文楽ファン感謝祭「文楽祭」の舞台裏。その②。10年に1度のメモリアルな公演で、咲寿太夫の裏側は? | さきじゅびより【文楽の太夫(声優)が文楽や歌舞伎、上方の事を解説します】by 豊竹咲寿太夫

 文楽祭②




▲天地会で三味線を弾いてみたくて、燕二郎くんに三味線を教えてもらいました。



6月はじめから、夏休み公演が始まるまでの約1ヶ月半。

この期間は腕がためをし続けました。


徐々に糸に撥があたるようになってきて、なんとか音がでるようになりつつありました。


と言っても、ギターと違ってフレットがなく、左手で糸を押さえる際の目安となるのは三味線の棹の継ぎ目のみ。



太い糸から一の糸・二の糸・三の糸と呼び、一の糸や二の糸は指の腹などで押さえることが多いのですが、いちばん高音の三の糸を押さえる時は爪で押さえることが多いということで、爪に糸の道を作らなければいけません。





この糸道で糸を押さえて弾きます。


前回の記事で、他の三味線に比べて撥が大きく重いと書きましたが、糸も三本ともかなり太いのです。


▲同じ三の糸でも写真で分かるくらい太さが違います。




爪が割れる割れる!

三味線弾きさんは爪が割れたり減ったりすることの対処法として、アロンアルファやネイル下地で爪を補強したりするそうです。




そうして、夏休み公演が始まる7月下旬。


この頃になると、弱々しく鳥が囀るような音だったのが、ある程度音と分かるくらいに重量を増してきたように思いました。




夏休み公演中に、天地会の配役が決まっていきました。




元々三味線のお稽古を経験されていた呂勢太夫兄さんに相談して、いちばん単純な手数の部位を弾かせていただけることになりました。



冒頭部、戸浪の言葉




    

「ことに今日は約束の子が寺入り、母御が連れてみえました」〜「いたいけに手をつかえ」



までの短い部分。

基本的に太夫の詞章を受けるようにひと撥ずつ弾いていくところで、メロディックなややこしい部位はありません。


夏休み公演中には燕三兄さんによる天地会三味線担当の人たちの稽古があり、丁寧に教えていただきました。



夏休み公演が終わってからは、腕がためをし続けながら、決定した箇所の練習をはじめました。







9月公演が始まるころには、たどたどしくはあるものの、一の糸・二の糸・三の糸をなんとか狙って弾けるようになり、決定した箇所を(空振りすることはありながらも)弾けるようになりました。


音色はもちろん初心者のそれですが。笑




9月公演が始まると、天地会で三味線を弾く人向けに、いつでも使える三味線が用意され、楽屋の端っこで天地会三味線メンバーが音を鳴らすことが増え始めました。


三味線弾きさんに助言をもらえる機会も増えて、9月の半ば。

なんとか本番も間違えずに弾けそうだなあと思い始めた頃でした。


ぼくの弾く箇所の直前を弾くことになっているのが玉佳兄さんなのですが、その玉佳兄さんから半分弾いてくれへん?というお願いがきたのです。



本番まであと1週間!


しかもその箇所というのが、よくある手数ではあるのですが、初心者には恐ろしく難しいメロディを伴うような手数だったのです。



これによって、弾くボリュームが倍増!


決死の覚悟で(笑)、練習に取り掛かりました。



「世話甲斐もなき、役に立たず」

と、思ひありげに見へければ


心ならず女房立寄り


「何時にない顔色も悪し。振舞ひの酒機嫌かは知らぬが、山家育ちは知れてある子供、憎体口は聞へも悪い。殊に今日は約束の子が寺入り、母御が連れて見へました。悪い人と思ふも気の毒、機嫌直して逢ふてやって下され」


と、小太郎連れて引合せど

さし俯いて思案の体

いたいけに手をつかへ



の場面が最終的な担当箇所になりました。



撥を持つ手首は痛いわ、小指に撥ダコができて痛いわ、三味線の胴を押さえる右手の肘は痛いわ、糸を押さえる指の腹に水ぶくれができて痛いわ、そんなこんなの痛みにうんうん言いながらも、宗助兄さんに教えていただき、燕三兄さんにもう一度教えていただき、4日ほど。


増えた箇所もなんとか音を出すことができるようになったのです!





そうして、本番をむかえることができ。。。。




いえ、もう一波乱。





本番の3日前。

一門の南都兄さんが足をお怪我され、天地会は出られそうにない!という緊急事態が!!!


南都兄さんの担当は前半の源蔵の人形の主遣い。





いったい、どうなる。。。!!???





▶︎一門の欠員の代役!弟弟子の咲寿太夫に。2日前の決定。ピンチ!!その③に続く!!



 





 

 

 

 



とよたけ・さきじゅだゆう:人形浄瑠璃文楽
 太夫
国立文楽劇場・国立劇場での隔月2週間から3週間の文楽
公演に主に出演。


その他、公演・イラスト(書籍掲載)・筆文字(書籍タイトルなど)・雑誌ゲスト・エッセイ連載など
オリジナルLINEスタンプ販売中

 

 

 


豊竹咲寿太夫
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