豊竹咲寿太夫
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生写朝顔話
イラストby咲寿太夫
笑い薬の段
東海道の宿場町、現在の静岡県中部の大井川の渡し場から発達した島田宿。
戎屋では下女たちが休憩がてら噂話に油を売っていました。
今泊まっている侍のうち岩代という男はとても悪そうな顔つきだけれど、もう一人の侍の駒沢はとても良い男で、女中の一人は給仕に行くたび自分の鮑が疼いて仕方がないと言いました。
そんな女中たちの話を耳にした手代の松兵衛がやってきました。
松兵衛は、そんな遠回りな据え膳よりも自分がいるじゃないか、と寄りました。
女中が拒むと、松兵衛は先ほどから話していることを旦那の徳右衛門に告げ口するぞと言い、自分の松茸があるじゃないかといやらしく詰め寄りました。
女中たちと松兵衛が騒いでいると、勝手口から徳右衛門とくえもんが呆れ顔でやってきました。
従業員たちに注意をすると、朝顔がやってきたら知らせるように指示をし、松兵衛を連れて次の用事に向かいました。
奥の間から萩の祐仙が出てきて、岩代に中継ぎをしてほしいと女中に頼みました。
女中が岩代に話を通すためその場を去り、やがて岩代が現れました。
佑仙は玄蕃からの状を差し出しました。
岩代は、何かにつけて邪魔な駒沢をどうにかする方法はないか、と佑仙に話を振りました。
祐仙は自分が調合した痺れ薬を取り出しました。
この薬を盛れば、一晩は死人同然に動かなくなるのです。
駒沢が素直に飲むとは考えづらい、と岩代が言うと、祐仙はさらに解毒薬を取り出して、これを服用してから痺れ薬の入った茶を先に飲めば、駒沢も警戒しないと提案しました。
素晴らしい案に岩代も満足すると、成功すれば報酬を渡すことを約束し、一旦その場を離れて行きました。
まず差し当たっての褒美と岩代から十両の大金を手渡された祐仙は一人ほくそ笑みました。
あたりを見回して人の気配がないことを確認した祐仙は痺れ薬を取り出すと、後で茶を沸かす時に用いる湯の中へ振り入れました。
そして祐仙は素知らぬ顔でその場を離れていったのでした。
誰にも見られていないと思っていた祐仙、実はその行動は徳右衛門に全て目撃されていました。
駒沢へ申し上げるのは当たり障りがあっていけない、と思った徳右衛門は湯を捨てて新しく入れ替え、そういえば昨日浜松で手に入れた「笑い薬」が手元にある、とその湯に笑い薬を忍ばせたのでした。
夕暮れ、家来を引き連れて戻った駒沢に、待ち構えていた岩代が歩み寄りました。
岩代は茶を一服付き合わないかと誘いました。
ほとんど押し付けるように誘う岩代の元へ、偶然を装った祐仙が茶箱を手に現れました。
これはいい所へ、と白々しく岩代は祐仙を迎え、駒沢のために茶を点ててくれないかと言いました。
しめしあわせた通り、早速祐仙は仰々しく茶を点てて、駒沢へ差し出しました。
そこへ徳右衛門が割って入りました。
殿様のご家来である駒沢に毒味をしていないようなものを差し上げ、何かあれば自分の落ち度になるから、滅多なことはなさらないようと言いました。
祐仙は、それなら自分が毒味をしよう、その代わり何も問題がなければ只では済まさないぞ、と言いました。
そして解毒薬をこっそりと飲み、何食わぬ顔で茶を飲み干しました。
解毒薬で何も問題がないと、笑い薬にすり替えられているとは露も知らない祐仙は、大きな顔をして徳右衛門に対して手討ちにすると詰め寄りました。
徳右衛門は平伏し、謝罪を口にしました。
約束だ、手討ちにする、とさらに詰め寄ろうとしたところ、祐仙は突然笑い出しました。
イラストby咲寿太夫
顔彩
何もおもしろおかしいことはないのに、笑いが止まりません。
岩代は、笑っていないで早く茶を駒沢へ差し上げるよう言いました。
はい、はい、と返事はするものの、笑いが止まらないどころか、どんどん過剰になっていきます。
何度も笑いを止めようと、腰を据えて体勢を整えようとするのですが、まるで無駄でした。
腹の底から湧き出るように笑いが止まりません。
仕舞いには、自分が医者だというのに、徳右衛門にこのあたりの医者を呼んでくれという始末です。
岩代は短気をおこし、笑い止まなければ手段は選ばないぞ、と力みかかりました。
それでも、笑い薬の効果は抜群で、祐仙の笑いは止め処を知りません。
息を弾ませて転げ回り、謝りながらもどうしようもなくなった祐仙は逃げるようにしてその場を離れていったのでした。
まさかの事態になった岩代は呆れ果てて仏頂面になってしまいました。
状況を考えると、徳右衛門が邪魔をしたに違いないと思いあたりながらも、まさか自分たちの用意した毒薬をどうしたと言えるわけもありません。
むしゃくしゃして当たり散らしながら、風呂に入ると廊下へ出ていきました。
駒沢も自分の部屋へと座を立っていきました。
豊竹咲寿太夫
人形浄瑠璃文楽
太夫
国立文楽劇場・国立劇場での隔月2週間から3週間の文楽公演に主に出演。
モデルとしてブランドKUDENのグローバルアンバサダーをつとめる。
その他、公演・イラスト(書籍掲載)・筆文字(書籍タイトルなど)・雑誌ゲスト・エッセイ連載など
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