ずいぶん長い間、考え続けていたことがあります。
『バレエの先生』と言えば、“怖い”“厳しい”“近寄りがたい”というイメージをお持ちの方も多いと思います。
私の中の『バレエの先生』のイメージはそれに“優しい”“温かい”がプラスされた感じ。
レッスン中は厳しいけれど、実は温かくて優しい、というイメージです。
厳しいだけの先生もいなければ、優しいだけの先生もいない。
もともと、バレエ教師は自分の生徒に愛情を持っています。これはもう100%と言って良い。
けれどそこを、例えばレッスン中、生徒に厳しくしたり、時に冷たくしたりするのは、生徒に緊張感を持ってもらうため。
バレエは「少し緊張した方が集中力が増す」という考え方のもと指導が行われているため、バレエ教師はレッスン中に生徒が集中出来るよう、生徒が少し緊張するような雰囲気を作ります。
それが、“怖い”だとか、“厳しい”と言われるゆえんなのですが、実はこの考え方、クラシックバレエの伝統なので、100年ほど前から変わっていないんですね。
この100年の間に、色々な研究が進んで、メンタルもボディも“気合で”何とかする時代から、“理論”で“効率的に”前へ進めるよう、進化しています。
私は、もうこのバレエの従来のやり方を変えて、進化させても良いんじゃないのかなと、ずっと考えてきました。
先生が怖いと、生徒は確かに緊張します。集中もします。
けれど、一番のデメリットはコミニケーションが一方通行になるということ。
生徒は先生の前に立つと緊張するので、自分の考えていることや思っていることが、言えなくなります。
すると教師は、(生徒はこう思っているのかな?)と推測をもとに指導していかなくてはなりません。
推測は当たることもあれば、外れることもあるので、ものすごく遠回りなんですね。
また、真面目な人や頑張り屋さんほど、先生が厳しいと、レッスン中も緊張で身体が固まってしまいます。
私自身も昔はレッスンの緊張感で身体をガチガチに固めていて、動きが硬くて、バレエがなかなか上達しなかったので、どうにかならないかな、とずっと考えていたんです。
けれども、生徒が緊張しないようにと、柔らかい雰囲気で楽しいレッスンをすると、楽しすぎてクラスの雰囲気がワァッと盛り上がって、はしゃぎすぎる人が多数いたり。(昔のフィットネスでクラスを担当していた頃の話ですが)
“上手になるための”レッスンよりも“今が楽しければ良い”レッスンを好むようになってしまったり、基礎的な練習を嫌がったり。
なによりも、踊りに緊張感がなくなってしまって、ケガをしないかハラハラしたりしていました。
また、中には本気で上手になりたい人もいて、そういった人達はレッスンに集中したいのに、“今が楽しいレッスン”に夢中になっている人達の動きで集中が途切れてしまったり。
私自身、教えて頂いた先生方は、皆さんバレエの伝統にのっとって、厳しく、緊張感のあるレッスンをして下さっていたので、“厳しくないけれど、生徒が集中しているレッスン”というものを知らなかった。
だから、試行錯誤の日々が続いていました。
それが、最近になって、ひとつの答えが出ました。
スタジオの生徒達が出してくれました。
それは、『自分なりの目標やビジョンを持っていれば、生徒は、先生が怖くなくても自然とレッスンに集中する』というものでした。
今年の4月から、生徒に「これまで以上に本気で教えて良いですか?」と聞いて、「はい」と答えた生徒だけが、今、スタジオに残っています。
今、サクラバレエに来てくれている生徒達は、皆さんなにかしらの、“夢”や“目標”や、“ここにいる理由”を持って、集まって来てくれている人達です。
彼女たちは、それぞれが自分の“夢”や“目標”に向かってレッスンを受けているので、何も言わなくてもレッスンにしっかり『集中』しているし、『ほどよい緊張感』を持っています。
“先生が怖いから”の緊張感と、“やる気があるから”の緊張感はまったく違います。
・・・そうか。
生徒全員が本気なら、先生は遊んでいても(遊びませんけど)、きちんと自分でレッスンに集中するんだな、と。
これは、大きな発見であり、気づきでした。
なるほどね、と。
生徒に教えてもらいました。
考えてみると、一般的にバレエは子供の時から習うものなので、ほとんどの子供は、親がバレエが好きで、親の影響でバレエを習いはじめる子が多いんですね。
お母さんの愛情をもらうために、いきたくないけど、バレエがんばる、という健気な子供達を、これまで子供向けのバレエ教室で子供クラスを教えていた時に、たくさん見てきました。
そういったパターンでバレエを習う子供があまりにも多いので、バレエが好きな私としては、レッスン中にイヤイヤレッスンしている子供に教えるのはとてもつらかった。
そしてそれが、今、大人向けのバレエ教室を開いている理由の一つにもなっています。
大人はお母さんに無理やり連れてこられていて、やめさせてくれないという人は(たぶん)いないので、少なくともやる気がゼロの人はいないはずです。
大人は自分の意志でバレエを習いに来ているのです。
それが、私が大人バレエが好きな理由の一つでもあります。
イヤイヤバレエを習っている子供達をなだめて、すかして、ってレッスンしていると、
(ああ、世の中には、もっとバレエをきちんと教えて欲しい!って思っている人が、沢山いるはずなのに!)
と、ずっと切なく思っていました。
そうは言っても、子供は子供で、そうこうするうちに、何回目かの発表会あたりでバレエが大好きになって、やがてプロを目指したりするのが面白いのですが。
ただ、残念ながら、私はそこに“やりがい”や“生きがい”を見出すことが出来なかったですね。
死んだ魚のような目をした4歳児に発表会のステップを踏ませたり、
お母さんと離れて泣き叫ぶ6歳児にでも、時に厳しく接しないといけなかったり。
何かが違うんじゃないのかな~と。
ただ、そういった子供達をまとめて、スムーズにレッスンするためには、先生には多少の厳しさが必要なのかもしれません。
けれども、もともとやる気がある大人の場合は、進む方向を指し示してあげて、レールくらいは敷いてあげれば、あとは自分で前に進んでいけるのかな、と。
必要な時だけサポートしてあげた方が、伸び伸びレッスン出来て良いのかなと。
もちろん、緊張感がまったくなくなってしまって、ケガをしそうなくらい集中力がない時には、注意を促すくらいのことは必要かもしれませんが。
サクラバレエにスパルタは、必要ないなと。
『本気=スパルタ』ではなく、『本気=やる気』でいいな、と改めて思い直しました。
その分、“目標”や“将来のビジョン”を描くところは、一人一人、出来るだけ丁寧にサポートしていけたらと思います。
おかげさまで、私にとって、今シーズンは、実り多い、収穫の秋になりました。
そしてこうやって、色々気がついて成長していけることを、改めて
『だから、バレエって面白い』と感じる今日この頃なのでした。