今日から、毎週日曜日に新連載、『私が大切にしている言葉たち』がスタートです!
大人になってからバレエをはじめて、バレエ教師になり、現在サクラバレエを主宰している私が、これまでに出会った恩師やダンサーの方たちの言葉の中から、大切にしているものを紹介していきます。
第1回目は、はじめてバレエを習った教室を主宰されていた先生の言葉です。
『バレエはね、顔を上げて、前を向いて踊るのよ。』
記憶だけが頼りなので、一語一句同じである自信はないのですが、確かこのような言葉だったとおもいます。
先生は向日葵の花がお好きで、(いつも顔を上げて前を向いて生きていきなさい。いつも太陽の方を向いている向日葵のように。)というのがモットーでした。
たしかに、バレエは基本的に顔を上げて前を向いて踊ります。
私はそれまで演劇をしていたのですが、そして今も演劇は好きなのですが、当時は社会派というか、コメディなどよりは、ちょっとテーマのある暗めな作品に出演したり、演出することが多かったんですね。
思えば、演劇ってシェイクスピア・チェホフなどの古典から人間や世の中の闇の部分を描いていたりして、どちらかというとハッピーエンドというよりは、悲劇的なラストになることが多かったんですね。
ずしん、と心に響くし、考えさせられるし、感動するのですが、観たあとに重~い、暗~い、救いがな~いという感じのものをよく演じていました。
演じる側としては、腕の見せ所というか、演じがいがあるといいますか、自分ではない誰かになって、色々な感情を表に出せますし、悲しいシーンや切ないシーンでお客さまのすすり泣きの声などが聞こえてくると心の中でガッツポーズしたりして。
現代社会の問題を鋭く描く!少しでも良い世の中にするための問題提起!みたいな感じがして、大好きでした。
それがはじめてバレエと出会って、感動したんです。
一流の振付家に演出家がバレエやダンサーへの愛にあふれて描き出す世界。
言葉がないので、世界の壁もない。
妖精にお姫様に王子様、パステルカラーに包まれて、美しい人間が舞い踊る。
「バレエって、なんて夢があるんだろう。」
「バレエの世界はなんて美しいんだろう!」
その頃の私は、岡山に来て知り合いも少なく、色々なことが思ったようにいかなくて、下を向いたり、後ろを向くことが多かったんですね。
「どうせ・・・」なんてすねてみたり。
不平不満を言ってみたり、誰かをせめてみたりすることもありました。
ところが、バレエは、そして当時のその教室は前向きであたたかなエネルギーに溢れていました。
それは、やはりこのようなお考えの先生が主宰されている教室だったからだろうと思います。
数十名の劇団をまとめることでさえ苦労していた私にとって、数百名の生徒をまとめて何十年も教室を維持し続けられていた先生は、憧れと尊敬の的でした。
そして、この言葉に出会ってから、私はいつも顔を上げて前を向くようになりました。
バレエ以外でも、出来るだけ下や後ろを向かないよう、心がけるようになりました。
(どんなことがあっても顔をあげて前を向くんだ。だって、私はバレエを踊るのだから。)
みなさんそうだと思いますが、日々良いことばかりではありません。
もういやだ、どうして私がこんな思いをしなくちゃいけないんだろう。そう思うことも少なくありませんでした。(今は、そのすべてが自分を成長させてくれていると思っていますが)
また、大人からバレエをはじめて、時に理不尽だと思うこともありました。それでもこの言葉を胸に、今日まで前を向いて、バレエを続けることが出来たのだと思います。
先生は本当に強く明るく、向日葵のような女性でした。
今でも、尊敬してやみません。
大人のクラスは先生の弟子の先生が担当されていましたので、私がこの先生のレッスンを受けることが出来たのは週1回ほど、高校生のクラスに混ぜていただいた時だけでした。
「子供の前で大人を叱りたくない」というお考えで、レッスンではあまり注意された記憶がありませんでしたが、発表会のリハーサルなどをこちらの先生に見ていただく時は、とても緊張したのをおぼえています。
ですから、それまではレッスンでお会いするだけ、遠くから憧れているだけだったのですが、ひょんなことから事務のお手伝いをすることになり、そこでスタッフとして、とても可愛がっていただきました。
なにをやっても、
「すごいわ、桜さん!あなた、ものすごく仕事が出来るのね!」と喜んでくださったり、
(FAX送っただけだったのですが)
「あなたのおかげで、私は本当に仕事がはかどって助かっているわ!」
「あなたは、私の秘書になるのよ。うふふ。」と何度も何度も言ってくださいました。
間もなく、先生の代わりに県内のバレエの先生方の集まる会議に出席したり、まだ若い教師たちの教育係をたのまれるようになりました。
ずっと憧れていた先生のお役に少しでもたてるのは、本当に嬉しかったです。
けれど、スタッフになって半年もたたないうちに、先生は天国へ。
海外での不慮の事故でした。
訃報を聞いた時は、一瞬、息がとまり、先生の笑顔と言葉が浮かびました。
「帰って来たらすぐに発表会参加費の用紙を配るから、準備しておいてください。あと、スタジオのお花の水やりお願いします。」
成田空港から搭乗前に電話をかけてこられた時の言葉です。
その時はまさか、こんなことになるとは、夢にも思いませんでした。
人生であんなにも悲しく、朝も夜も泣き暮らしたのははじめてでした。
先生が亡くなった後に色々な方から
「先生があなたのことを褒めていたよ。」
「先生があなたのことめちゃくちゃ気に入っていたよ。“あの子のために、このスタジオを会社にしようと思うの”とまで言われたよ。」
「先生はあなたのことを“あの子は口が堅くて、信用出来るわ。どうしてもっと早くスタッフになってもらわなかったのかしら”って、とても嬉しそうに話していたよ。」
と、“陰口”ならぬ、“陰褒め”をたくさんしていただいていました。
それを聞いて、また泣きました。
この経験から私も教師になってからは、生徒の“陰口”は言わず、出来るだけ“陰褒め”をたくさんするようにしています。
…あ、でも私の場合は直接伝えることの方が多いですね。
そして、今でも私の中の『良い上司の条件』は、“生きていてくれること”。
いつか、サクラバレエにもスタッフが出来たら、その人たちのためにも出来るだけ長生きしなくちゃと心から思います。
強く、優しく、美しく、生き様から恰好良い、素敵な方でした。
いただいた先生の形見の時計は、私よりももっとふさわしいと思う方に差し上げました。
その方はきっと、今でもその時計を大切にしてくださっているはずです。
私にとっては、生まれ育った“実家”のように居心地の良い場所だった、初めて所属したバレエ教室。
一生忘れられない、大好きで大切な場所をつくって提供してくださった先生を、今でも尊敬してやみません。
そして私は、サクラバレエが生徒たちにとって、そのような場所になってくれるよう、心がけていますし、そう願っています。
先生は今でも私の心の中にいらっしゃいます。
先生の言葉は、一つ一つがすべて宝物です。
今、私はバレエを踊る時も、そして教える時も、日々の中でも、人生のターニングポイントに立った時にも、いつもいつも、先生からいただいたこの言葉を心の中に大切に持ち続けています。
これからも。いつまでも。
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