光っていいなあ
ずっと見ていたくなる





*アメブロって画像が縮小されてしまうので、光が潰れてしまって残念です
『私』は、無限の宇宙に広がり、隅々まで感じる事ができた。
愛・憎悪・安心・恐怖・祝福・嫉妬・苦痛・快感・・・
あらゆる感情、あらゆる感覚が溶け込んでいる。

大きなうねりに翻弄され、一喜一憂する魂。
不幸のどん底だと悲観しているすぐ傍に幸福の渦があったりする。
天国も地獄も入り乱れ渾然一体となっている宇宙。
天国の渦にいて嬉々としてる魂も、いずれ、別の渦に遭遇する。



様々な魂を傍観していた『私』は、ふと、林檎が食べたいと思った。

「健二。あなたの期待通りだったかしら?」

「もちろん、それ以上だったよ。杏奈。」

「こんな質問、馬鹿げていると言われそうだけど…」

「言わなくても解っているよ。君を愛している。
 ここでなら永遠と言う言葉がぴったりだろ。」

「一度はあなたを裏切ってしまったのに…」

「君は他の可能性を探そうとしただけなんだよ。
 選択肢が僕だけじゃなかった。それだけの話さ。」

「あなたは、いつも優しかった。
 私はあなたの為に、一生懸命尽くしたわ。
 でも、あなたは愛するふりをしながら、
 私を見てはくれなかったの。」

「杏奈、君の事が重荷だったんだ。
 尽くしてくれた君を
 裏切ってしまった事を後悔している。」

「あんなに愛していたのに…」

「諦め切れずに君を追いかけた、
 その手を振りほどいて君は歩道から飛び出した。
 そして…」

「あなたの背中の温もりが好きだったの。」

「もう、俺の事は忘れてくれ。」

「今とても幸せよ、健二。
 お腹にはあなたの赤ちゃんが…」

「あんなに愛していたのに…
 もう、二度と会えないなんて…」

「健二っ!
 いつもゴロゴロしてないで、たまにはどっか連れてってよっ!
 もお~~~っ!!」

「痛っ!!
 亭主を蹴飛ばすんじゃねえっつうの!」

「必ず幸せになろうね」




『私』の愛した杏奈の存在する世界は、無数に存在した。
当然ながら無数の結末が存在する。
ハッピーエンドで終わらなくてもがっかりする事はない。
どの結末も間違い無く存在するのだから。
うおおおぉぉぉぉぉぉぉぉ

ぐわぁぁぁぁぁぁ あっ

かはっ  ぬぅん  ぎ



その衝撃は凄まじいものだった。
苦しさではない、
快感でもない。
全てを超越した経験したことのない感覚。

自分の意識が宇宙に拡散していく。
それと同時に宇宙の意識がもの凄い勢いで自分の中に流れ込んで来る。

今までの認識は覆され、時間も空間も意味を為さなくなった。
始まりは始まりでなく、終わりは終わりでない。
存在する場所は“ここ”でなく、ありとあらゆる場所に同時に存在した。
疑問は瞬時に理解でき、無限の可能性を内包していた。

肉体はエネルギーを留める為の器であり、それ自体が大きな枷になっている事を理解した。

かつて『私』であったものは、肉体を持っていた時に得た全ての感情、全ての感覚を放出する事によって、宇宙との融合を完了した。
忍び寄る死神の足音が立ち止まり、大鎌の振り下ろされる音が聞こえた。
そして、私の首は飛んだ。
・・確実に飛んだ・・・筈だった。


瞳を開くと、安らぎを覚える液体の上に、自分が対座していた。

「もう」
 もう
「恐怖など」
 恐怖など
「ない」
 ない

対座している自分とそれを見ている自分が、迷いのない言葉を発する。
このまま液体の中に溶け込んでいけば、自分と宇宙が一体である事を実感できるだろう。
そしてそれは、とても素晴らしい事に思えた。

私の体は、ゆっくりと液体の中に溶け出し、融合していった。
『恐怖』の二文字が脳裏をよぎった時、奴はやって来た。

死神!!

逃げなければ・・
咄嗟に体が反応する。
・・が、しかし、逃げる方向に恐怖は潜んでいた。

だ、駄目だっ。はぁはぁ。
囲まれてしまった。もう逃げ道など無い。

そう悟った時、死への恐怖は開き直りの気持ちへと変化していった。

「人間一度は死ぬ身、命が欲しければくれてやるっ!」

私はその場に座り込み、瞳を閉じた。

死神の足音が忍び寄る・・・

状況を理解しようとした瞬間、声無き声が心に響いてきた。


は お前 の 精神 が投影さ れた世界

見る もの全ては お前自 身が産み出し たもの

恐 怖の世界を産み 出せば 自らの手で自 分を




「お前は何者なんだっ!?」
ぐわんぐわん響く声に思わず叫んでいた。



俺 は お 前 だよ



事の発端は、“靄の向こうに何があるのか?”とういう些細な好奇心からだった。
田舎道を靄の方向へ進んで行くと「道」は寸断され、行く手は阻まれていた。
しかし、私の好奇心は引き返す事を拒み、命の危険も顧みず、暗雲立ち込める未知なる世界へ飛び込んだのだ。
気が付くと灰色の支配する世界から開放されて、緑の光と共に、見たことも無い世界に降り立っていた。