Cry For The Moonlight/el:cid
1. Cry for the Moonlight
2. Crying Limit
3. 2020 (Noise Guitar O.4.D)
1992年から1996年まで活動していたel:cid。
本作は、過去のデモテープ音源にリマスターを施したデジタルシングルです。
CDの制作途中で活動休止となってしまったため、残された作品が少なかった彼ら。
発表された音源についても入手困難となっており、軌跡を追うことが難しかったのですが、2020年になってデジタル音源として聴くことができるとは。
各種、サブスクリプションサービスでも配信されていて、容易に聴くことが可能となりました。
ビートロックをベースにしつつ、ポジパン由来の退廃的な世界観や、キーボードを加えてのグラマラスなサウンドを掛け合わせた柔軟な音楽性。
黎明期のヴィジュアルシーンにおける王道的なアプローチの中に落とし込んでいますが、個性化するための武器を並行して磨いていたことが伺えますね。
もう少し活動期間が長ければブレイクスルーも生まれていたのでは、というポテンシャルを感じさせます。
例えば、「Cry for the Moonlight」は、シンセのサウンドを積極的に取り入れることで、ポップさを取り込むことに成功。
ミディアムテンポでもダレることがない、華やかなナンバーに仕上げていました。
「Crying Limit」についても、ソリッドさを増して、ダークチューンとして機能している一方で、キャッチーさを両立。
後から振り返ればベタなフレーズも多く見られますが、玉石混交、どれが当たるかわからない中で、的確に王道として残っていくものを選択しているセンスは、再評価されるべきでしょう。
"Cry"繋がりで、この2曲を並べた意図も勘繰りたくなる等、作品の奥行きを生み出しているのもニクい演出ですよ。
そして、BEASTのGt.NAGANOさんが、O.4.D名義で参加した「2020」。
タイトル的に、新曲なのかな。
これがドリーミーなサウンドと、浮遊感のある世界観で、ギターがこんなにもノイジーであるにも関わらず、心地良さを感じさせるel:cidの進化系。
王道的スタイルから個性化への過程の中で、辿り着いていた世界線<if>のひとつとして捉えてみると面白いかもしれません。
デジタルリマスター版とはいえ、音質は当時のデモテープが元となっているため、決して高クオリティとは言えないのも事実。
しかしながら、ここは四半世紀以上前の作品が、こうして現代に届けられるという奇跡に想いを馳せたいところです。
現在は、公式Twitterにて1stCT「くもり硝子の街並み」のデータプレゼント企画をやっていたりもするので、本作が気に入った方はお早めに。
欲を言えば、公式のYouTubeチャンネルに公開されている未発表音源も含めた、完全新作なんかにも期待したいものですが、いかがでしょうか。