10分でわかる妹背山婦女庭訓
02
小松原の段
春日の社頭に近い小松原に、大判事清澄の子息の久我之助清舟が床几に腰掛けて休んでいました。
そこへ春日神社の方から、腰元たちを引き連れた武家の娘が歩いてきました。彼女の名前は雛鳥といいました。
ふっと二人の目が合いました。
恋に落ちるのに理屈はありません。
二人の心の機微を感じ取った腰元たちはさっと久我之助のそばへ寄って話しかけ、雛鳥と久我之助の間に会話が生まれるよう自然に促しました。
その様子を偶然通りかかった先程の帰り道の宮越玄蕃が目撃してしまいました。
宮越玄蕃は身を隠して事の成り行きを窺うことにしました。
そうとは知らない二人。
雛鳥は久我之助が狩りで使うという吹き矢筒を手にすると、彼の耳に筒をあて、恋に落ちた自分の心情を囁きました。
久我之助も雛鳥に惹かれ、二人は腰元にうながされるように、口付けを交わしました。
驚いたのは宮越玄蕃。
ばたばたと音をたてながら騒がしく出てくると、久我之助に雛鳥は太宰の娘であることを言いました。
太宰の家と久我之助の父大判事清澄の家とは敵対する関係にあります。
素性を知った二人は驚きを隠せず、この恋が叶わないことを嘆きました。
宮越玄蕃は今の二人の出来事を口外しない代わりに、自分が執心している雛鳥を嫁にしたいと迫りました。
雛鳥の腰元が間を取り持つと進みでました。
そうして宮越玄蕃に、久我之助の吹き矢筒を「囁き竹」だと言って渡し、これで雛鳥が返事を囁くと言いました。
宮越玄蕃はほくほくと吹き矢筒を耳にあてました。
腰元は吹き矢を投入し勢いよく吹きました。
宮越玄蕃の耳に吹き矢が刺さりました。
宮越玄蕃が狼狽えているその隙に、腰元は雛鳥を引き連れて、その場を逃げて行きました。
耳から吹き矢を抜き取ると、宮越玄蕃は後を追いかけようとしましたが、久我之助に止められました。
そこへ侍たちが久我之助を探して走ってやってきました。
聞くと、鎌足の娘の采女の局が御殿から姿をくらませたというのです。
久我之助は采女の介添役でした。
それを聞いた宮越玄蕃、これは主人蘇我蝦夷子に知らせなければならない、と侍たちを引き連れてその場を去っていきました。
そのあとに残った久我之助は、一体どういうことだ、と考え込みました。
そこへ采女の局が現れました。
久我之助はなぜ御殿を抜け出たのか尋ねました。
采女が言うには、蘇我蝦夷子は自分の娘の橘姫を后にしようと画策していて、采女の局を妬み、鎌足を宮中から追いやってしまったことに、自分がいれば帝の身の害になってしまうと考えたということでした。
彼女は涙ながらに、このまま身を隠して姿を変えるから見逃してほしいと頼みました。
久我之助は采女の気持ちを汲み取り、後の難儀は全て引き受け、采女自身と天皇のためにこの場を逃すことを決意しました。
二人は涙にしぐれ、久我之助は采女に蓑笠を被せると、村の出口を目指して歩いて行ったのでした。
03
蝦夷子館の段に続く


とよたけ・さきじゅだゆう:人形浄瑠璃文楽
太夫
国立文楽劇場・国立劇場での隔月2週間から3週間の文楽
公演に主に出演。
その他、公演・イラスト(書籍掲載)・筆文字(書籍タイトルなど)・雑誌ゲスト・エッセイ連載など
オリジナルLINEスタンプ販売中

豊竹咲寿太夫
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