10分でわかる菅原伝授手習鑑03初段「筆法伝授の段」 | さきじゅびより【文楽の太夫(声優)が文楽や歌舞伎、上方の事を解説します】by 豊竹咲寿太夫

 10分でわかる菅原伝授手習鑑









初段

03

筆法伝授の段


◀︎02 加茂堤の段





かつて菅原道真の元で幼い頃から奉公し、筆の技術を教わっていた男がいました。

彼、武部源蔵は、当時同じ御殿で働いていた腰元の戸浪と恋仲になり、道真のもとを勘当となっていたのでした。

それから四年、武部源蔵は戸浪と夫婦になり、村の子供たちに手習いの指導をしていたのでした。



そんな武部源蔵の元へ菅原道真の家来がやってきて、御殿へ参上するよう伝えたのです。

思ってもみなかったことに身をこわばらせて、菅原道真の元へ戸浪とともにやってきたのでした。





\咲寿太夫まめめも/

▼菅原道真のお芝居はタカラヅカにも!

マンガ「応天の門」





戸浪は出迎えた御台とともに残ると、武部源蔵は菅原道真がいる奥の間へと入っていきました。

四年ぶりに対面する主君だった菅原道真に、武部源蔵は嬉しさと怖さに汗でぐっしょりでした。
いったい何故呼ばれたのだろうと思っていると、菅原道真は書道用具が用意された白木の机を武部源蔵に差し寄せると、詩歌を手本にして漢文とかな文を書いてみよと言いました。

すると物陰で事を伺っていた兄弟子の左中弁希世が出てきて、帰れと言いました。
武部源蔵は状況が呑み込めず困惑していました。

菅原道真は五十二歳、唐にまで名高い道真の書道の一流を正統に伝授された者はいません。

帝はこのまま一代限りで絶やすのは残念だ、と道真に弟子の中からひとり筆法を伝授するものを定めるようにと勅定があったのでした。


左中弁希世が帰れと迫ったところを、菅原道真は帰らなくてよいから書いてみよ、と武部源蔵に命じました。



希世が口汚く源蔵を罵り、偶然を装って机を動かしたりするのも構わず、源蔵は机に向かって筆を取りました。



\咲寿太夫まめめも/

▼ちなみに・・・

自分が床本を書く時にいつも使っている墨汁はコレ




書き上げた清書を菅原道真は手に取ると、非常に満足した面持ちで、筆法を伝授するのは源蔵に決めたと言いました。

ただし、勘当はそのままで、これからも主君と家来ではないときっぱりと言い放ちました。


武部源蔵は伝授は他の方で良いので、勘当を赦してくださいと嘆きましたが、道真は赦しませんでした。



そんな折、道真に急遽参内するようにと役人が伝言に来たということで、道真は着替えるために出て行きました。





御台が入ってきて、武部源蔵に目で自身の打掛に戸浪を匿っていることを知らせました。




\咲寿太夫まめめも/

▼打掛などは足が見えないよう引きずる形になるものが多い。






菅原道真の急な参内に、正式に対面することができない戸浪がひと目でも道真を見ることができるよう、打掛に隠して入ってきたのでした。


正装して戻った道真は武部源蔵に帰るように命じました。

御台は打掛の隙間から戸浪を覗かせると、道真もそれを察しましたが、あくまで知らないふりをして出ていこうとしました。

すると、何かが触れたわけではないのに、道真が被っていた冠が自然と落ちました。

道真はそれを受け止めると、これは不吉と思いましたが、冠を正すと参内するためその場をあとにしたのでした。



\三浦しをんさんの菅原伝授手習鑑/





築地の段

に続く





 

 

 

 



とよたけ・さきじゅだゆう:人形浄瑠璃文楽
 太夫
国立文楽劇場・国立劇場での隔月2週間から3週間の文楽
公演に主に出演。


その他、公演・イラスト(書籍掲載)・筆文字(書籍タイトルなど)・雑誌ゲスト・エッセイ連載など
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豊竹咲寿太夫
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