アメリカの推理作家フリン・ベリーによる
サスペンス・スリラー。
姉を自宅で殺された主人公のノーラが、
殺害犯を追い求めてゆく物語りです。
ロンドンの西にある町マーロウに住む
姉レイチェルを訪れたノーラは、
血まみれで横たわる彼女の死体に遭遇する。―――
二階に続く階段には番犬の死骸が
リードで吊るされていた。
深い喪失感に苛(さいな)まれたノーラは
次第に精神に異常をきたすようになり、
姉を殺した犯人捜しにのめり込んで行く・・・。
実はレイチェルは十五年前に男に襲われ、
手ひどい暴行を受けた過去を持っていた。―――
ノーラはその事件との関連を疑い始める・・・。
またその一方で、姉が殺された当日に
自宅で会っていたという配管工にも目を向ける。
こうして様々な者を疑い、
かつ追いかけていったノーラだったが・・・。
本編は姉を奪われたノーラの一人称で
終始語られていきます。
その辛い喪失感のなかで、時おり思い出すのは
姉レイチェルと暮らしていた日々。―――
それはロンドンの雑踏であったり、
遠く離れたコーンウォールでの生活でした。
とは言えそれらの心象風景は一様に暗く、
次第に彼女の心は一層荒(すさ)んで行きます・・・。
やがて犯人捜しにのめり込んで行くノーラ。―――
その異常とも言えそうな執着心が高じて
精神状態も危うくなり、読者の中には
不安や戸惑いを感じ始める方もいそうです。
なお十五年前の暴行事件に関し、
彼女はそうした犯罪履歴のある男たちを探索。―――
無謀にも(?)彼らに単独で面会しようとします。
あるいは裁判記録について夜を徹し調査したり、
実際に裁判所に赴くことも・・・。
また当日姉と会っていた配管工を
怪しいとにらんだ彼女は、彼の後を付けて、
日々ストーカーまがいの行為に及ぶ。
やがてその男はたまらず警察に訴え出ることになります。
こうして読者は、彼女の揺れ動く感情や、
妄想に近い思考。
あるいは突飛とも思える行動に終始直面。―――
果たして読者はそうした彼女に
感情移入することができるのか、どうか・・・。
正直に言うと自分は難しかったようです。
しかしながら
「それでも読まずにはいられない」という気持ちを、
読者に持たせ続ける作者の筆力には脱帽しました。
ところで巻末解説者の大矢博子さんは、本書の語り手である
ノーラは「信頼できない語り手」だとご指摘しています。
それは彼女の感情があまりに不安定で
執着も激しいことから、読者はどこまで彼女を
信じていいのかわからなくなってしまう、とのこと。
しかしながら彼女の語りの中のアチコチに、
犯人捜しの伏線が含まれていることも事実。―――
さらに穿(うが)って考えてみると、
作者は「信頼できない語り手」を逆手にとって、
読者のミスリードを誘っているようにも見えます(?)。
とは言え、いずれにしても、
本書はミステリ的な趣向が相当色濃い
作品であることは間違いないようです。
令和6年10月11日 読了 B (ハヤカワ文庫)
フリン・ベリー「レイチェルが死んでから」
夏のあいだ、彼女とわたしはコーンウォールで休暇を過ごした。
ふたりともクリスマスは休みなので、この週末に貸家の予約を
するつもりだ。「ここではすべてがいい」とわたしはレイチェ
ルに言った。レイチェルは「まあね」とわたすに返す。どちら
かと言うと姉のほうがコーンウォールを愛していた。