毎週日曜日に連載中の『私が大切にしている言葉たち』シリーズ
私がこれまでに出会った恩師やダンサーの方たちの言葉の中から、大切にしているものを紹介していきます。
今回は、昔、所属していたバレエ教室の発表会にゲストダンサーとして来られていた、アメリカオーランドバレエ団に当時所属していたO先生の言葉から。
『サッカー選手がゴールを決めた時に、ユニフォームを脱いで振り回すのと一緒だよ。』
その時の発表会の演目は『ドン・キホーテ』でO先生が踊られるのは主役のバジルでした。
バジルに限らず、バレエには不思議な動きがたくさんあります。
(いったい、なぜこんな動きを?)と思うことも本当によくあります。
(バレエを踊ったことのない方からすると、そもそもなぜバレエがチュチュを着るのか、トゥシューズを履くのか、クルクル回るのか、謎だらけかもしれませんが。)
私も教師となった今では、ずいぶん理解出来るようになりましたが、当時はまだ普通の生徒だったことや、インターネットが今ほど充実していなかったこともあり、バレエの情報はほんの少ししか手に入らなかった時代に、私はバジルのヴァリエーション(上手な人が1人で1曲踊る作品のこと)の中で、どうしても気になる動きがありました。
それは、バッチュ(打つ)というステップで、ジャンプして空中で両足をバチバチと何度も打ち合わせる動きで、主に男性が、バジルに限らず男性のヴァリエーションには振り付けとして入っていました。
参考動画はこちら。0'15"頃の動きです。
私はそれを見て、いつもちょっと笑いそうになっていて、(普通に跳べば良いのに、なぜ、わざわざあんな忙しそうなことをするんだろう)と思っていました。
それが、ずーっとずーっと気になっていて、ある時、レッスンをして頂いた最後に「質問のある人~?」と聞かれたので、ガマン出来ずに思わず聞いてみました。
(私、このパターン多いんですよね。ずーっと気になっていることを、ある日ついにガマン出来なくなって偉い先生に質問してしまうという)
すると、先生はちょっとびっくりされて(だって、男性のステップについてなので、まさかそれを聞かれるとは思っておられなかったと思います。)
「うーん、そうだな・・・」と少し言葉を選ばれた後に、
「サッカー選手がゴールを決めた時に、ユニフォームを脱いで振り回しているのと一緒だよ。」
と言われました。
それを聞いて、(なるほど~)って、すごく納得したんですね。
(この役の、気持ちの高揚感を、このステップで表現しているのね)
(このシーンは、バジルはめちゃくちゃ喜んでいるのね)と。
長年のモヤモヤがスッキリしました。
まぁ、他の生徒たちは1人をのぞいて全員女性でしたし、みんな、ポカーンとしていましたが。
こういうのって、本やインターネットなどにはなかなか載っていないんですね。
(最近はYouTubeなどが流行っていますから、もしかしたら誰かが解説しているものもあるかもしれませんが)
スタジオの先生は全員女性でしたし、男性の先生に質問出来るチャンスなんて、なかなかありませんでしたから。
自分で調べればどうにかなることなら調べるのですが、バレエは自力ではたどり着けない答えが沢山あるんですね。
だから、バレエ教師がいるのですが。
そこから、(もしかして、バレエのステップの1つ1つにはすべて意味があるのかもしれない)と思い、私のバレエのステップに関する研究が始まったのです。
私のにらんだとおり、バレエのステップには基本的にすべて意味‥というか、役割があります。
単語ひとつひとつに意味があるのと同じです。
ですから、『バレエを踊る』というのは、基本的に『言葉を話す』のと同じようなシステムになっています。
だって、バレエは言葉を話さない芸術ですから、基本的に感情などを踊りやステップで表現しているわけです。(すべのてのバレエで、ではありませんが)
言葉に“名詞”があって“動詞”があり、“助詞”“助動詞”“接続詞”があるように、バレエのステップにも“名詞”のようなパ(ステップ)があって“動詞”のようなパがあり、“接続詞”になるパがあるのです。
時々、バレエ教室のYouTubeなどに自分の生徒向けの練習用や発表会用の振り付けを動画であげられているのを見て、
(・・ん?)って思うことがあります。
「私は勉強がきらいです。」とすれば滑らかな文章になるところを、
「キライ、ガ、ベンキョウ、ワタシ、キライキライ、ハ。」
のような感じで、順番や組み合わせやつなぎのステップが組まれていて、
(おそらくこの先生、バレエの法則をご存じないんだろうな。)
(うーん、これはちょっと生徒さんが踊りにくいかもカクカクした踊りになっちゃうかも
)
って思うことがあります。(私のにも、もちろんあると思いますが)
これが、超一流の振付家になると、
「・・ええ、私は勉強があまり好きではないのです。なぜなら3年前のあの日・・」
といった感じの、滑らかで言葉の響きがとても美しい文章のような言葉の組み合わせになるんですね。
ただ、このような美しい文章(のような振り付け)をスラスラと踊るには、かなりのテクニックが必要となりますが。
一番最初のバジルのヴァリエーションの『バッチュ』は文章に例えるならば『!』感嘆符になるんでしょうね。
あの時、O先生に私の質問にきちんと答えていただいたことから、1つ1つのパについて興味を持ち始め、今、“生徒が踊りやすくて綺麗に見えるコンビネーションや振付”が組めるようになっているので、この言葉は私が今でも大切にしている言葉のうちの1つです。
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