ジムに通うようになって三か月が過ぎた。今まで何度も顔を合わせる人はいたが、声を掛け合うどころか挨拶もせず黙々とマシーンに向き合っていた。
私から近寄りがたいオーラでも出ているのか皆が距離を置いているようだった。亡き妻が良く言っていた。「あなたは黙っていると怖いわよ」と。最近は笑顔を意識ながらジムへ向かっていた。
笑顔の効果が表れたのは昨日のこと、同年代の男性が「すごい重さを上げていますね、私には無理です」とニコニコしながら声をかけて来た。それからしばらくお互いの不健康自慢話に花を咲かせ、一気に距離が縮まった。
その後、近くにいたお婆さんが「良く会いますね、いつも熱心に取り組んでいますよね」と声をかけて来た。何度も顔を合わせた相手であるが話したことはなかった。
「せっかく長生きするんだったら健康じゃなくちゃね」としわくちゃな顔で言う。その後の話もお互いの病気の話だったが、お婆さんは驚くほど前向きだった。「ジムで体力つけて自分の足で沢山の楽しいことをしなくてはね」と悪戯っぽく微笑んだ。
何だか急にジム仲間ができたみたいだ。今日も笑顔でジムへ行った。昨日の二人も来ていた。「こんにちは~、今日も暑いね」と笑顔を交わす。すると別の人からも声がかかる。何だか居場所ができたみたいな気分である。
やっと普通の爺さんになれたかな。怖い顔は卒業である。