アガサ・クリスティ「春にして君を離れ」
優しい夫、よき子供に囲まれ、女は理想の家庭を築き上げたことに満ち足りていた。
娘の病気見舞いを終えてバグダッドからイギリスへ帰る途中で出会った友人の会話から、それまでの親子関係、夫婦の愛情に疑問を抱きはじめる・・・女の愛の迷いを冷たく見据え、繊細かつ流暢に描いたロマンチック・サスペンス。
このお話も、「ポケットにライ麦を」「茶色の服の男」と同じく、
原田ひ香さんの「古本食堂」の中で、
美希喜が好きなクリスティ作品として
挙げていたものです。
美希喜も言っていますが、
このお話には「殺人」どころか「事件」が何も起こりません。
ただ、汽車が荒天によって不通となり
砂漠の宿泊舎に何日も足止めとなった主人公が、
今までの人生について初めてじっくり考えてみることによって
ある「真実」に気付く、というストーリーです。
(ロマンチック・サスペンス、でもないと思います)
わたしがこれまで誰についても真相を知らずにすごしてきたのは、こうあってほしいと思うようなことを信じて、真実に直面する苦しみを避ける方が、ずっと楽だったからだ。
「茶色の服の男」は私にとって今一つで
読み終わるのに時間を要しましたが、
このお話はとても面白くて、ほぼ1日で読み終わりました。
クリスティはこのお話の構想を長年練っていて、
1944年の発表時にはわずか3日で書き上げ、ほぼ手直しなかったそうです。
時代は古いですが、
内容は今でも十分通用する内容だと思います。
自分の正義の中で行動する主人公、
そのまわりの人々(夫、娘二人と息子、使用人)
見方を変えるとその人生は決して幸せなものではなく
様々な人達を苦しめていて、自分は孤独だったのではないか、、、
私は娘として、妻として、そして今は母親としての立場から
この主人公はひどいと思いましたが、
あとがきを読むと、男性目線では(栗原薫さんの夫)、
夫が嫌いらしいです。
確かにまわり、特に愛情があるならば夫が
真正面からぶつかっていれば…とも思いますが
「言っても仕方ないだろう」
とあきらめてしまうような人なんですよね、主人公が。
もう一度言いますが、
家族の関係性や毒親、不倫など
現代にも十分通用する内容だと思いました。
題名もいいですね。