少し大きい声/色々な十字架
1. 6年生を送る会
2. 蜜
3. 大きな大きなハンバーグ
4. TAMAKIN
5. 花言葉がうまれる会
6. 機械じかけの変態~ラケット女王様~
7. 凍らしたヨーグルト
8. グローリー・デイズ
9. スイミーはそういうことではないです
10. ご飯が食べられる古書堂で
11. 良いホームラン
90’sヴィジュアル系リバイバル・バンド、色々な十字架の1stフルアルバム。
遂にリリースされた、単独音源としては初となるCD作品。
初回限定盤は、スリーブケース、24ページ写真集ブックレット、メンバーヴィジュアルカードが付属するかなり耽美な仕様。
スリーブケースには定価4,500円の表示がある一方で、プラケースには定価3,000円と記載されているので、CDそのものは同一と思われます。
ダウンロード/ストリーミングでも聴くことが可能ですが、このバンドのコンセプトや音作りからすると、やはりCD用のミックス/マスタリングのほうがしっくりきますね。
既存曲5曲を含むとはいえ、それ以上の新曲が収録され、充実の内容。
90年代後半から00年代初頭にかけてのヴィジュアル系を再現するアプローチをとりつつ、ポリコレが叫ばれる時代において倫理観がバグった歌詞を真顔で歌い上げるシュールさが、市民権を得てしまったのだから恐ろしい。
1曲たりとて捨て曲がなく、緩急つけてバランスも確保。
ダークに疾走する王道曲を中心に据えつつ、「機械じかけの変態~ラケット女王様~」のようなインダストリアルな質感を求める楽曲や、壮大に展開するミディアムナンバー「スイミーはそういうことではないです」など、アクセントにも気を使っていて、シーンに愛が泣ければこれは持ってこれないだろ、と古参ファンも唸らせる構成を実現しています。
彼らは、タイトルや歌詞のナンセンスっぷりから、V系コミックバンドの系譜に数えられるのでしょう。
しかし、アルバムを通して聴いてみれば、その見え方が少し変わってくるのでは
というのも、彼らの音楽性には一貫性があり、笑いを優先して曲構成に捻りを加えたり、わかりやすいオマージュを持ってくるのは避けている印象なのですよ。
曲に仕掛けを用意したり、ライブでのパフォーマンスを前提にしたり、MVにネタを仕込んだりするのは、コミックバンドが新鮮味を維持するためにはむしろ必須な努力。
歌詞だけで笑いを取ろうとするには相当な胆力が必要で、ともすればマンネリになってしまいかねないのですが、彼らは徹底して、曲はガチ、歌詞はふざける、を遂行しているのです。
また、"90年代っぽい"という感覚は強く感じる一方で、具体的にどのバンドが下地にあるね、参考にしているね、というのがあまり思い当たらないのも特徴。
シーン内の懐古主義的バンドとは、この点で大きく異なっていて、90年代ヴィジュアル系やバンギャル文化の知識量ありきでの面白さではないのですよね。
その意味では、この特異な凶暴性は、ネタではなく色々な十字架の世界観と言える。
逆張りして、真面目な歌詞を挟んでくるみたいなことをしていないのも、それを裏付けていました。
強いて言うなら、リード曲の「TAMAKIN」は、大部分が歌詞も含めてヴィジュアル系ど真ん中を狙いに行ったように見せかける内容。
ただし、歌い尻のたった一言で台無しに。
結果的に、もっともネタ色が強まっているので、正々堂々、タイトルで種明かしをした潔さに拍手を贈りたいです。
新たなジャンルを切り開いたと捉えることもできそうな珠玉の1枚。
<過去の色々な十字架に関するレビュー>