆ユニットで暮らす家族です。
家族だけが共有する空間、セミパブリックスペースです。
ご入居者様が快適に暮らすためには、個室だけでは足りない。
セミパブリックスペースが重要、ということがわかって頂けますよね。
そして、セミパブリックスペースには段階があります。
ユニットのリビングは、プライベートスペースに近い、セミパブリックスペース・ファーストステージです。
うちのホームでは、ユニットの玄関前の空間を、セミパブリックスペース・セカンドステージ、と考えています。
ここが2-1ユニットの玄関です。
そして、お隣の2-2ユニットの玄関の間に、小さなエレベーターホールがあります。
ここが、セミパブリックスペース・セカンドステージです。
長椅子が置いてあり、ご入居者様が寛げるようになっています。
コロナ前は、ここで、2-1ユニットのご入居者様と2-2ユニットのご入居者様が交流していたんですよ。
ホールに面して職員室があるので、休憩中の職員と話したりもしていました。
ここで過ごすのは2つのユニットのご入居者様。
ユニットの家族と、お隣のユニットの家族です。
隣近所と交流する井戸端会議の場、みたいな感じでしょうか。
だから、セミパブリックスペース・セカンドステージなんです。
そして、ホーム全体の共有スペースである1階部分は、セミパブリックスペース・サードステージとなります。
ここで、ご入居者様は、隣のユニットだけでなく、あちこちのユニットのご入居者様と交流ができます。
面会にいらしている、他のご入居者様のご家族様とも話したりします。
配達にきた業者さんに挨拶したりすることもあります。
コロナ前の話ですが。
色々な人と出会う場所ですが、完全な不特定多数ではなく、全てがホームに関わっている人たちです。
だから、まだパブリックスペースではなく、セミパブリックスペース・サードステージなんですね。
ホームの外が、パブリックスペースになります。
もちろん、どこをセミパブリックスペースと考えるかは、ホームによって、さらには職員によって異なります。
続きます。