小学校高学年のころから中・高校生のころの日曜日の夜。―――

自分はテレビで「日曜洋画劇場」を観たあとふとんに入り、

必ずあるラジオ番組を聴いていました。

それは作曲家の芥川也寸志(やすし)さんが

ホストを務めていた「百万人の音楽」という番組でした・・・。

 

そのなかで本曲「ボレロ」が紹介されたことがあります。

それはいまでも覚えている怖い(?)お話しでした。―――

 

「ボレロ」は約15分間の演奏のあいだ、

二種類の旋律を楽器を変えて同じリズムと同じテンポで

最後まで演奏する特異な構成をとっています。―――

なので終盤まではソロの木管・金管楽器が相当活躍します。

 

いうなればテクニック自慢の奏者が、

それぞれの見せ場をつないでいく曲。―――

芥川さんはある音楽ホールで

この曲の生の演奏を聴いていました・・・。

 

その時ある奏者(楽器は忘れました)が一度音を外してしまいました。

これをきっかけに悲劇が起こります。―――

動揺したその奏者はそのあとも

次々と音のつまづきを起こしてしまったらしいのです。

 

このときの演奏の出来具合は推して知るべし。―――

芥川さんがその奏者の将来のことを

ラジオのなかで

とても心配していたのを記憶しています・・・。

 

ところでたぶん多くの皆さんは本曲をご存じかと思います。

「ボレロ」は晩年のラヴェルがバレエのために作曲した曲。―――

管弦楽曲として独立して演奏される機会も多く、

もしかしたら彼の数ある楽曲のなかでも

一番人口に膾炙している名曲かも知れません(!)。

 

調性は平明なハ長調。―――

明るいながらもどことなくイスラムの香りがただよう二つの旋律を

最弱音からスタートさせ、リズムもテンポも変えず

ひたすらクレッシェンドしていくという独創的なアイデア。

 

しかも反復するごとに旋律を担当する楽器と

リズムと和声を受け持つ楽器が次々と交代。―――

そのたびに色彩感が増してゆく曲作りは

「精密機械」とも呼ばれたラヴェルの真骨頂です。

 

ところが曲が終結する数小節前にその旋律が

荒々しく変奏されて転調。―――

加えて最後の和音が鳴る直前に再びもとのハ長調に戻り、

全楽器が最強奏して終結します。

 

このコーダの目がくらむような迫力と

圧倒的な色彩感は他に類を見ることができません(!)。

 

本曲はフランス(ラテン)系の管弦楽団との

相性が良い曲とも言われています。

自分が聴いている演奏も、ラヴェルの祖国フランスの

交響楽団が演奏している録音がほとんどです。

 

フランス国立管弦楽団(指揮者マゼール、インバル)や

パリ管弦楽団(同ミュンシュ、シルベストリ)の演奏で聴く

各管楽器奏者のうまさは、

「お国もの」だけに特別なものがありそうです。―――

 

同じテンポで奏でながらも微妙に間を空けたり、

伴奏楽器とほんの少しズラしたりする妙技を聴くことができます。

 

ミュンシュはボストン交響楽団とも録音しています。

この旧盤は録音が比較的古いものの、

クールに始まり絵にかいたような

大きなクレッシェンドを描くスタイリッシュな演奏。―――

 

コーダの熱狂的なクライマックスも新盤(パリ管弦楽団)と同様に

大きな興奮を巻き起こす演奏です。

ご興味のある方はぜひ一度お聴きになってみてください。

 

とは言え本曲は演奏効果が抜群な管弦楽曲の名曲。―――

自分が聴いている演奏も

数ある録音のなかのごくごくわずかなものです。

どの演奏をお聴きになってもこの曲の持つマジカルな魅了は

たぶん光り輝いているハズです。

 

ラヴェル作曲 「ボレロ」