私の働くホテルは一流だ。その誇りがある。
人々が快適に暮らし、お金持ちには安らぎを、一般の方には一時の夢を、このホテルに来たらまた来たくなる。そんなホテル、そこで私は支配人をしている。私の自慢だ。
けれど今、ホテルにふさわしくない人達が来ている。
黒い喪服で辛気臭く、手には骨壷を持った老夫婦、キラキラしたこのホテルには似つかわしくないくらい、影のようなお客様。
「ご予約はございますか?」
「酒下です」
「酒下様ですね。5005号室でございます。こちらが鍵でございます。どうぞごゆっくりお過ごしくださいませ」
夫婦は会釈をしてエレベーターに乗った。
「先輩なんですか?あの夫婦」
後輩の女子が顔をしかめて言う。
「たまにあるのよ遠方で死んだ家族を迎えに行って、帰る前に一緒にホテルに泊まるの、死んでから良いところに泊まらせてあげるなんて、意味ないのにね」
「本当ですねぇ、辛気臭くていやですね」
コソコソと客の文句を言っていたら次の客、
「まぁ!神田様!いつもご利用ありがとうございます。今回も良い部屋をご用意しております。」
お客様には気持ちよく過ごしていただくために最大限気を使わなければ。
翌日、清掃員が昨日の夫婦の持っていた骨壷を持って来た。
「忘れ物みたいです」
「えー、やだわぁ、縁起悪い」
「でも、様子がおかしかったんですよね」
「え?いつもみたいに机に祭壇作ってたの?」
ごくたまに、簡易的な祭壇を作って、机に置いといて忘れる客もいるのだ。
「祭壇っていうか、御札が至るところにあって、それが全部赤黒かったんですよ、剥いでも問題ないか判断つかなくて」
清掃員は顔を青くして言っている。
「わかりました、私が部屋を見ましょう」
私は5005号室に向かった。
至るところに手書きの札が貼られている、なんて気持ち悪い、私はそれを全部びりびりと剥いでいく。一つ破くたびに指先が痺れるような気がする。………気のせいだろう。
最後の札を剥いだ時だ。
「どうして助けてくれなかったんだ」
男の声に振り返るが誰もいない………
私は気を取り直して、部屋を出た。
そして、清掃員さんにクリーニングを頼んで、骨壷は貴重品金庫に保管した。
その夜、お客様の部屋から電話が鳴る。
「はい、フロントです」
がざざ、がざ、と歪な音がなっている。
『どぉ………して、たす……けて……』
「どうされました?ご病気ですか?」
『おま……えの……せい……だぁ!!!!!!!』
あまりに大きな声に受話器から耳を外した。
電話は、ツーツーと切れていた。
部屋は5005号室だった。今日は空き部屋のはずだ。
私は体調の悪い人が迷い込んだのかと思い、マスターキーを持って部屋に急いだ。
けど誰もいない
「失礼します、誰かいらっしゃいますか?」
中に入り一通り部屋を見たが何もない。
「いたずらかしら」
バタン。一人でに扉がしまった。
「え?誰かが閉めたのかしら」
そんなことを言う私の後ろで、ぬらぁと影が揺れている事に、私は気が付かない。
「俺は」
男の声に振り返ると、
首に食い込むほど強く締められたネクタイを巻いた、顔色の悪い男がいる。