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前回は、バレエを踊る上で、ONとOFFを切り換える大切さについて、主に身だしなみについてでした。今回は人間関係についてです。
人間関係のONとOFFというのは、裏表のある付き合い方をするということではありません。
オフィシャルとプライベートを分けましょうというお話です。
人は、皆、自分と他者との間で無意識に距離を取りながら、関わりを持っていきます。
オフィシャルで最も遠いのは、見知らぬ人です。この関係を仮に、Aとしましょう。
町ですれ違ったり、電車で隣に座ったり、仕事上の付き合いでも名前も知らず、挨拶も話もしない相手(駅の売店の店員さんとお客さんや、ショッピングモールのお客さんと掃除をしている人など)があてはまります。
次にBです。仕事上で関わりのある人や、近所の方などで、名前を知っていたり、顔見知りになっていて挨拶をしたり、天気の挨拶くらいはする相手(取引先の相手同士や、パン屋さんと、よく買いに来てくれるお客さんなど)。
次にC。仕事上でも関わりの深い人や、ご近所でも仲の良い相手。名前も顔も知っているし、時にはプライベートのことなども話す相手(付き合いの長い取引先の相手同士や、仲の良い職場の同僚、お店の常連客など)。
このあたりから先に進むと、プライベートな関係になります。
プライベートで一番距離が近いのは家族です。これをDとしましょう。
次にE。親友や恋人など、何でも話せる関係の相手。悩み事など、何でも相談なども出来て心の内をある程度見せることが出来る相手です。
次にF。学生時代からの友達や仲の良い近所の人、職場の同僚や習い事が一緒の中でも距離が近い人など。お互いに損得関係がなく、2人で話をしたり、どこかへ出かけることを、お互いに希望している関係の相手。何でも話す訳ではないけれど、共通の話題や趣味について話したり、行動を共にすることが出来る相手。内容によっては相談をしたり、少し突っ込んだ話などもする相手です。
次にG。友達の友達や、顔見知りのご近所さん、職場の同僚など、グループなど複数で話したり会ったりはするけれど、一対一では会わない相手。全体で共通の話題を話したり、一緒に行動はするけれど、突っ込んだ話はほぼしない相手。
最後にH。プライベートで最も距離が遠いのが、町内会やPTAで一緒だけれどよく知らない相手や、同窓会では会うけれどほとんど話したことがない元同級生や、習い事が一緒だけれどあまり話したことのない人など、挨拶程度はするけれど、ほとんど話さない相手。
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バレエを習っている人にとって、バレエ教室での人間関係は、この中ではプライベートに分類されると思いますが、先ほどもお話したとおり、プライベートな関係の中でも距離感は関係性によって様々です。
普通、人と人が仲良くなる時は、距離が遠いところからはじめて、時間をかけて、少しずつ距離を縮めて、近い関係になっていきます。
はじめはHの“挨拶をするくらいの関係”からはじまり、年月の経過とともに、また発表会などの共通の目標に向かって一緒に頑張っているうちに関係性はHから、Gの“みんなでバレエなど共通の話をする距離感”になり、やがて“レッスン後に皆でお茶などをするような距離感”になり、少しずつバレエ以外の話もするようになり、その中でも特に気があったり、お互いに(くどいようですが、このお互いに、というのが重要です)もう少し近づきたいと思った相手とは、さらに距離を縮めてFの関係になり、一対一で会ったり、話をするようになり、プライベートの中でもより仲の良い友達になり、悩みを相談したり、突っ込んだ話をするようになります。
この『人との距離感』というのは、人それぞれです。
自分の状況やコンディションによっても変わってきますし、相手によっても変わってきます。
時々この人との距離感を使い分けることが得意な、“距離感の達人”のような人がいます。そういった人は、ONとOFFの切り換えも上手です。
逆に、“みんなと距離が近い人”や、“みんなと距離が遠い人”もいますが、人間関係においては、人との距離を自分で選べた方が、人間関係が上手くいくことが多いようです。
“みんなと距離が近い人”は、誰とでもすぐに仲良くなれて、自分もオープンであるために、人に好かれやすいです。誰にでもすぐ相談出来ますし、他人の相談にものってあげます。
ところが、困ったこともあります。人は、それぞれに自分のどこまでをどういった人に近づかせるのかを無意識に決めています。一般的に人は、会ったばかりの相手に突然深い悩みを打ち明けられたり、自分のことをあれこれ質問されることを好みません。それは人が自分を危険にさらさないための、無意識の知恵だと言えます。この人は大丈夫だと思ったら、近い距離に相手を入れますが、よくわからない人とは、安全のために距離をとりたいものです。
ですから、みんなとの距離が近い人は、仲良くなろうと思って急に相手に近づきすぎて、警戒されてしまったり、怖がられてしまったりして、自分の思いとは逆に、人と仲良くなったり、信頼を得るチャンスを逃してしまうことがあります。また、相手も急に近づいてもOKという場合は、その人も周囲との距離が近い人なので、距離が近づきすぎてしまいます。距離が近すぎると、どうしても相手の嫌なところが見えてしまいます。人間である以上、嫌なところがない人はいませんから、近づけば近づくほど、相手の嫌なところがよく見えるのです。相手の良いところばかりが見えているうちは良いのですが、うまくいかなくなると、相手のあれもこれもが気に入らない、となってしまいます。また、距離が近くなるとお互いに甘えが出てきてしまいますので、何もかもを相手のせいにしてしまい、喧嘩をしたり、直接相手に言えない場合は本人のいないところでコソコソと悪口を言うことが絶えなくなってしまいます。人は友達の悪口を言っている時、あまり幸せではありませんので、他人との距離が近すぎる人は、絶えず他人の悪口を言い続けることになり、そしてそんな自分に自分自身が嫌いになっていってしまいます。せっかく大好きなバレエを習っているのに、一緒にレッスンしている人と喧嘩したり、相手の顔を見るのも嫌になって、バレエをやめてしまうのはもったいないことです。こういうタイプの人は、相手との距離感というものを意識して、人と仲良くなる時は、時間をかけて、お互いのことを知りながら、相手もOKなら、お互いに少しずつ距離を近くしていくという方法を練習してみると良いかもしれません。
また、このタイプの人は、オフィシャルな相手にもプライベートな距離感で近づいてしまうことが多いです。
自分が仕事中、はじめて会った名前も知らない人が、たとえば、デパートの化粧品売り場にいて、はじめて来られたお客様が
「ね~ね~、聞いてよ~、昨日うちの旦那にめちゃくちゃ腹が立つことがあったんだけどさ~。」と延々と話しはじめたらどうでしょう?
自分が医者だとして、患者さんに「水道が故障しているのだけれど、業者がすぐに来てくれなくて困っています。」と相談されたら、びっくりするし、困ってしまいますよね。
相手にとっても同じなのです。
ですから、このタイプの人はオフィシャルとプライベートのお付き合いを分けることも少し意識してみて下さい。
自分にとっては“買い物”というプライベートの中でも、相手にとってそれが“仕事”なのであれば、それは“オフィシャルな関係”になります。お互いがプライベートであって、はじめて“プライベートな関係”になります。たとえば自分が上司であったり、お客という関係であったとしても、相手にとって“オフィシャル”なのであれば、それは“プライベートな関係”ではありません。それに気づかずに距離を縮めてしまうと、自分が知らないうちに、相手にとっては“困ったちゃんなお客”“困ったちゃんな上司”として知らない間に相手に迷惑をかけてしまい、これも自分の望みである、“相手と仲良くなること”は手に入りにくくなってしまいます。よほど気が合って、お互いに信頼出来ると思えば、相手から「今度飲みに行きませんか」などの“距離を近づけたいサイン”が出ますから、そうなれば“プライベートな関係”になりますので、やはり相手をよく見てあげるということが大切になります。
また、逆に“みんなとの距離が遠い人”は、自分ひとりの世界にいることに慣れていますので、自分オリジナルの世界観を築きやすく、一つのことを深めたり、芸術家として自分の内面を外の世界に表現したりすることが上手な人であることが多いです。人と距離をとっているおかげで、人間関係で悩むことは少ないと思いますが、孤独になりやすく、心の中にいつも寂しさを抱えるようになります。また、バレエなど、何かをみんなで一緒につくり上げて行く場合は、コミニケーションが円滑に図れずに、振り付けの変更などを誰かに聞いて教えてもらったり、わからないところを確認したりすることが苦手になってしまいます。誰にも助けてもらえず、誰かを助けて上げる機会もなかなかないため、孤独になってしまって、これもまたバレエをやめてしまいやすくなります。また、舞台で踊っても、一緒に踊っている人達との距離が遠いことがお客様から見てもわかりますし、お客様との距離も遠くなってしまうので、どんなに上手に踊っていても、ファンになってもらいにくいです。
ですから、やはり、バレエ教室での人間関係は、つきあいの長さや関係性などにもよりますが、距離を時間をかけてお互いに相手を知りながら、相手との距離感をはかりながら、お互いに快適な距離を探りながら、お付き合いをしていくのがベストだと思います。
ONな場所であるバレエ教室では、知り合った最初の頃は挨拶や笑顔でコミニケーションをとり、少し仲良くなってきたら、天気の話や、お互いの持ち物などから共通の話題を探したり、全員に共通するバレエの話や、レッスンの話などをしていき、そのうち一緒にスタジオのお手伝いをしたり、発表会に向けて一緒に練習するなどして皆と仲良くなり、相手のことをもっと知りたいと思ったり、相手ともっとお話したいとお互いに思ったら、そこからはもうプライベートな付き合いですので、皆でプライベートな場所、つまりスタジオの外にあるカフェなどでコミニケーションをとり、その中でも気があう人がいれば、スタジオの外のプライベートな場所に2人で出かけるなどして、付き合いの長さや相手との関係性によって、お互いに心地よいと思える距離感で付き合って行くのがスムーズだと思います。
また、ONとOFFは相手によっての切り替えだけでなく、時間と場所による切り替えもあります。
バレエスタジオの中でも、よりオフィシャルな場所である、スタジオ内の踊るための場所(レッスン場)では、相手とは挨拶をかわす程度のHくらいの距離感で。スタジオの中でもややプライベートな場所である控室などでは、バレエなどの共通の話題や世間などをする、Gくらいの距離感がスムーズなのかなと思います。
基本的には、バレエスタジオでどういう人付き合いをするのかは、その人次第ですし、人にあれこれ言われるものではないのですが、少し意識すると、スタジオ内の居心地がグンとよくなったり、人付き合いが楽になったりするので、この距離感を少し意識しておくと良いかもしれません。
たとえば、スタジオの控室で、まだあまり距離が近づいていない相手には、自分のプライベートなことを一方的に話したり、相手のプライベートを突っ込んで聞くことは遠慮して、スタジオの外のカフェなどに誘ってみる。相手も誘いに乗れば、距離が近くなっているということなので、そこではじめて突っ込んだ話を少しずつした方がスマートですし、好感を持たれます。断られたら、まだ距離が近くなっていないんだなと思えば良い。(ただし、何度か誘っても断られる場合は、それが今の相手にとっての心地よい距離感だということなので、それ以上は誘わずにその距離はキープしてあげるのが思いやりです。相手にも相手の都合や事情がありますので。)
また、距離が近づいている人同士の場合は、おしゃべりするのが楽しくて、うっかりスタジオの中でも踊るための場所(レッスン室)でプライベートな話などをしたくなりますが、それはやはり、よりプライベートな場所である場所(控室)の方がスマートですし、周囲の人達への思いやりにもなります。もっとプライベートな話で盛り上がりたいのであれば、よりプライベートな場所である外のカフェなどで心ゆくまでおしゃべりしたりした方が、本人達も周囲の人達も気持ちよく過ごせます。
また時間にもON・OFFがあります。
レッスン中はオフィシャルな時間なので、仲の良い人だけで固まったり、特定の人同士だけでコミニケーションをとるのではなく、みんなとまんべんなく関わりましょう。
レッスンが終われば、オフィシャル度が少し下がりますから、もう少しプライベートな距離感でお付き合いしても良いと思います。
サクラバレエでは生徒同士が仲良くなるのは大歓迎ですので、お茶を飲みに行ったり、お友達の家に遊びに行ったりするのももちろんバレエを習う楽しみのうちの一つだと思いますが、みんなと仲良くなりたいと思うあまり、お互いにまだよく知らない相手と、最初から距離を縮めすぎてしまったり、相手にも踏み込ませすぎてしまうと、今度は距離をとろうとする時にトラブルになったり、近い距離で無理に相手にあわすぎて疲れてしまったりするので、そのあたりはバレエスタジオという様々な人がいる場所でコミニケーションをとりながら、経験を重ねて、自分にとってのベストな人間関係を築いていくことが出来れば良いと思います。
人間関係が上手くいっていれば、レッスンで落ち込んだり、心が折れそうになっても、人に励ましてもらったり、振り付けが分からなくても、誰かに助けてもらえたり、逆に自分が助けてあげたり、仲間から良い意味で刺激を貰ったりして、バレエを続けることが、1人で頑張るよりも、何倍も何十倍も楽しくなります。
舞台で成功しても喜びは2倍、3倍ですし、お互いに励ましあいながら、バレエの道を進んでいくことが出来ます。
バレエは上手に踊れるようになるまで、何年もかかりますから、つまりそれは、周囲の人達とも長いお付き合いをすることになります。
出来るだけ相手の良いところを見て、近づきすぎたら少し離れたり、イヤなものはイヤだとはっきりNOを言ったり、気が合う人とはお互いにわかりあえる大切な友達にもなれますし、そうやって、バレエを習いながら、人間関係についてもお互いに切磋琢磨して、コミニケーションを練習すれば、舞台の上で踊る時も、みんなで息のあった踊りが出来ますし、お客様との距離感も上手にとることが出来るようになります。
このあたりは子供よりも大人の方が上手に出来るはずなんです。
子供の頃はお母さんとの距離がめちゃくちゃ近いですし(もともと一緒でしたからね)
オフィシャルもなにも、全部プライベートなので、ONとOFFの使い分けも何もないので、バレエでオンにするのが難しいのです。
だから、バレエの先生は威厳を持って厳しくし、礼儀やマナーを守るよう指導して、バレエ教室に来たら、とにかくシャキッとするようにしてくれているんですね。
ただ、多くの子供にとっては“やらないと怒られるからやっている”という状態であることがほとんどなので、よくわからないまま、そこを使い分けていたりします。
この点では大人の方が、仕事を持ったり(仕事にもよりますが)、子供の学校で役員をしたり、学生でもアルバイトを経験(アルバイトの種類にもよりますが)することによって、世の中にはプライベートとオフィシャル、ONとOFFがあるのだなということを理解して、自分の意志で切り換えることが出来ますから、このONとOFFの使い分けが出来るというのが、もしかしたらある意味では、大人になる、ということなのかもしれません。
誰もガマンをせずに、自由に、それぞれの相手との関係性や距離感を選びながら、自分を表現することを学んで行く。
大人になってからバレエを習うということは、バレエと一緒に人を学び、自分や相手を知っていくということなのかもしれません。
おかげさまでサクラバレエは創立当初から良い人が多い、皆仲が良く、人間関係がとても上手く行っているのですが、年齢や立場などに関係なく、誰もが自由に自分の意見が言えて、お互いを尊重しあって、もっともっとみんなの居心地が良い場所になってくれると良いなと思っています。
もし、これからバレエをはじめようかなと思っている人の中に、「バレエ教室の人間関係ってドロドロしてて、大変そう。トゥシューズに画鋲が入っていたりしないのかしら?」などと、想像力たくましく、まるで少女漫画の世界のようなイメージをお持ちの方がいらっしゃいましたら、いえいえ、そうじゃないんですよということをお伝えしておきたいなと思い、今回このお話をさせてもらいました。
とはいえ、私もメンタルのプロではありませんし(詳しいことを知りたい人は本はプロの方に話を聞いてみて下さいね)、人付き合いの達人でもないので、絶対にこう!と言う訳ではないのですが、これまでの自分自身の経験や、生徒達のやりとりや様子を見ていて、こういう風にすると上手くいくかな、自分も相手も楽でいられるかな、と思ったことをお話させてもらいました。
ですから、時には段階を踏まずに、相手の懐にストンと入り込むことでコミニケーションが上手くいくこともありますし、普段は周囲と遠い距離感でいて、いざ!っていう時に上手にコミニケーションをとれる人などもいますので、すべてケースバイケースだということを頭に入れておいて下さいね。
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