さきじゅびより【文楽の太夫(声優)が文楽や歌舞伎、上方の事を解説します】by 豊竹咲寿太夫




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 松兵衛山の松茸







今月の私の出番では、松兵衛という手代が女中に対して下ネタばっかり言って擦り寄ります🍄‍🟫


今の職場やったら、セクハラ一発アウトでクビ。

女中たちは女中たちで、どの男の人が好みだとかあの人になら身体を許せるとか言っていて、まあなんというか人間ってのは何百年たったところで、人間なんだなぁと思うわけです。


△妹背山婦女庭訓でも下ネタがちょくちょく挟まる

松兵衛が女中たちの前に現れる前に、女中たちは顔を付き合わせて、自分たちが働いている宿屋に泊まっているイケメン侍に惚れたという話をしています。

『これが本の鮑の貝の片想い』

と言っているところへ、松兵衛がやってくるのです。



『松兵衛山の松茸とその片想いの鮑とを焚き出しにしてくれるなら、何もかも沙汰なしにすます、どうじゃどうじゃ』



なんてセリフを(意味は解説しませんえっちなので)松兵衛は女中に飛ばします。


つまり、上司の悪口を言っていたのを黙っておいてやるから一晩ええやろ、と言うやつです。



ええわけあるかーい🍄‍🟫



そんなこの場面は「松兵衛山」という通称が付いています🍄‍🟫




松兵衛の松に合わせて、今月の見台は松の蒔絵が見台を覆っているものにしました。



そう、見台は自分の私有物なので、演目に合わせて自分が所持しているものを持ってくるのです。



こんなどっしりとした松の蒔絵の見台で、松の松茸の下ネタを連発している今芝居は8/12まで!!






文楽の女中たちはけっこうな頻度で下ネタを言います。




来てね。








豊竹とよたけ咲寿太夫さきじゅだゆう


人形浄瑠璃文楽ぶんらく
太夫たゆう
国立文楽劇場・国立劇場での隔月2週間から3週間の文楽公演に主に出演。
モデルとしてブランドKUDENのグローバルアンバサダーをつとめる。

その他、公演・イラスト(書籍掲載)・筆文字(書籍タイトルなど)・雑誌ゲスト・エッセイ連載など
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 初日




本日より、大阪の文楽劇場での長期公演がはじまりました!


今年の夏休み公演は少し期間が長くて、本日7/20より8/12まで上演しています。







文楽劇場の隣にあるカフェ「バリスタマップ」で織太夫兄さんとコーヒータイム。

初日と千秋楽はスーツで楽屋入りするようにしています。

*ホストではありません。ドンペリ入りません。




今回の公演は1日3回公演で、私の出番は第2部「生写朝顔話」の笑い薬の段です。

師匠が得意としていた場面で、冒頭部を私、後半の場面を織太夫兄さんという一門二人でつとめさせていただいております。









また、第1部はお子さまに分かりやすい演目がそろっております。

夏休みの自由研究や絵日記にも最適(自分の経験談)。


第3部は近松門左衛門の「女殺油地獄」

こちらはもう言わずと知れた名作。

今回はキャストが一新されていて、今までのイメージとはまた角度の違った油地獄をお楽しみいただけるかと思います。


ぜひ起こしください。








そして、11月の大阪公演の演目も発表されました!



11月文楽公演



第1部  午前11時開演


仮名手本忠臣蔵

大 序 鶴が岡兜改めの段・恋歌の段
二段目 桃井館力弥使者の段・ 本蔵松切の段 
三段目 下馬先進物の段・腰元おかる文使いの段・殿中刃傷の段・裏門の段
四段目 花籠の段・塩谷判官切腹の段・
    城明渡しの段




第2部  午後4時開演


靱猿


仮名手本忠臣蔵

五段目 山崎街道出合いの段・二つ玉の段
六段目 身売りの段・早野勘平腹切の段
七段目 祇園一力茶屋の段





忠臣蔵の半通しと靱猿です。


冬といえば忠臣蔵。


テレビなどでもあまり取り上げられなくなった、日本人のルーツのような感覚さえある歴史的な赤穂浪士の事件のお芝居です。

冬になれば忠臣蔵の話題をもっと取り上げてほしいな。。



11月が七段目までなら、もしかしてお正月は・・・??




楽しみがいっぱいです。


このブログを読んでくださっている皆様にお願いです。

文楽は口コミが非常に大切です。

このブログや各種SNS、私だけではなく、近年では数おおくの文楽の演者がそれぞれ発信しています。

それをシェアする形でぜひとも広めてほしいのです。


Googleなどの検索エンジンのビックデータに、文楽の記事を書けばヒットする!と覚えこませることが目標です。


文楽を知らない人たちの目に留まるように、皆様の口コミが頼りです。




未来にまでつながるよう、皆様どうかよろしくお願いいたします。




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 女殺油地獄



近松門左衛門といえば純愛というイメージを持つ方も多いのではないでしょうか。


今日ご紹介する「女殺油地獄」はそんなイメージを覆すサスペンス!




平成26年夏休み公演チラシより








 徳庵堤の段



大阪に住む与兵衛23歳になりますが、親の脛をかじって放蕩三昧。


野崎観音への参詣人に見せびらかしたいと、新地や新町のお茶屋の遊女に声を掛けていたのですが断られていました。


その遊女のひとり小菊が、与兵衛を断っておいて田舎客と連れ立って川御座船で野崎へ来ていると噂を聞きつけ、友達を連れて乗り込みにきたのでした。







与兵衛の近所に住む油屋のお吉は娘と野崎参りに来ていました。


お吉は27歳で、与兵衛に言わせると『色気はあるけれど世帯染みて堅物な、まるで見かけばかりの飴細工のようだ』という人です。





偶然、お吉と与兵衛は出くわしました。

お吉は男友達を連れている与兵衛を見て、実家の店の繁盛願いで参りにきたのではないだろうし、何をしているのか尋ねました。


与兵衛は遊女小菊の件を話し、田舎客に負けては大阪人の恥だと息巻きました。



喧嘩好きのする男たちの話を聞いて、普段から与兵衛の親に相談を受けていたお吉は、こんな大勢の人がいる中で喧嘩をすれば親に迷惑がかかると柔らかく注意をしました。


あまり親が心配するようなことをしないでね、と言うとお吉は子どもを連れてお参りをしに先へ進んで行きました。







やがて小菊が例の田舎客と連れ立ってやってきました。


与兵衛たちは小菊の前に立ちはだかりました。


野崎は方向が悪いから誰とも行かないと言って断っておいて、好きな客となら野崎に来るのかと与兵衛は大きな声をあげました。


そんな与兵衛に、小菊と同行していた茶屋の女主人は、小菊という名前が一つ出たら与兵衛という名前が三つ話題に上るほど深い関係、連れ立たないのは与兵衛を思ってのこと、と宥めました。


小菊は与兵衛にひったりとくっつくと、心変わりなんてしないわと色っぽく囁きました。


与兵衛はころりと喜び顔になって、鼻の下をでれでれと伸ばしました。



堪らないのは同行していた田舎客のほうです。


お前ほど愛しい人はいないと言ったのは何だったのか、湯水のように金を使ってそれはない、と責めたてました。


「きたきた」とばかり与兵衛の友達たちは田舎客に喧嘩腰で寄っていきました。


田舎客もそれに乗っかり、上方の泥水より奥州の泥足喰らえと蹴り上げました。



友達をやられて与兵衛は黙っていられる男ではありません。


与兵衛が殴りかかり、田舎客は応戦しました。








そんなところへ、代参の侍がお供を引き連れて通りかかりました。


喧嘩に視野が狭まっている与兵衛はそれに気付きません。

侍に泥をかけてしまいました。


警護の武士が慌てて寄り、与兵衛の腕を引き掴みました。

この無礼者、打ち殺してくれる、と身柄を押さえると、与兵衛はわざとではありませんと喚きました。


与兵衛がその武士を見上げると、彼は伯父の森右衛門でした。



与兵衛は町人ですが、森右衛門は武士。

主君に泥をかけた自分の甥を見逃すことはできません。

ここで首を討つと与兵衛を後ろ手に立たせました。


森右衛門の主君がその様子に声をかけました。

血を見てからの神仏へのお参りはよくないので早まるな、帰りまで待て、と言いました。


森右衛門は主君の言葉に与兵衛を離し、目で『帰りに覚悟をしておくように』と訴えて主君とともに野崎参りへ去っていったのでした。






やってしまった、首を討たれる、と与兵衛が狼狽えているところへ参詣を終えたお吉が戻ってきました。


与兵衛は涙目でお吉にすがり寄ると、事情を説明し、助けてくれと懇願しました。


お吉はこの場所で夫と落ち合う予定でしたが、ひとまず与兵衛に茶屋の内を借りて泥を落としなさいと、子どもを待たせて与兵衛を連れて茶屋へ入っていきました。






やがてお吉の夫の七左衛門が待ち合わせ場所にやってきました。


ぽつんと待つ子どもにお母さんはどこかと尋ねると、与兵衛と茶屋へ入って帯を取ると話していたと言いました。


七左衛門は帯を取ると聞いて、あらぬことをしていると勘違いをしてしまいます。


しかし、泥を落として濡れ鼠になり、まだそこここに泥が残っている与兵衛が茶屋から出てきたのを見て事情を察した七左衛門。


そのまま親子三人仲睦まじく、帰路につきました。


与兵衛はその後ろからしょんぼりと歩いて帰ったのでした。















 河内屋内の段



結局のところ、森右衛門の主君は事を荒立てることなく、与兵衛が斬られることはなかったのですが、その後責任を感じた森右衛門は職を辞して浪人となったのでした。


与兵衛がこれほど厄介な性格の人間になったのには事情がありました。


与兵衛には兄と妹がいます。兄は働いていて、妹は結婚が決まっています。

与兵衛と兄の太兵衛は父の徳兵衛と血が繋がっていません。

太兵衛が言うには、義理の父だからと与兵衛を甘やかしすぎたのだということでした。


太兵衛は今回の一件を聞き、与兵衛を勘当して厳しいところへ働きに行かせ、根性を叩き直そう、と徳兵衛に言いました。





森右衛門の一件を親が知っていないと思っている与兵衛は、森右衛門が主君の金に手をつけて切腹をしないといけなくなったので金を用意しろと迫りました。


もちろんその金を自分で使い込むつもりです。



真相を知っている徳兵衛は馬鹿らしくなり、取り合いませんでした。


与兵衛は、妹が結婚して婿を連れてきたらこの家を明け渡すつもりだな、と徳兵衛を足蹴にして踏みつけました。


妹がやめてと取りすがると、こんどは妹を蹴飛ばしました。

それを止めようと徳兵衛が割って入ったところを、与兵衛はさらに踏みつけて蹴飛ばし、顔も頭も見境なく暴力を振るいました。






そんな中へ母のお沢が帰ってきました。

母は慌てて与兵衛に掴みつき、髪の毛を掴んで引き倒しました。

母は目に涙を溜めながら、育ての親に暴力を振るうなんてこの恥知らず、人間の根性もってその行いができるものか、と与兵衛を叩きました。


ちょうどお沢も太兵衛から、先日の与兵衛の不祥事を聞いたところでした。

どこでも与兵衛のろくな噂を聞くことはありません。

お沢は身体の肉を一枚ずつ削がれるかのような思いでした。


そうしてお沢は徳兵衛に、与兵衛に勘当を言い渡すよう懇願しました。

お沢は出ていけと天秤棒を振り上げて与兵衛に迫りました。

与兵衛は天秤棒を引ったくり、母を叩きました


徳兵衛もこれにはもう堪えられませんでした。


徳兵衛は育ての親ですが、お沢は産みの親。

今まで与兵衛に手をあげなかった徳兵衛ですが、与兵衛の天秤棒をもぎ取ると、与兵衛をめった打ちにしました。


妹に婿を取らせるというのも実は嘘で、妹に家を継がせると言えば、与兵衛も今度こそ悔しく思って性根を入れ替えるかもしれない、と家族総出でのひと芝居だったのです。


この根性がこれからも続くようであれば、いずれ処刑台行きになるようなことをしでかすかもしれません。


徳兵衛は心を決めました


与兵衛に出ていけと言い放ったのです。

口で言うだけで聞く男でもありません。


お沢は徳兵衛が持っていた天秤棒を受け取ると、与兵衛に突き立てました。

出ていけ、と与兵衛を力づくで押し出します。



とうとう与兵衛も諦めて敷居を越えると、そのまま振り向くこともせず出て行きました。




年々亡くなった実の父に背格好が似てくる与兵衛の後ろ姿を徳兵衛は見ながら、憎いとは思いながらも目に溢れる涙を抑えられませんでした。





下に続く












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 生写朝顔話しょううつしあさがおばなし



イラストby咲寿太夫









笑い薬の段




東海道の宿場町、現在の静岡県中部の大井川の渡し場から発達した島田宿。

戎屋では下女たちが休憩がてら噂話に油を売っていました。


今泊まっている侍のうち岩代という男はとても悪そうな顔つきだけれど、もう一人の侍の駒沢はとても良い男で、女中の一人は給仕に行くたび自分の鮑が疼いて仕方がないと言いました。




そんな女中たちの話を耳にした手代の松兵衛がやってきました。

松兵衛は、そんな遠回りな据え膳よりも自分がいるじゃないか、と寄りました。

女中が拒むと、松兵衛は先ほどから話していることを旦那の徳右衛門に告げ口するぞと言い、自分の松茸があるじゃないかといやらしく詰め寄りました。




女中たちと松兵衛が騒いでいると、勝手口から徳右衛門とくえもんが呆れ顔でやってきました。

従業員たちに注意をすると、朝顔がやってきたら知らせるように指示をし、松兵衛を連れて次の用事に向かいました。


奥の間から萩の祐仙ゆうせんが出てきて、岩代いわしろに中継ぎをしてほしいと女中に頼みました。


女中が岩代に話を通すためその場を去り、やがて岩代が現れました。

佑仙は玄蕃げんばからの状を差し出しました。

岩代は、何かにつけて邪魔な駒沢こまざわをどうにかする方法はないか、と佑仙に話を振りました。

祐仙は自分が調合した痺れ薬を取り出しました。


この薬を盛れば、一晩は死人同然に動かなくなるのです。


駒沢が素直に飲むとは考えづらい、と岩代が言うと、祐仙はさらに解毒薬を取り出して、これを服用してから痺れ薬の入った茶を先に飲めば、駒沢も警戒しないと提案しました。


素晴らしい案に岩代も満足すると、成功すれば報酬を渡すことを約束し、一旦その場を離れて行きました。











まず差し当たっての褒美と岩代から十両の大金を手渡された祐仙は一人ほくそ笑みました。

あたりを見回して人の気配がないことを確認した祐仙は痺れ薬を取り出すと、後で茶を沸かす時に用いる湯の中へ振り入れました。

そして祐仙は素知らぬ顔でその場を離れていったのでした。




誰にも見られていないと思っていた祐仙、実はその行動は徳右衛門に全て目撃されていました。

駒沢へ申し上げるのは当たり障りがあっていけない、と思った徳右衛門は湯を捨てて新しく入れ替え、そういえば昨日浜松で手に入れた「笑い薬」が手元にある、とその湯に笑い薬を忍ばせたのでした。




夕暮れ、家来を引き連れて戻った駒沢に、待ち構えていた岩代が歩み寄りました。

岩代は茶を一服付き合わないかと誘いました。


ほとんど押し付けるように誘う岩代の元へ、偶然を装った祐仙が茶箱を手に現れました。

これはいい所へ、と白々しく岩代は祐仙を迎え、駒沢のために茶を点ててくれないかと言いました。

しめしあわせた通り、早速祐仙は仰々しく茶を点てて、駒沢へ差し出しました。


そこへ徳右衛門が割って入りました。

殿様のご家来である駒沢に毒味をしていないようなものを差し上げ、何かあれば自分の落ち度になるから、滅多なことはなさらないようと言いました。


祐仙は、それなら自分が毒味をしよう、その代わり何も問題がなければ只では済まさないぞ、と言いました。


そして解毒薬をこっそりと飲み、何食わぬ顔で茶を飲み干しました。


解毒薬で何も問題がないと、笑い薬にすり替えられているとは露も知らない祐仙は、大きな顔をして徳右衛門に対して手討ちにすると詰め寄りました。

徳右衛門は平伏し、謝罪を口にしました。


約束だ、手討ちにする、とさらに詰め寄ろうとしたところ、祐仙は突然笑い出しました。


イラストby咲寿太夫

顔彩




何もおもしろおかしいことはないのに、笑いが止まりません。

岩代は、笑っていないで早く茶を駒沢へ差し上げるよう言いました。


はい、はい、と返事はするものの、笑いが止まらないどころか、どんどん過剰になっていきます。

何度も笑いを止めようと、腰を据えて体勢を整えようとするのですが、まるで無駄でした。

腹の底から湧き出るように笑いが止まりません。

仕舞いには、自分が医者だというのに、徳右衛門にこのあたりの医者を呼んでくれという始末です。


岩代は短気をおこし、笑い止まなければ手段は選ばないぞ、と力みかかりました。

それでも、笑い薬の効果は抜群で、祐仙の笑いは止め処を知りません。


息を弾ませて転げ回り、謝りながらもどうしようもなくなった祐仙は逃げるようにしてその場を離れていったのでした。




まさかの事態になった岩代は呆れ果てて仏頂面になってしまいました。

状況を考えると、徳右衛門が邪魔をしたに違いないと思いあたりながらも、まさか自分たちの用意した毒薬をどうしたと言えるわけもありません。

むしゃくしゃして当たり散らしながら、風呂に入ると廊下へ出ていきました。




駒沢も自分の部屋へと座を立っていきました。












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マイケル・マン監督、アダム・ドライバー、ペネロペ・クルスによる濃密な時間をフェラーリが駆け抜けるような一瞬の体感時間で駆け抜ける映画でした。





フェラーリの映画といえば、2019年のマット・デイモンとクリスチャン・ベールの「フォードVSフェラーリ」があります。

「フォードVSフェラーリ」は1966年のル・マン24時間耐久レースを取り扱っていましたが、今回の「フェラーリ」はそれより前の1957年のミッレリアのレースを主軸としています。





フェラーリのあの流線的でクールなレース車のハリウッド的なカーレース対決ものかというと、この映画はそのように単純なものではありません。




フェラーリ創業者、アダム・ドライバー演じるエンツォ・フェラーリ、この映画が取り扱うのは彼が59歳のたった数ヶ月。

レース映画でもなければその生涯を描いた伝記映画というわけでもありません。



この映画の舞台である1957年の前年、彼は息子を難病で24歳という若さで失っています。

息子を亡くした喪失をペネロペ・クルス演じるラウラ・フェラーリと分け合っているかというと、またそう単純な描き方はされていません。


二人の関係は冷え切っていて、会社の共同経営者という関係の上で成り立っているといった空気です。




映画は、フェラーリが愛する人の隣で目を覚ますシーンから始まります。

このカットは暖色に溢れていて、フェラーリが隣で眠る愛する人にキスをし、夢の中にいる息子を起こさないように車のエンジンを響かせないよう家を出ていく、非常に愛情深い始まり方です。


この女性と子供というのは、フェラーリと愛人関係となっていたリナという女性と婚外子であるピエロという男の子でした。



映画の開始10分でさらにフェラーリの会社の経営が危ういことや、肝心のレースのタイムも競合する他社に破られることが多くなっていることが描かれます。


この映画がどういう方向性の映画で、人物関係がどのようであるか、どういうテイストの映画であるかがこの冒頭で全て描かれます。

テクニックに一切の無駄がなく、美しいカメラワークの描写と過多にならないセリフの情報で観客に提示されます。



同時にこの時点で、この映画にはハリウッド的な勧善懲悪もなければ、バトルテイストでもなければ、CGを多用するものでもないことが分かります。



登場人物の全てに光と闇が混在し、それらを分けることはありません。

少し先は全て闇。

光をつかめば、そこにあるのは光だけではなくて必ず闇もある。


やがて、彼らの歩む先と、主要な舞台装置である「ミッレリアのレース」とリンクさせながら映画は進んでいきます。



ミッレリアのレースは、この1957年のレースで一般の市民を巻き込んだ死者11人を数える大きな事故によって、この年を最後にスピードレースは廃止となっています。


フェラーリ社としてのレースの行方は、映画で見届けていただくのがいいとして、この結果にはまるで天国と地獄が両方同時に存在するかのような衝撃を観る人間に与えます。



これには、人間とは単純な成功も失敗もない、フィクションのように一筋の道筋が照らされるような簡単な人間活動というものはないと深く実感させられました。





登場人物の誰もがただのいい人、ただの悪い人ではない、混沌とした割り切れない何かを皆が抱えている、そんな人間として当たり前かつ創作としては描きにくい人間性を、恐ろしいほどストレートに描いているように感じられました。




一言では片付けられない恐ろしくも濃密で、時間を忘れてしまうほど映画の中に自分を置き忘れてしまう、そんな131分でした。





一つ、これから観ようかと悩んでいる方に、事故の悲惨なシーンが非常にリアルに描かれているので、そういうシーンが苦手な方はお気をつけください。










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