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毎週火曜日に連載中の『大人がバレエを習うということ』シリーズ
今回は『バレエは普通の習い事じゃないⅢ
~上手になりたいなら掛け持ちはしない方が良い⑤~』
先週に引き続き、『メソッドの違いについて』です。
◇
前回お話したように、メソッドとは教授法であり、国やバレエ団、バレエ学校によってメソッドが違います。
もともとバレエは、古い時代、ヨーロッパでは国力を諸外国に示すために発展しました。
フランスも、イギリスも、ロシアも、競って国がバレエの発展に力を入れたのは、
“我が国には、こんなに豊かな文化がある”
“我が国は、こんなに優雅な文化を育てられるほど余裕があるのだ”
ということをアピールするために国をあげて育まれてきたもの。
(だから、世界3大バレエ団にはロイヤルバレエや国立バレエなど、国や王室といった名前がついていますよね。)
それぞれの国は、素晴らしいバレリーナを育てるためにはメソッド(教授法)が大切だということに気がついていたため、そこに力を注ぎましたし、王様の名前がついているバレエ団で上演するバレエは、やはりきちんと揃っている方が美しいということで、バレリーナ達の動きを揃えるため、バレエ団やバレエ学校でメソッドを統一したのです。
ロシアでは、バレエ団やバレエ学校はすべて国立であり(バレリーナ達はみんな公務員なんですよ。主役を踊れば、ものすごい額の年金に車や別荘などが国から贈られるそうです。)全て同じメソッドで統一されています。
そのため、ロシアでは、バレエ学校の生徒が卒業してプロになった時に、ロシア国内のバレエ団であれば、どのバレエ団に入っても全員の踊りが揃います。
英国や仏国ではいくつかのメソッドがあるようですが、英国ロイヤルバレエ団に入るためにはロイヤルバレエ学校に入らなければいけませんし、仏国のオペラ座バレエ団に入るためには付属のオペラ座バレエ学校に入る必要があります。それぞれどのバレエ団でも踊りが揃うようにメソッドを統一しています。
ところが、日本では、国立や王立のバレエ団やバレエ学校はありません。
ですから、バレエ教室の先生がそれぞれにどの国の指導者に習ったかによって、メソッドが違います。
そのため、日本には独自のメソッドがありません。
日本では、、英国派、ロシア派など、創設者や主催者が指導を受けた先生のメソッドをそのまま、あるいは改良して使っています。
ですから、日本の街のバレエ教室では色々なメソッドが混ざり、それをさらに日本人向けに改良して使っているのが現状です。
ですから、日本では教室の掛け持ちをすると、メソッドが違っていることが当たり前なのですが、これがちょっと困ったことになるのです。
一つ目は、教授法つまり教育プログラムが違う2つのレッスンを並行して受けることによって、プログラム内容が偏るということです。
私はメソッドの専門家ではないので、詳しくはその道のプロの方に聞いてもらった方が間違いないと思いますが、とりあえずものすごくざっくりと例えると、
例えばロシアメソッドでは『まずバレエの正しい型をキッチリと筋肉に憶えさせることをレッスンの目的の一つとしています。そうやって体がキッチリと正しい動きを憶えて、何も考えずに動いても正しいルートをたどって体が動くようにしておいた後に、センターレッスン(フロアで踊る練習)や作品を踊る時に、大きめに表現すれば、正しくて美しい動きが自然に出来るというプロセスを踏みます。
そのため、バーレッスンでは出来るだけ動きを大きくしすぎないように、シンプルに動きます。
ところが、ヨーロピアンメソッドでは、バーレッスンを“型をたたきこむ”というよりは、“ストレッチと筋トレを兼ねながら、バレエの動きを繰り返し練習する”方に重点を置いています。バーレッスンの時から空間や自分の可動域を意識して動き、やや大きめに柔らかく動きます。(メソッドなどによって色々ですが)
ですから、せっかくロシアメソッドの教室では“必要最低限な動きを正しく繰り返す”ことを目的としてレッスンしていても、その同じ週に“体を大きくいっぱいに使う練習を繰り返し”してしまうと、レッスンする意味がなくなってしまうんですね。
また、ヨーロピアンメソッドで身体をいっぱいに使う練習をしていても、ロシアメソッドでは役に立つのは、基礎をしっかり学び終えた数年後ですし、ヨーロピアンメソッドだけを習っている人に比べると、その効果は半減してしまいますよね。
レッスンを受ける生徒は、その時その時のレッスンと向かい合っていますが、教える方は長い目で見て、長期プロジェクトでその人を育てようとしていますので、時にお互いがお互いの長所を打ち消しあってしまうのです。
これはとてももったいないですよね。
◇
もう一つややこしいのが、メソッドが違うということは、ただ教授法が違うというだけではありません。
例えば、同じステップでも“ステップの名前”が違っていたり、逆に同じ名前なのに、動きが違っていたり、“正しいとされるポジション”“動かしても良いとされる可動域”“足を上げる角度”などの細かいルールも、メソッドによって違うのです”(さらにややこしいのが、同じものあります)
その違いの数は膨大であり、本当に細かいところが違うのです。
それはまるで、同じ“外国語”というものでありながら、“英語”と“ドイツ語”というくらい違いがあります。
ですから、どのメソッドが正しいというものではないのですが、それぞれのバレエ団やバレエ学校、バレエ教室では、『これが正しい』というものがハッキリとしています。
特に海外のバレエ学校では『これが正しい』というものがハッキリとしていますので、将来、海外の一流バレエ学校に入りたいと望んでいる子供達は、海外のきちんとしたメソッドで統一しておいた方が良いと思います。
また、メソッドを知らない人にはよくわからなくても、メソッドを知っている人は、メソッドが混ざっているのは気になるものです。
英語を話していた人が、突然ドイツ語で話はじめたり、日本語が混ざったりしてまた英語に戻ったりしているのを聞くくらい、違和感があります。
私も、ごくたまに見るyou tubeなどで、時々ものすごいことになっている映像を見かけることがあると、酔いそうになります。
ただ、将来、海外でプロのバレエ団やそのためのバレエ学校に入る予定がない場合は、そこまで神経質になる必要はないのかなと思います。
その人が所属している教室のメソッドで踊ればOKだと思います。
それでも、やはりバレエがきちんと上手になるためには、きちんとした教育プログラムが必要ですし、発表会などで舞台に上がる場合に「これが正解」というメソッドが統一されていないと、一人ずつの正解が違うため、本人達は揃えているつもりでも、お客様にはすべての動きがバラバラに観えてしまうので、全員が下手に見えてしまいますので、各教室各団体では統一されている必要があると思います。
…話がそれましたが、つまりまとめると、バレエのメソッドというのは、お教室ごとに違うあげく、メソッドが違えば憶えることやルールがものすごく違うということなんです。
ですから、掛け持ちしてしまうと、バレエの膨大な決まりやルールを、×2、×3
憶えなくてはいけなくなります。
ですから、普通に一つのお教室で一つのメソッドで習っていても、バレエは憶えることが沢山あって、とうてい憶えきれるものではありません。
それが掛け持ちしてしまうと、憶えることが×2、×3になるわけです。
しかも、頭では憶えられても、体、筋肉はそんなに器用ではありませんから、両方が混ざったどっちでもない憶え方になります。
(掛け持ちしているのを内緒にしても先生にはわかるというのは、実はこの筋肉使い方、筋肉の記憶でわかるケースが多いんです。)
どっちつかずの、英語でもドイツ語でもない、誰とも揃わない、ものすごくクセのある動きになってしまうんですね。
それから、ここでようやく前回例え話になりますが、前回は、英語を全く話せない人の場合で例えたのですが、今回はわかりやすく、日本語が話せない外国の方に日本語を教えるという話に置き換えてみたいと思います。
その場合、
どいうことかと言うと、たとえば、ここにパターンBとパターンCで、カタコトの日本語が話せる人がいたとしましょう。
パターンA:ネイティブの先生が簡単なフレーズを話すのを聞いて、自分も真似してみる。
そして、それを聞いた先生に発音などを先生になおしてもらいながら、いくつ
かのフレーズを丸暗記していく。
パターンB:最初からネイティブの先生と日本語だけを使って身振り手振りで話す練習をする
パターンC:ストーリーを知っている映画やドラマを日本語で繰り返し観て、丸暗記する
パターンD:まず単語を憶えて、文法を憶えて、それを組み立てて文章を作れるようにしてから、細かい発音を憶えて、長い文章にメリハリをつけて喋れるように練習する
など。
日本の一般的なバレエ教室はA~Cの複合型が多いですが、海外のバレエ団付属のバレエ学校はすべてパターンDです。ちなみに、サクラバレエのサクラメソッドもパターンD。
時間はかかるけれど、上手になるためには、この方法が絶対に必要です。
この方法で大人がバレエを習えるのは、日本中探しても、サクラバレエだけ。おそらく日本初の試みです。
さらに、世界中でバレエの全てのメソッドは身体条件の良い子供向けのメソッドなので、サクラバレエは大人向けにオリジナルのサクラメソッドで教えています。(この部分は宣伝ですね)
宣伝は置いておくとして、バレエでも語学でも共通ですが、きちんとしたものをマスターしようとすると、A~Cパターンでの練習が邪魔になることがあります。
こちらの言葉もゆっくりなら理解できるし、日本語モカタコトなら話すことが出来て、コミニケーションがとれるとしましょう。
例文A:「ワタシ、ソレ、サイコー!ヒュー!」などです。これをもう少し丁寧な日本語にすると、
例文B:「ありがとうございます。私はその事を、とても嬉しく思います。」
だとしましょう。
例文Bのような日本語で話せるようになりたいのなら、例文Aの言葉で話すことは邪魔になります。
例文Aで話す期間が長くなればなるほど、話し方にクセがついてしまって、美しい日本語を習得するまで時間がかかってしまいます。また、なまじっか、例文Aでもコミニケーションがとれてしまうため、今さら、むずかしくて面倒な助詞や助動詞、接続詞や丁寧語、発音やアクセントなどを、一から習うのがおっくうになてしまうんですね。
「まあいいか。」ってなりやすいんです。
正しいプリエやタンデュ、足のポジションが出来ていなくても、ヴァリエーションをそれらしく踊っているように見えれば、まぁいいかってなるんですね。
けれど、ヴァリエーションを美しく踊りたかったら、プリエやタンデュ、足のポジションが正しく美しく出来ないと、絶対に無理なんですね。
ヴァリエーションだけを何万回練習しても、つまり、「ワタシ、ソレ、サイコー!ヒュー!」という日本語を何万回練習しても、美しさからはかけ離れて行ってしまう。
それならもう最初から、日本語が全くわからない方が良い。
これは、掛け持ちにも同じことが言えていて、例文Aのように基礎を身につける前にたくさん動いて踊ってしまうと(日本のバレエ教室の子供の90%以上、大人の100%がこれですね)変なクセがついてしまって、よほど覚悟しないとなおらない。少なくとも例文のような話し方をしているままで、例文Bが話せるようになるのはまず難しい。例文Aで話すのをやめてつまり、パターンA~Cのような練習をするのも見るのもやめて、100%の向き合い方で例文Bをめざして、つまりパターンDの練習に取り組んでも、出来るかどうかです。
私は昔、エレクトーンとピアノを習っていたのですが、エレクトーンの方が習うのが早かった。
すると、ピアノの先生に「エレクトーンを先に習っていたのなら、弾き方にもうクセがついてしまっているので、プロのピアニストはあきらめて下さい。」と言われました。
幸い、私にはプロのピアニストを目指す気持ちは全くなかったので、「ふーん、そういうものなのか・・・。」と思っただけで済みましたが、同じようにエレクトーンを先に習っていて後からピアノを本気で習った人は、音大を受験する時に本当に苦労して矯正して練習を重ねていましたが、そのせいかどうかはわかりませんが、残念ながら夢はかないませんでした。
私が大人にもきちんとしたバレエを教えたいと、こだわり続けているのは、そういう経験も、多少関係あるのかもしれません。
いずれにしろ、バレエで掛け持ちした場合、せっかくパターンDの教育プログラムで教えてくれる教室で習っていても、先生も本人も本気だとしても、パターンA~Cのなんちゃってバレエの教室と掛け持ちしていては、台無しになってしまうことがある、ということです。
ではなぜ、サクラバレエは(特別クラス以外)掛け持ちOKなのか?
ひとつめには、サクラバレエは、生徒が自分のことを自分で選べる、ということをとても大切にしています。
掛け持ちダメー!と先生に言われているから掛け持ちをしないのではなく、
掛け持ちをするメリットはこれで、デメリットはこれだよ。それでどうするかはあなたの自由だよ、と言われて、本人が自分の未来を納得して自分で選んでいくということに意味がある、と考えています。
自分の選択は自分の未来に直結しています。
自分で決めたのなら、誰かのせいにせずに、自分の人生として受け入れることが出来るでしょう。
それから、ふたつめには、サクラバレエでバレエを習いはじめて、サクラバレエしか知らない人が、ふと
「・・・もしかしたら、もっと私を上手にしてくれるバレエ教室が、他にあるかもしれない。」
そう思った時に、他のバレエ教室に入会してみたり(体験だけじゃわからないことも多いでしょうし)、他のバレエの先生に習って見たり、講習会を受けてみたりしやすいようにしておいてあげるため、です。
掛け持ち禁止にしていたら、こっそり他の先生のレッスンを受けるのは、何だか後ろめたいでしょう?
だけど、私にしか、サクラバレエでしかバレエを習ったことがない人が、ふとそういう風に思うことは、ごく自然なことだと思うのです。
だから、そうなった時に
「よし、ちょっと掛け持ちしてみよう。」と、そう思って、なんなら、先生やレッスン生にもそのことを伝えて、堂々とお試し出来るように、です。
初恋の人と付き合って、結婚して幸せで、でもある時ふと(本当にこの人で良いのかなぁ?)って迷いが出てきたのなら、どうぞ浮気してもらってOKですよってことです。
それで、運命の人と出会ったのなら、その人のところに行けば良いし、もしかしたら、逆にやっぱり今の旦那が良いと思うかもしれない。当たり前だと思っていたことが、実は当たり前ではなかったことに気がつくかもしれない。
いずれにしろ、スッキリするはずなんです。
そのための、掛け持ちOKです。
だから、誤解されないように言っておきますが、私はバレエが上手になりたい人には、掛け持ちはお薦めしません。
二股をかけ続ける人が幸せになれるとは思えないですから。
けれど、どうするのかはその人の自由です。
また、バレエ歴が10年以上あり、一人の先生に基礎からキッチリと教えて頂いて、もう卒業ですよと言ってもらえた人が、カルチャーやフィットネスなどの掛け持ちOKの場所で自己責任で掛け持ちするのは、何も問題ないと思います。
そこから画期的にバレエが上手くなるのはむずかしいとは思いますが、選んだのは自分です。
大切なのは、自分が納得してバレエのレッスンを受けるということなんだと思います。
◇
バレエは一人前になるまでに10年かかりますから、迷ったり、悩んだりするのは当たり前です。
それでも、自分と先生を信じながら、ひたむきに続けていくということが大切なのだと思います。
・・・バレエと人生は、よく似ている。
そんな風に、この長文を何とか上手くまとめようとする桜なのでした。
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