美女と獣 | 瑞目叶夢の小説【台本】置き場

瑞目叶夢の小説【台本】置き場

エブリスタで掲載中の小説の中でもSpoonで声劇や朗読台本として使っていただいても問題ないものを置いています
小説として読むだけでも良いですし
使っていただいてもいいです、使っていただく場合は、聞きたいので教えていただけると助かります

ある小さな村に燃えるような赤毛で白雪のような肌、蜂蜜色の目とピンクローズのような悩ましい唇を持った愛らしく美しい少女が居りました。


少女は心優しく誰にでも愛されていて。

村中の人が少女を愛しているのです。


ある日、少女は大きな猫を拾ってきました。それは大変に大きな黒猫で、とても傷ついておりましたので、可哀想だと手当をしてやりました。

その後というと少女は甚くその黒猫を気に入っておりますので、飼うことになったのですが、どうも肉食がすぎると思っておりましたら、それは猫などではなく黒豹の子供だったのでした。

それを恐ろしいと森に帰すべきかと思いましても少女は大変にその黒豹に愛を捧げておりまして、黒豹もその愛に答えておりまして、引き離すのも可哀想だと思い、凶暴な事も無いし、餌を食べるだけの大人しい黒豹ならば、大きな猫と思えば良かろうと、引き離すことをしなかったのですが


それが間違いだったのでしょう、

それに気づきますはまだ先なのですが、この黒豹というのが、まぁ野獣らしからぬ獣でして、少女とじゃれ合って遊ぶのはもちろんのこと、少女の花遊びにも大人しく付き合いますのでその美しい黒い毛に沢山の花を飾られましても嬉しそうに少女を見ているのです。

そんな1人と1匹ですので両親も微笑ましくその光景を見ておりますし、村人もその黒豹を愛しました。その姿は画家やら作家やらと言う芸術家などと言う方々にはとても人気で、その少女と黒豹をモデルにする人々も現れるほどで、少女と黒豹は村の名物になっておりました。


そして美しい少女は眩いばかりの光を宿した美しい女性に育ちました。

立派な女性に育ちましても黒豹を可愛がるのは変わらず、美しい黒豹と美しい女性が歩く様はそれはそれは絵になるので。

さらに芸術家肌な者たちが集まりますので、絵かきや詩人のよく来る小さな町になっております。


美女は裁縫を得意としておりましたから、それは素晴らしい服を作ったり破れを新品のように綺麗に繕ったりと本当に腕の良い裁縫師になって居たのですがその美しさと傍らの黒豹とにモデルを頼む絵師はが居りますので、そちらの方でも生計を立てておりました。


色が目立つ花畑で寝そべる黒豹に寄り添う美女、黒に燃える様な赤の髪が流れてて白雪のような肌が花達よりも輝き、蜂蜜色の目がこちらを見透かすように見ているその光景に絵師はしばし見惚れて、詩人は思わず言葉を零しております。

まるで自分達は天使と天使の使いの獣に迎えに来られて今から天に連れて行かれるようなそんな気持ちにさせるのです。


「絵師様?絵は書きませんの?」


美女の言葉に、見惚れていた絵師は慌てて居住まいをただし「今書きますよ」と言って木炭を手に取る。

けれど画家は描いた後に美女と獣を見るとその天に登るような美しさをかけた気がしないのだ。

詩人も詩人でまだ美女と獣を歌うには言葉が足りない気がしてならない。

絵師はなんとかかけた絵を美女に見せれば美女と獣は美しく笑うだけだった。だがその美しい幸せそうな笑顔がどんなポーズをとってもらうよりも美しく感じて、こうして美女と獣の魅力に捕まった芸術家達が生まれていくのだった。


黒豹は何時も美女のそばに居るまるで何かから守るようにどんな時もの裁縫をしている時も遊ぶでもなく美女の隣で寝ているし、お使いには一緒について行って買い物かごを口に加える、そんな二人のお気に入りは森の中の草原で、美女は草原では小さな子どものように、黒豹とじゃれ合って遊ぶ、そのじゃれ合いも絵になるというもので、見た者はここは天国かと感ん違いするほどだ、この世の者でないほど美しい美女と黒豹は片時も離れることはない



そんな名物になるほどに何時もどんな時も一人と1匹で歩く、それを許したことがいけなかったのだろうか、いや、初めに可哀想だと黒豹を野生に帰さなかったからこうなったのだ。


ある雪の降る日に美女の父が寒いと言うのに何時までも黒豹も娘も帰ってこないと、村人と森に探しに出ましたら、なんと!1人と1匹は睦み合っていたのです!


その異常な愛が許されるわけもなく、村人と父は当然にその異常な愛を引き離そうとしましたけれど、1人と1匹はその場をどうにか逃げ延びたのです


その風変わりな恋人達は走って、走って、一心不乱に自分達を引き離そうと追ってくる鬼達から逃げおおせたのですが、その時には深い深い森の奥、もちろん村には帰ることもできないのですがとなり村に行くこともできぬし雪の降るこの季節、外では寒さをしのげませんし、このまま人里に降りましたら美女と黒豹は引き離されてしまうでしょう、いえ、引き離されるだけならばまだ良いでしょう、悪しき野獣だと黒豹が殺される事も考えられます。


そんな事は到底耐えることはできません、この愛しい存在が、世界に存在しないのだと、そう思うだけで耐えられません、ならばこの寒さです、このまま死んでしまえばいい、

このまま寒さで死んでも黒豹は温かいし冬を越える事のできる動物です、きっと腹が空けば自分を食べてくれて身体の一部にしてくれるかも知れません、そう思いますと、それは、なんと素晴らしいアイディアかと嬉しくなります。


そうなってくれたならどんなに嬉しいか!だってもう離れることはなくなるのですから!


美女は黒豹に言います


「ねぇ貴方、私はこのままなら寒さで死ぬでしょう、そうなれば貴方はお腹が空いてきますでしょうから、ならばそんな時は私を食べてくださいな、骨まで食べろとは申しません、どうぞ私の血肉を貴方の一部にしてください、貴方が死ぬまで、あなたの側に居たいのです」


暖を取る様に黒豹に擦り寄り、動物にその様な繊細な気持ちが伝わるものかと普通の人は笑うかもしれません、美女にも伝わってるかわかるはずないのですが、長く、永く共に居りましたので、必ずこの心の内は愛しい獣の心の奥底まで思いが届いておりましょうと思うのです、

シンシンと雪降る中で美女は最後の呼吸が止まるまで、愛おしい自分の獣に擦り寄って愛を感じながらその身体を冷たくしたのでした。


冷たくなって眠るようにする娘、それを獣は優しく舐めます、まるで愛おしい者にするように優しくその身体を包み込みました。


いくらその体が毛に包まれようと、人間よりも寒さに強かろうと、食べねばその命を保つ事はできません、ですのに黒豹は一時もその愛しい肉塊から離れようともしませんし、もう獣にしたらただの肉塊でしか無いでしょうに、まるで氷ったその美しい存在を愛でるように舐めるだけで、傷付ける事すら恐れるようにしているのです。


別に冬ごもりの為にたくさん食べたわけでもなく、新しく獲物を探すでも無いので、

当たり前のように黒豹は弱っていきます。

どんどん弱っても生き長らえようともせず、ただ、ただ愛しい美しい肉塊を愛でながらその命の灯火を消すのでした。


そして美しい黒豹と、美女はその美しさを雪の下に隠していくのでありました。