10分で分かる「心中天網島」あらすじその2【天満屋紙屋内の段】上 | さきじゅびより【文楽の太夫(声優)が文楽や歌舞伎、上方の事を解説します】by 豊竹咲寿太夫

https://www.ntj.jac.go.jp/schedule/kokuritsu_s/2019/9128.html
国立劇場令和元年九月公演チラシより引用


10分で分かる心中天網島





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その2
「天満屋紙屋内の段」上





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曽根崎新地、天上界のような女郎たちの張り見世から下っていくと突き当たるのが天神橋。


天上界から下りた神の橋、と書く。


大坂天満宮の御前町、神の御前に並ぶ店見世。紙屋治兵衛の商いは紙見世である。
千早振る神代の時代かと思えるほどに繁盛していた。
千早振る紙屋である。

というのも、場所柄、紙はよく売れたのである。

紙屋は歴代の老舗だった。





治兵衛は炬燵でうたた寝をしていた。

外は参詣人たちの人通りで溢れている。
店も家事も一手に引き受けている女房のおさんの気配りで、うたた寝の夫は枕屏風の向こう側にいた。

二人の子どもたちは下女の玉と三五郎と共に出かけていた。



と、六歳になる上の子の勘太郎がひとりで帰ってきた。
四歳のお末はいない。


続いて、三五郎がのらのらと帰ってきた。


「三五郎、お末はどこや」
「あれ? ほんまや、おらへん。どこやろ。たずねてきましょうか」
何をしてるんや、大事な子を


と喚いているところへ、下女の玉が背中にお末をおぶって帰ってきた。


「愛しや愛しや。三五郎、守りするならちゃんとしなさい!」
叱りつける。

おさんは勘太郎とお末を炬燵に入らせると、
「玉、その阿呆をこたえるように拳を食らわしてやりなさい」
と言った。

すると三五郎は「たった今、お宮で蜜柑を二つずつ食べさせて、おれも五つ食うた」と軽口をたたいた。



阿呆を前に、もはや二人は苦笑いをするしかなかった。

「おさん様、阿呆にかかってばかりで忘れとりました。
西の方から粉屋の孫右衛門様と叔母様がお越しになっております」

「そしたら治兵衛を起こしましょか」

おさんは炬燵に寄り添い、治兵衛の身体を揺らした。

治兵衛はむくりと起き、孫右衛門が向かっていると聞くと、即座に算盤と帳面を引き寄せた。

そこへ、孫右衛門が叔母と共に店へ入ってきた。

「おお、兄よ。叔母様、よくお出でなされた。

お入りくだされ。

わたしはちょうど計算をしているところで、煙草でも呑んでお待ちください。

勘太郎、ばば様とおじ様がお越しや。
煙草盆もっておいで。

ああ、おさん、お茶をお出しして」


と治兵衛は口早に指図した。

それを叔母が止めた。
「いやいや、今日は茶も煙草も呑まん。

おさん、いくら若いといってもお前も二人の子の親や。
男が財産を潰して、離婚となっても、男ばかりの恥やないで。

もっと目を配って、心を引き締めなさい」


治兵衛を目の隅に、叔母はおさんにそう進言した。
どうやら、二人は腹立ちの様子である。


「叔母様、つまらんことを言わんでください。
兄のわたしでさえ騙すような男です。女房の意見など聞くような男ではありません。

おい、治兵衛、あれから十日もたたんのに、何がまた請け出すの何のと言うてるらしいな

計算をしているのは何だ。

小春の借金の計算か」


治兵衛に孫右衛門が詰め寄って算盤を奪い取り、庭へ投げ捨てた。


「な、何を言うてるんや、おれは敷居から一歩も出てへんぞ」

「はぐらかすな。になっとるわ。

紀伊国屋の小春を今日明日にも天満の大尽が請け出すとな。

親父の五左衛門殿は、紀伊国屋の小春に天満の大尽ときたら治兵衛に決まっている、娘のさんが大事だ、取り返そうといきんで家を出ようとしたところを、おれは押しなだめて来たんや」

「むう、小春は小春やろうけれど、請け出す大尽はおれやないで。

兄貴も知ってるあの太兵衛やろう。

あいつは妻子ももたん奴や。

金は伊丹の家からいくらでも出せる。
ようやく、ええ時期やとばかりに請け出す事を決めたんやろう。

おれたちには関係のない話や」

と治兵衛が言うと、おさんも頷いた。

「こればかりは夫に嘘はない。母様、わたしが証拠人です」

二人が強くそう言うので、叔母と兄は心を休めた。

「まあ、ものには念を入れたい。

治兵衛、頑固な親父のために疑いを晴らすための誓紙を書いてくれ」

千枚でも書く」

その治兵衛の返事に、孫右衛門は懐から熊野の厄除けの護符を取り出した。

この裏に起請文を書くのがもっぱらである。


これまでは小春との色恋の誓紙だったが、今回は違う。

小春と縁を切った、思いを切った、神に誓って偽りではない、と。

治兵衛は文言に名前を添え、血判を押して孫右衛門に手渡した。


「母様、これでわたしも心が落ち着きました。子まである間柄で前例のないような誓文やけれど、皆さま、喜んでくだされ」

おさんも喜び顔である。

「もっともやのう。
治兵衛、その気になればまた商売も元どおり軌道に乗る。
親族が皆手を焼いているのも、よかれと思ってのことやで。

さあ、孫右衛門、帰ろうか。

早う帰って、親仁を安堵させよう。

治兵衛、おさん、だんだんと冷えてきた、子どもに風邪ひかしなや」


頑固な五左衛門とは裏腹に、素直で仏のような叔母だ。


そうして、二人は治兵衛の起請文を手に帰っていった。





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***






相も変わらず治兵衛は炬燵でごろりと寝転んでいた。

治兵衛がくるまっている格子柄の炬燵布団を見て、まだ曽根崎のあの格子の店を忘れられないのか、とおさんは呆れる。



立ち寄ると、布団をひきはがした。


治兵衛は枕に涙が伝うほど声を押し殺して泣いていた。

思わずおさんは治兵衛を炬燵から引き起こした。

あんまりや、治兵衛さん。

そんなに名残惜しいのなら誓紙を書かなければいいのに。

一昨年の十月の炬燵を出した時から、わたしは鬼か蛇か、二年も布団を空にして、ようやく母様と叔父様のお陰で夫婦生活が始まるかと思ったのよ。

それを楽しむ暇もなく、ほんとうにあなたは連れないわ。
むご
いわ。



そんなに心残りなら、泣けばいいわ。

どうぞお泣きなさいな。



涙が溢れて、蜆川に流れたら、小春が汲んで飲んでくれるわよ



とうとうおさんも堪えられなくなり、抑えていた涙を流していた。


治兵衛は涙を拭っておさんと対峙した。

「おさん、勘違いをさせてしまった。
あの人の皮を着た畜生への名残りはない。

太兵衛が請けだそうとしても、金のために添うことができない運命になるくらいなら死ぬ、ともっともらしく言っておきながら、見てみぃ。

たった十日で、太兵衛に請け出されるとは。

あの女の腐った心底が見えた。


それにあの太兵衛のことや、これから大坂中を『治兵衛は金がつきた』だのと言って触れ回って歩くに違いない。

付き合いの深い問屋中にも生き恥をかくことになる。


そう考えると、胸が裂けるようや。

女狐恋しい涙やない、口惜しい無念の塊の熱鉄の涙や」



苦しい心の内を吐露した夫をみて、おさんは、はっとした。














「・・・治兵衛さん、そうしたら、小春は死ぬ気やわ・・・」












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