こんにちは。
人形浄瑠璃文楽の太夫、豊竹咲寿太夫です。
さきじゅ、と呼んでください。
今日は人形浄瑠璃の太夫・三味線・人形のうち、人形についてお話ししたいと思います。
文楽人形は精巧
操り人形は英訳するとpuppetになり、お子さま向けのデフォルメされた両手サイズの人形を想像されることでしょう。
しかし、文楽の人形はとても精巧に作られており、頭身も人間の比率、大きさは1メートルから大きなもので1メートル50センチほど、長袴を履いたりすると、もはや人間よりも大きいという程の大きさです。
衣装が絢爛になると、その重量もかさんできます。
やはり、遊女(傾城)の衣装などは相当重いそうです。
さて、そんな人形は世界でもたいへん珍しい遣い方をします。
三人遣いです。
頭と右手を操作する
主遣い
左手を操作する
左遣い
足を遣う
足遣い
この中で指示を出して他の2人を統率する役割となるのが主遣いの人です。
その指示というのは、普段の所作の中に紛れていて、太夫や三味線弾きですら分かりません。
そうなんです。
文楽の三業は完全に専門職で、それぞれ太夫はずっと太夫、三味線はずっと三味線、人形はずっと人形なのです。
人形遣いの方々は、まず足遣いから修行を始めます。
足遣い15年
左遣い15年
でようやく主役級の役の主遣いを担えると言われています。
もちろん、その間主遣いを全くできないわけではなくて、端役や子役の主遣いで先輩方に左や足を遣っていただきながら、修行を重ねていくわけです。
太夫も三味線も人形遣いも、メインをはれるようになるのは50代から60代になってから。
カシラのデザイン
そんな人形ですが、役柄や役の性根によって、使用する顔のデザインが決まっています。
あたまの部分全体をカシラと言い、首と書きます。
ここからはそのカシラの紹介です。
まずはこちら。
主役で用いられることが多いカシラです。
悲劇的な時代物に用いられることが多く、代表的な役柄は菅原伝授手習鑑の松王丸や、絵本太功記の武智光秀です。
眉毛が動き、眼球も動くようになっています。
いわゆる、見得を切る時に、眉があがり、目が寄ります。
普段、文楽人形の表情というのは変わりません。
人形遣いの方々の技術力でそこに表情があるように見えるのです。
その技術は能面から受け継がれていて、現代ではキティちゃんに受け継がれています。
さて、そんな文楽人形の中でも、口が動く仕掛けが施されているものがあります。
物を食べたり喋ったりする時に使う仕掛けではなく、「笑う」時に使います。
特にこの文七のカシラにその仕掛けがつくと、時代物の悪役が大袈裟に笑う「大笑い」という笑いに使われます。
次にご紹介するのはこちら
こちらは青年でシュッとした男性(笑)に使われることが多いです。
このカシラは比較的、時代物でも世話物でも使われるカシラです。
ただし、時代物で使われるときは髷はきっちりと切りそろえられていて、世話物で使われる時は無造作に纏められていることが多いです。
武士と町人の格差や流行りの違いですね。
代表的な役は
曽根崎心中の徳兵衛
義経千本桜の狐忠信
などです。
その他、このカシラは世話物の主人公などでよく登場するので、目にする機会は多いです。
今日は主役級のメンズたちでした。
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