毎週水曜日連載中の『教えて!サクラバレエ』シリーズ。
今週も、
『サクラバレエ』や『大人からはじめるバレエ』に関する
素朴な疑問・質問にお答えする、Q&Aコーナー
です
Q.
さくら先生こんにちは✨
ブログを楽しみに拝見させていただいています。
私は大人バレエ歴15年(途中三度出産しブランクがありますが)、バレエが大好きです‼今は、子育てと仕事が中心の日々ですが、時間を見つけては、バレエのレッスンに週2回通っています。今は、オンラインレッスンです。そんな、バタバタな生活の中でバレエをしているので、時々心が折れそうなときもありますが、さくら先生のブログを見ては、やっぱりバレエが大好き~!とパワーをもらっています。
前置き長くなりました。ここから、質問なのですが、私の通っているバレエ教室は、子どもの生徒さんが中心のバレエ教室ですが、大人クラスの生徒も熱心に指導してくださいます。先生が「そんなにバレエが大好きなんだからオーロラ姫第3幕のバリエーション踊ってみない?」と声をかけてくださいました。喜んで「やりたいです‼」と即答で取り組んでいます。振りも難しいですが、オーロラ姫の世界観がイマイチ掴めないところもあり、日々研究しています。さくら先生はオーロラ姫を踊るときどんなことを大事にされていますか? よかったら、教えてください。
くるみさん
◇
A.
はじめまして。
いつもブログを読んでくださって、ありがとうございます。
ご質問の第3幕のオーロラ姫ですが、私は機会がなくて踊ったことがないんです。
ですから、自分の生徒に指導する時のことをお話させていただきますね。
そして、世界観については、ここで改めて私が語らなくても、本やインターネットにたくさん載っていますし、日々研究中とのことですので、ここでは、私ならではの『第3幕 オーロラ姫を踊る時のコツ』と、『はじめてヴァリエーションを舞台で踊る時のコツ』についてお話したいと思います。
まず最初に、バレエのキャラクターには演技が必要な役と素のままで踊る役があります。
たとえば、わかりやすいのは“白鳥の湖のオデット姫”役。
設定が特殊ですよね。
舞台は湖のほとり。
キャラクターはお姫さまであり、白鳥。
キャラが濃いです。
「あ、私、生まれつき姫でーす。」だとか、「実は私、白鳥でーす。」っていう人は素でいけますけれど、99.9%の人は“演技”が必要です。
逆に、ジョージ・バランシンの作品などは、ダンサーは音楽を身体で体現する役なので、特別な演技は必要ありません。楽器のように黙々と踊ります。
コンテンポラリー作品なども、自分の“素”を表現することが求められることが多いですね。
クラシック作品でも例えば『グラン・パ・クラシック』などは物語がない作品なので、演じることがそこまで重要視されていません。
その中間は、たとえば“ジゼルのペザント(村娘)”役など。
演技が必要な役だけれど、村娘という設定なので、お姫さまや白鳥の役よりは環境や気持ちがイメージしやくす、オデット姫ほど演技を意識しなくても、自分の中の“喜怒哀楽”を丁寧に扱えば、世界観を表現しやすかったりします。
さて、オーロラ姫ですが、これはわかりやすく言うと、日本なら、『時代劇』だと思ってください。
古典なので、昔々のお話です。
王侯貴族などの衣装をみるととてもわかりやすいのですが、現代のヨーロッパ人は絶対に着ていない衣装を身につけています。
(一昨年、うちで眠れる森の美女を上演した時は、王妃様や乳母の衣装がすごかったです。リアルマリーアントワネットの世界でしたから。)
つまり基本的に、この役は素ではなく、しっかりとした演技が必要だということです。
けれど、この演技が難しいんです。
しっかりやろうと思うと、かなりエネルギーが必要になってきます。
そこで、まず気をつけて欲しいのが、ポジションを守る、ということです。
おそらく、くるみさんの先生もそのようにご指導されると思いますが、ピケターンのクペなど、脚をあげる位置が高くなりすぎると、はしたなくなるので、気をつけてください。
アラベスクなどの脚も高く上げすぎないように、上品に踊ります。
着物を着ている人が大股で歩いたり、脚を高く上げないのと一緒です。
脚のポジションも5番などにしっかり入れる、腕もポジションをきちんと通過する、などという基本的なことを、普段の何倍も気をつけておこなってください。
結婚式なので、にこやかに、晴れやかに。
自分を育ててくれた周囲の人たちへの感謝の気持ちをこめて踊ってください。
他にも、「1幕より少し大人っぽく」だとか、「プロローグで妖精たちに授けてもらった要素(優しさ、のんき、鷹揚さ、元気、勇気、善の心)を持った姫なのでそこを表現…」など、色々あるのですが、はじめてのバリエーションを踊る場合、道は2つです。
外からつくるか、中からつくるか。
つまり、見た目からオーロラ姫に近づくか、自分の内側からオーロラ姫になるか。
両方出来れば、完璧です。
プロなら、両方がマストです。
けれど、週2回のレッスンで、はじめてのヴァリエーションで、発表会で踊るということはコンクールと違って、準備に2年も3年もはかけられないと思いますので、どちらかをメインにして取り組んだ方が成功する確率が高くなるのではないかと思います。
では、どちらの道にするかを選ぶ方法をお話しますね。
まず、ヴァリエーションを踊ることになったら、本番までの期間がどれくらいで、ぜんぶで何回くらい練習出来るかを考えます。
大勢で踊る時とちがって、ヴァリエーションはほんの数分とはいえ、舞台の上で1人で踊ります。自分が踊っている時に、客席のすべての視線は自分の動きに注がれます。
ですから、「あっ!失敗しちゃった!」と素に戻ったり立ち止まることは出来ません。
期間が短い場合は仕方がありませんが、半年以上ある場合は、本番に仕上げるのではなく、少なくとも本番2ヶ月前(この期間は長ければ長いほど良いですが、ここではわかりやすく2ヶ月前とします)にはもう完成させておきたいところです。
そこから2ヶ月かけて何度も何度も踊り込んでおくと、踊りにも気持ちにも余裕が出来ますし、万一、本番中に振り付けを忘れても、身体が勝手に動いてくれますから、安心です。
そこから逆算して、いつまでに振付を憶えてしまい、いつまでに動きを正確にするのかを自分でプランニングして練習に取り組みます。
踊りの世界観をつくりあげる、つまり内側から役をつくるのは、この踊りを完成させてから本番までの期間です。
役を研究して、気持ちをつくって、袖で気持ちを高めて、演じながら踊ることが出来ます。
この期間が長いなら、内側から役をつくることが出来ます。
ところが、大抵の大人はそこまで満足がいくほど練習期間や回数をとれません。
その場合は、徹底的に『型』を正確に踊ります。つまり、まず外側から役をつくる、ということです。
バレエはいくら気持ちがこもっていても、演技が素晴らしくても、手足のポジションや音楽と踊りがバラバラではバレエになりませんので、やはりまずは外側からつくることがおすすめです。
そのためには、『音楽の型』と『踊りの型』をめちゃくちゃ正確に丁寧に踊ります。
すると、気持ちや表情や振る舞いが自然とオーロラ姫などの役に近づいていきます。
これが、バレエのすごいところです。
わたしたちも、たとえばボサボサの髪、スッピン、毛玉のついたスエットでサンダルを引きずりながら食事に出かけた時と、ワンピースやドレスにハイヒール、髪も綺麗にセットして、上品なアクセサリーをつけて、
姿勢正しく食事に出かけた時、「べ、別人?」っていうくらい、気分や表情、立ち居振る舞いが変わって来ませんか?
それと同じで、オーロラ姫は特によくつくられた役なので、音楽に正確に、振付どおりに踊れば、自然とオーロラ姫に見えてきますよ。
余裕があれば、さらにそこにオーラやメリハリなどの演技を足したり引いたりしていくのですが、まずははじめての大舞台でしたら、音楽をしっかりと聴くことだけでも、随分ちがいます。
表情をつける時や踊る時の気分は、音楽を聴いた時に自分が感じる気分のまま表現すれば良いと思います。
あの瞬間のオーロラ姫を表現するのにぴったりの曲が使われているのが、ヴァリエーションですし、やはりチャイコフスキーはすごいです。あっという間にその世界に連れて行ってくれますから。
後は、もし役作りをする余裕があれば、私の場合はどんどん身近な人に落とし込んで行くんですね。
たとえば、オーロラ姫は生まれた時からお姫様で、美人で、西洋人で、16歳で、素直で、上品で…となると、そんな会ったこともないタイプの人って想像しにくいじゃないですか。
それで、もう少し身近に感じられる人で同じようなタイプの人はいないかな?って考えるんです。
もし私だったら、まずは日本人に置き換えたいので、日本人でお姫様にあたるのは…って考えると、皇族の方で、若い女性で、美人で、誰からも愛されている・・・って考えて、(ああ、じゃああの方みたいなタイプだな)ってイメージします。
すると、想像上のオーロラ姫よりはイメージしやすい女性像が手に入りますから。
または、先日NHKで放映していた「レ・ミゼラブル」のコゼット。
彼女は西洋人ですが、お姫様ではありません。貧しい孤児です。
それでも、素直で純粋な少女がみんなに愛されて、最後は王子様のような男性に出会い、大人の女性に成長して結婚するお話なので、オーロラ姫の成長物語に重ねあわせやすいかもしれません。
ジャン・バルジャンに守り育てられた純粋なコゼットはまるで“善”の象徴であり、物語の“光”をあらわしています。
だから街で罪人、つまり“悪”をみかけると顔をゆがめて、目を背けます。
けれど、実は自分が“善”でいられたのは、昔、犯罪をおかした“悪人”であるはずのジャン・バルジャンが必死に守り育ててくれたおかげです。さらに、コゼットには理由はわかりませんでしたがジャン・バルジャンはいつも苦悩していました。彼の後悔や孤独、また逆に優しさや愛情深さ、正義感の強さをコゼットは間近で見て知っていたのです。
ジャン・バルジャンは自分が命懸けで守ってきた、この世でただ1人の家族である、愛するコゼットを自分から奪ってゆくはずの、婚約者である青年の命を助けます。自分の幸せより、コゼットの幸せを選ぶのです。究極の愛です。
また、結婚前に自分たちをゆすろうとしていた落ちぶれた犯罪者の男は、実は昔、婚約者の青年の父の命を救ってくれた恩人でした。
善の中に悪があり、悪の中に善がある。
良い物語、何十年も語り継がれるストーリーには人間の本質がえがかれていて、芯の部分が良く似ています。
オーロラ姫もまた、カラボスの怒りや悲しみ、孤独に触れ、デジレ王子に出会って恋を知り、やがて善も悪も知るバランスがとれた大人の女性に成長します。そのまとめになるシーンが、このヴァリエーションになります。
コゼットの方が、お姫様よりは現実味があり、物語も丁寧に描かれていますので、私でしたらこういった側面からコミットしていって、自分なりのオーロラをつくりあげていくと思います。
普段から、このようにアンテナを張って、自分がイメージしやすかったり、共感しやすい女性像や役のストックを自分の中に持っておくとより楽しめるかなと思います。
ただこれは、私が演劇の経験が長いということもあります。演技の経験者でなければ少しむずかしいかもしれませんが、余裕があればチャレンジしてみると楽しいと思います。
演技や表情でその作品の世界観を表すことも大切ですが、実はバレエは、音楽や衣装や振付がそれらをかなり表現してくれているんですね。
ですから、ヴァリエーションに慣れるまでは、そういったものたちに助けてもらうと良いかもしれません。
演技はバレエの先生ならどなたもお上手だと思いますので、必要ならマイムも含め、きちんと指導してくださると思いますよ。
いいですね、オーロラ姫は『クラシックバレエ中のクラシック』ですし、みんなの憧れですよね。
お衣装も可愛いですし、気分が上がりますね。
良い役を頂きましたね。
ぜひ、楽しんで踊ってください!
考えるだけでワクワクするご質問をありがとうございました
◇
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全てに答えられないかも知れませんが、出来る限りお答えしようと思います。
ご質問、お待ちしています!
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