心中宵庚申
心中ものというと、だいたい不倫をした夫や彼氏がその不倫相手と心中をしてしまいます。
200年300年も前から不倫や愛人問題を題材にしたものは数字がとれました。
いろんな不倫芝居があります。
よくあるのは遊女との不倫。
今も不倫が発覚して仕事ができなくなるという話はよくありますよね。
どうしようもなくなって愛人と共に命をたってしまうのです。
実話からフィクションまで挙げ始めたらキリのない話題ですが、今日は不倫の話ではありません。
相思相愛なのに心中した夫婦の話。
近松門左衛門作
嫁姑問題
夫の半兵衛は三十代後半。
妻の千代は二十代後半。
半兵衛の生まれた家は元々は武士の家だったのですが半兵衛は幼少期に町人になって奉公に出ました。
その後父が亡くなり、半兵衛は二十二歳で八百屋の家の養子に入りました。
そして半兵衛は結婚、千代と夫婦になりました。
ふたりは相思相愛です。
たくさんある他の芝居ではここから夫がお茶屋へ遊びにいくようになり、遊女と不倫をするようになってしまいます。
が!この芝居では夫は遊郭へ行くわけでも愛人をつくるわけでもありません。
それがどうして心中をしてしまったのか!
それは
これも昔から今に至るまでそこかしこで起こる問題のひとつですよね。
半兵衛の養子先の養母が千代を嫌っています。
半兵衛が遠出をして長く家をあけるときを見計らって、千代に「離婚しろ」「家を出ていけ」と迫りました。
この日も千代は姑に家を追い出されて、実家へと戻りました。
夫の半兵衛は実の父の十七回忌で故郷の浜松へ帰っています。
戻ってみると、父が急病で寝込んでいました。
姉が看病しています。
お腹に赤ちゃんがいる身で、夫が里帰りで留守にしているところを追い出されたことを聞いた家族は不憫に思いました。
父は半兵衛が留守にしているのも姑が離婚を迫ることを分かっていてわざとだ、と怒ります。
そんなところへ、浜松からの帰り道の半兵衛が千代の実家へ何も知らずに立ち寄りました。
火の中へわざわざ飛び込んだようなものです。
千代は何も言わずに奥へ引っ込みました。
ここで思い出していただきたい▼
半兵衛は千代が好き
本来相思相愛
そんな半兵衛、ここではじめて自分が留守にしているところを千代は姑に家を追い出され離婚を強要されたと知りました。
半兵衛は申開きがたたない、と半兵衛は自害しようとします。
その様子をみた千代の父、自害をしては半兵衛の養母への面当てにとらえられかねないと半兵衛に意見しました。
半兵衛は自害を思いとどまり、千代の父は半兵衛が千代と一生添い遂げて二度とこのような形で戻ることのないよう半兵衛と盃をかわしました。
半兵衛と千代は大阪に帰ると、千代は姑から距離をとるためにいったん従兄弟の家の預かりになりました。
半兵衛は母にバレないように千代と会っていたものの、結局バレてしまいます。
半兵衛が千代に会いに行こうとしたところを母に止められ、半兵衛を罵りました。
半兵衛は千代の父とも誓いをたてた通り、千代と一生添い遂げるつもりでいます。
しかし、養母には養子になってから面倒もみてもらい、実の甥ではなく養子である自分に家業を継がせてもらった大きな恩があるのです。
侍カタギな半兵衛はその恩を仇で返すこともできません。
どうしようもなく千代を嫌う母を前に、感情の板挟みに半兵衛は大きな決意をかためました。
それは、
養母には、自分が留守の時に離婚を言い渡した状態のままでは世間に悪い噂がたつので、千代には自分から離婚を言い渡すと言いました。
千代には、母の前で離婚を言い渡すけれどそのまま一緒に死んでくれ、と言いました。
そして半兵衛は養母の前で千代に離婚を言い渡し、その夜、死装束となって千代と心中に出ていきました。
宵庚申ってなに
干支のかのえさるの日に徹夜をする行事。
この夜眠ると早死にするといいます。
この夜はお経をとなえたり食事や歓談をして夜を明かしました。
早死にをしないための日に死ににいく二人、
その対比がより観客の涙をさそったのではないでしょうか。
嫁姑問題でどうしようもなくなり、死ぬしかなくなった夫婦の物語。
これは実話から作られた物語です。
とよたけ・さきじゅだゆう:人形浄瑠璃文楽
太夫
国立文楽劇場・国立劇場での隔月2週間から3週間の文楽
公演に主に出演。
その他、公演・イラスト(書籍掲載)・筆文字(書籍タイトルなど)・雑誌ゲスト・エッセイ連載など
オリジナルLINEスタンプ販売中
豊竹咲寿太夫
オフィシャルサイト
club.cotobuki
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