豊竹咲寿太夫
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竹の間の段
▲令和6年初春公演チラシより
奥州五十四郡の領主である伊達義綱は、お家乗っ取りを目論む者たちの企みによって、蟄居となっています。
義綱の家督を継いだのはまだ幼い鶴喜代でした。
御殿、竹の間へ信夫庄司の妻の沖の井と、渡会銀兵衛の妻の八汐が噂話をしながらやってきました。
鶴喜代の体調が良くなく、近頃は食事も摂らないというのです。
さらには男性を側に寄せたがらず、御前では乳母の政岡が側を離れることなく世話をしているとのことでした。
どのような病気かということもはっきりとせず、どうなっているのだろうかと様子を見ることも兼ねて、それぞれお見舞いにやってきたのです。
やがて、鶴喜代の乳母の政岡、政岡の子で御伽の千松を伴って入ってきました。
沖の井と八汐は頭を下げ、手をつきました。
沖の井は、鶴喜代の身体を案じて食事を差し上げるため御膳を用意していました。
腰元に命じて、御膳を並べさせました。
鶴喜代は顔を輝かせて嬉しそうに、もう食事をしても大丈夫なのかと口にし、政岡を見ました。
しかし、政岡の顔を見た鶴喜代は「欲しくない」と言いました。
これは何か事情があるな、と沖の井は察し、そのまま控えていました。
八汐が進み出て、自分は医術の心得がある者を連れてきた、と小巻という女性を通させました。
小巻は鶴喜代の脈をとります。
すると小巻は、名医でも治せないほど予断を許さない容体です、と答えました。
鶴喜代はひと目見る限りでは、血色もよく、そのような状態には見えません。
小巻は今いる所から少し場所を移して、もう一度診断をすることにしました。
するとどうでしょう、居間で診た時とは違い、今は健康そのものだと言い、居間の天井を見上げました。
不審だ、と八汐は掛けてあった長刀を取ると、居間の天井に突っ込み、こじ開けました。
天井からは黒ずくめの曲者が落ちてきました。
曲者を縛り上げると、「鶴喜代を殺すよう依頼された」と自供しました。
依頼主は誰か、と詰問すると、曲者は「乳母の政岡に頼まれた」と言いました。
政岡はまさかそんなことをする筈がありません。
誰かに陥れられたのです。
八汐は政岡と曲者の間を隔てると、証拠の文があると政岡に突き付けました。
それは鶴喜代を呪う文言で、鶴ケ岡の松の根に埋めてあったというのです。
全く覚えのない事ですが、政岡には無実の証拠がありません。
八汐が政岡を引っ立てて、罪人として連れていこうとしたところを、鶴喜代が扇を振り上げて八汐の手を打ちました。
政岡に「どこへも行くな」と鶴喜代は言いました。
さらに、様子を見ていた沖の井が進み出てて、政岡に罪はないと言いました。
小巻が居間の天井を見ると、即座に八汐が天井を突き、板一枚ほどの狭い隙間からわざわざ曲者が落ちてきた事が、あまりに都合が良すぎて納得できないと言うのです。
八汐は、文が証拠だと言い張ります。
その文にはしっかりと政岡の名前が記されているのです。
沖の井は、その名前こそが怪しいと言いました。
そのような企みをする者がわざわざ丁寧に自分の名前を書くだろうか、と。
八汐は答えることができず「これ以上は水掛け論」と言うと、沖の井と共に曲者を引き連れて竹の間を後にしたのでした。
とよたけ・さきじゅだゆう:人形浄瑠璃文楽
太夫
国立文楽劇場・国立劇場での隔月2週間から3週間の文楽
公演に主に出演。
その他、公演・イラスト(書籍掲載)・筆文字(書籍タイトルなど)・雑誌ゲスト・エッセイ連載など
オリジナルLINEスタンプ販売中
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